形だけ人を模ったなにか 人目を引く銀色の長い髪に、喪服のような漆黒の装い。男の顔には常に、人を見透かすような冷ややかな笑みが浮かべられており、妖しさに拍車をかけていた。色の薄い目蓋から覗く、赤い瞳が一層のこと艶やかに思わせる。男の佇まいへ目を奪われていると、ふと男はこちらへ視線を向けた。
目が合った。
その瞬間、今までの雑念がまったく吹き飛んでしまうほどの圧力が、意識を支配した。
背筋が凍るとか、怖気立つとか、そんな生易しいものではない。
圧倒的に力の及ばない化け物に、心臓よりももっと奥の何かを鷲掴みにされているような感覚。それが、全身をくまなく支配している。
男の目つきや表情は、それまでのものと寸分たりとも変わらない。ただ視線を向けられているだけだというのに、身体の自由が効かないのだ。
──押し潰される一歩手前で寸止めされているような圧力から解放されるまでの時間は、何時間も経ったかのように長かった。