佐倉と右藤/灼カバ「うわっ、全然片付いてねーじゃん!」
それが勢いよくドアを開けた親友の第一声だった。
「ヒロ!?」
佐倉は思わず手に持っていた本をバサバサと落として叫び声を上げた。ノックもなく自室にズカズカと入り込んでくる右藤に、目を白黒させながら。
「どうしたの、いきなり」
「お前の母ちゃんから頼まれたんだよ。引越しの準備が終わらないみたいだから手伝ってやってくれって」
「また人の親と……」
平然と答える友人に、佐倉は冷や汗を垂らす。しかしそんな彼のことは気にせず、右藤は部屋を見渡した。
「引越し明後日だろ? こんなんじゃ終わんねーだろ」
「う……」
未だ物が散らばる部屋を背に、その自覚はあったのだろう。佐倉は大きな身体を縮こまらせて項垂れた。
「ダン箱貸せって。とりあえずここにある服詰めちまうぞ」
「う、うん……」
段ボールを受け取り、右藤はテキパキと周りのものをまとめて詰め込んでゆく。
「どれを持っていこうか悩んじゃって……これを機に整理もしようと思ったら何から手をつけていいか……」
「そんなの悩んだらとりあえず詰めて、向こうでいらなきゃ捨てればいいだろ」
その迷いのなさには相変わらず感心するしかない。彼に倣い、佐倉も手を動かし始める。
「ヒロ、部屋は片付けないのにこういうのは得意だよね」
「喧嘩売ってんのか」
「そうじゃないよ。決断力があるっていうか」
佐倉は眉を下げ、自嘲の笑みを浮かべながら続ける。
「僕はどうも苦手でさ……」
右藤は振り返り、佐倉の手元を見た。
「本は置いてげば? 東京の部屋なんてせめーんだから。読みたくなったら俺が持ってってやるよ」
「うん、ありがとう」
佐倉は頷き、床に散らばった本を棚に戻す。その
背中に、右藤は明るい声をかけた。
「それにしても、東京にお前んちができるのは助かるな〜終電気にしないで遊べるじゃん」
「ちゃんと連絡はしてよ……?」
振り向き、佐倉は苦笑する。
「ヒロも一人暮らしすればよかったのに」
「うちはまだ下がいるからなぁ」
「僕とルームシェアとか」
「やだよ。彼女連れ込めねぇじゃん」
「出来たことあるの?」
「うるせーぞ!」
軽口を叩いている間に、たちまち荷造りは進んでゆく。夕方にはもう、すっかり部屋は片付いてしまった。
「……来月にはもうヒロがいないなんて変な気分だ」
「なんだよ」
それを聞いて、右藤は笑った。
「能京に行けばよかったのにとか言ったくせによ」
「それは——」
当時のことを思い出し、佐倉は顔を赤くして俯いた。右藤は、その背中を思い切り張り飛ばす。
「東京なんかすぐだよ。ガキの頃から通ってただろ」
「……そうだね」
毎週、期待と不安に胸を高鳴らせて。いくつもトンネルを抜けて、電車を乗り継いで片道二時間。
子供には長い時間だったけれど。君の隣にいたら一瞬だった。