能京高校/灼カバ 最後に会計を済ませた人見が、定食屋から出てくる。
「じゃ、帰んぞ」
その場のカバディ部一年生たちに顎をしゃくって、宵越はくるりと踵を返した。歩き出すと、すぐにすれ違う人が肩にぶつかる。軽く頭を下げてて通り過ぎていったOL風の女性を見ながら、宵越は呟いた。
「なんか人多くねーか?」
「そりゃそうだよ。だって今日、イブでしょ」
「は? ああ……?」
関の言葉に、戸惑いながら宵越は頷いた。今まであまりに縁がなさ過ぎて、すぐには理解できなかったのだ。
そんな宵越を置いて、他のメンバーたちは色めきたつ。
「駅前にイルミネーションがあるらしいから、せっかくだから寄って行かない?」
「いいね、見たい見たい!」
「おお、そりゃいいなあ!」
関の提案に、楽しそうに頷く人見と畦道。
「畦道君は彼女さんとデートしないの?」
「お、おお。今日は部活があったからよ、明日に会う約束してるべ」
照れ臭そうに鼻の下を擦る畦道に、カッと宵越が目の色を変えた。
「アアアーーーーッ!」
「急に暴れるのやめてよ宵越君!」
襲い掛かろうとする宵越を、慌てて人見が羽交締めにする。それを手伝って宵越の腕を掴みながら、伴がボソボソと囁いた。
「おお宵越! 伴がおめえにクリスマスプレゼントあるってよ!」
畦道の翻訳に合わせて、伴は頬を染め、綺麗にラッピングされた包みを差し出した。
「何が悲しくて男からもらわなきゃいけねーんだ!」
叫ぶ宵越にはもう慣れた様子で、関が再び畦道に尋ねる。
「彼女さんへのプレゼント大丈夫だった?」
「ああ、もうバッチリだべ! 相談に乗ってくれてあんがとな、関」
「テメーーらーーーー! なんで俺には言わねーーんだよ!」
「聞くはずないじゃん……」
「人見! なんか言ったか!?」
「な、何にも言ってないって! 宵越君、ステイステイ!」
必死に宵越を押し留める人見。人々はそれを物珍しげに、または迷惑そうに見やりながら、距離をとって通りすがってゆく。
その中で、彼らに近づいてくる人影があった。
「お前ら街中で何騒いでんだよ」
「副部長!」
呆れた声が聞こえて振り返る。そこには、かつてカバディ部の副部長であった井浦が立っていた。
「もう副部長じゃねーって」
「やあ、みんな元気そうだね〜」
その後ろから、王城も姿を現した。相変わらず平時はののんびりとした様子で、後輩たちにひらひらと手を振ってみせる。
「こんなとこでどうし——はっ、まさか誰かと待ち合わせとかじゃねーだろーな!」
疑心暗鬼に取り憑かれた宵越に、井浦は冷めた目を向けた。
「受験生にクリスマスなんかあるはずねーだろ。予備校の帰りだよ」
そんで——井浦は続け、後ろに回していた手を掲げた。
「差し入れに持ってってやろうと思ってたんだが——」
『それ』に真っ先に反応したのは宵越だった。井浦が手にした白い紙の箱、クリスマス——野生の勘が、一瞬でその中身を導き出した。目の色を変えて、犬のように首を突き出す。
「でもお前ら忙しそうだな。二人で食うか、正人」
「あはは」
「いーや! めちゃくちゃ暇だぞ! な、畦道!」
「うっ……く、苦しいべ……」
無理やり畦道の肩に腕を回し、肩を組むと言うよりは首を絞める宵越。
変わらない後輩たちの姿に、笑いを堪えきれず、震えながら井浦は告げた。
「ほら、さっさと二年も呼べ。正人の部屋集合な」
『あざーっす!』
一年生たちの声が綺麗に合わさった。