Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    ゆりお

    @yurio800

    毎日文章を書くぞ @yurio800

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 65

    ゆりお

    ☆quiet follow

    お題「お花見」

    ##灼カ

    宵越と人見 春の陽気の中、真新しい制服に身を包んだ少年少女たちがひしめいている。そんな人混みをかけ分けて、ジャージ姿の一人の在校生がふらふらと姿を表した。
    「宵越君、チラシ分けて〜」
     疲れ切った顔をした人見は、チームメイトに声をかける。
    「なぜかどんどん人が寄ってきてすぐなくなっちゃって……」
     そんな彼に、宵越は渋い顔を向けた。
    「どうしたの?」
     こちらを睨みつけたまま動かない彼に首を傾げ、人見はその手元を見やった。
    「まだ余ってるよね?」
    「なんでお前ばっかり……」
    「えっ?」
     食い縛った歯の隙間から漏れ出す呻き声。宵越の手に力が篭り、『カバディ部、新入部員募集中!』と書かれた勧誘チラシに皺が寄る。
    「なぜだ……俺のチラシの何が気に食わねえっていうんだよ!?」
    「ああ〜……」
     人見は眉根を寄せてため息をついた。仏頂面のまま無言でチラシを突き出す宵越の姿は、容易に想像できた。
    「駄目だよ、もっと愛想良くしないと」
    「愛想ってなんだよ! 俺なんか脅されて入ったんだぞ!?」
    「ちょっと、そういうこと大声で言わないで——」
     慌てて宵越を宥める人見。そんな二人に、近寄ってくる新入生の姿があった。
    「あのー、なんの部活ですかぁ?」
     女子の二人組である。新入生にしてはスカートが短く、バッチリと化粧をしている。視線は宵越の顔に注がれ、狙いは分かりやすい。
     それを知ってか知らずか、宵越はそっけなく答えた。
    「カバディだよ。わりーけど、女子は募集してねーんだ」
    「カバディ?」
    「ウケる〜。カバディってなんですか〜?」
     女子はキャッキャっと騒ぎながら、不意に宵越の隣の人見に気づく。
     途端、彼女たちの笑みが消えた。
    「うわ、もう女いるじゃん」
    「はぁ〜? なんだよ」
     すぐに去っていくその背を、宵越は苦虫を噛み潰したような表情で見送る。
    「ああいう冷やかしばっかなんだよ」
    「はは……」
     人見は、乾いた笑いを浮かべた。彼を見下ろし、宵越は耳を隠す長さのその髪に、桜の花びらがついていることに気づく。
    「おい、ついてんぞ」
    「あ、ありがとう——」
     宵越はそれを指で摘み上げ、軽く息を吹きかける。地面にひらひらと落ちる薄紅色のそれ見て、人見は視線を上に向けた。数日前まで満開だった桜も、だいぶ寂しい姿になってしまっている。
    「桜ももう散っちゃうね。全然見る暇もなかったなぁ」
    「新年度がこんなに忙しいとは思ってなかったぜ……」
    「来年は——」
     言いかけた人見は、表情を暗くして肩を落とした。
    「……きっともっと忙しいよね」
     瞬間、大きな音が鳴った。人見に倣って顔を上げていた、宵越の腹からだった。
    「なんか桜見てたら、腹減ってきたな」
    「いくらなんでも花より団子すぎない?」
    「休憩して飯食いに行くか」
    「まだこんなにチラシ余ってるのに!?」
     人見は叫ぶが、宵越は聞かずに校舎に戻り始める。
    「腹が減っては戰はできねーって言うだろ」
    「ノルマって言い出したのは宵越君でしょー!?」
     連れ戻そうと服を引っ張るも、逆に引きずられながら人見は叫ぶ。
     また季節が巡って、慌ただしい日々が始まる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    somakusanao

    DONEココのすきなおにぎりを考えていたら、いつのまにか書いてました。
    ドラケンとイヌピーの話。
    おにぎりは作らないことになったので、タイトル詐欺です。
    そうだ、おにぎりをつくろう「ドラケン、おにぎりの具はなにが好きだ?」
    「うーん。鮭かな」
    「鮭か……。作るの面倒くせぇな」
    「待て待て。オマエがオレに作るのか?」 

     言葉が圧倒的に足りていない同僚をソファーに座らせて説明を求めてみたところ、「ココが忙しそうだから、おにぎりでも作ってやろうと思って」と言う。それはいい。全然いい。九井はきっと喜ぶだろう。

    「なんでオレに聞くんだよ……」

     乾は九井にサプライズをして喜ばせたいんだろう。それは安易に想像できる。
     だがしかし、イヌピー同担拒否過激派九井が面倒くさい。きっと今もこの会話をどこかで聞いているはずだ。最初の頃は盗聴器盗撮器の類を躍起になって探していた龍宮寺だったが、ある時期に諦めた。ようするに九井は乾の声が聞こえて、乾の姿が見られればいいのだ。盗聴器と盗撮器の場所を固定にしてもらった。盗聴盗撮される側が指定するっていうのもなんだかなと思いながらも、あらかじめ場所を知ったことで龍宮寺の心の安定は保たれる。ちなみに乾は中学時代から九井につねに居場所を知られている生活をしているので、慣れ切っている。
    2132