Let‘s party time③(向こうも終わったようですし、私の方も…)
梶様から終了の連絡はあった。門倉さんから手筈通りにと合図をいただいたので、行動に移る。
私物のスマホから連絡先一覧を開く。あ、か、さ、たと順に名前を飛ばし「な」の行で手を止め、標的に電話をかける。
ープルルルル…プルルルル…プルルルル…ガチャ
『はい。南方です』
標的は梶様が共にマリオパーティをしたいから誘ってほしいと恥を忍んで頼み込んできた南方立会人である。
呼び出すのならば、少しドラマチックにしてやろうと考えたのは門倉さんだった。
休憩室で梶様と並び出て行こうとした際に、ちょいと耳を貸せと強引に腕を引かれ耳打ちされた。
「あの二人見ててこそばいーのよ、南方に喝入れたって」
「分かりました、任せてください。とりあえず、門倉さん、いってらっしゃい」
「…おう」
こそばいー。
くすぐったい、早くくっつけたい、まあ、そんな意図でしょう。門倉さんにはメッセージで簡単に手順だけ送り、実行はほぼ一人で行うことにした。
さて、手っ取り早くくっつけるなら危機的状況に落とし込むのが一番いいでしょう。門倉さんと同系列、広島ヤンキー気質というのは梶様から前情報でいただいているので、やることは一つ。ヤンキーの庇護欲をくすぐるだけ。
「南方さん!!至急です!!!梶様、門倉さんと…連絡が取れなくなりました。」
『は?弥鱈立会人、一体どういう…』
「南方さんの方に連絡が入ってればと思って…梶様からメッセージなどありましたか?」
『いや、こちらからは送信したが…』
「返事は?!」
『…来ていない…』
「やっぱり…私のところにも報告後から梶様の連絡が無いんです。」
『たまたまじゃ無いのか?門倉の位置情報は?!』
「…問い合わせましたが、最後の立ち会いの報告後から途絶えているようで…」
『そんなことあるのか…?嘘だろ…?』
「嘘だったら、貴方に私用携帯使ってまで連絡取らないです。門倉さんはゴリラとはいえ今まで途絶えるなんてことありませんでした。それに梶様…か弱い子鹿ほどの力しかありません。もしものことがあったら…」
『…弥鱈、一旦合流するぞ』
「…!分かりました。私の現在地は××駅付近です。来れますか?」
『わかった。20分待て』
「ありがとうございます。お待ちしております。」
ーッツーッツーッツー
自然と口角が上がる。門倉に「誘導済」と送り、スマホをスラックスのポケットに滑らせる。
「立会人たる者、どんなに愛おしい相手だろうと気をつけないと、痛い目を見ますよ〜、南方立会人。」
唾玉を一つ飛ばし、電話で指定した駅付近へ歩みを進めた。
-返事がないのは勝負直後だったからだろう?
-門倉が一緒だからと油断していたか?
-勝負相手の罠にかかったか?
-そんなヘマを門倉がすると思えん。
-どこだ、誰だ、目的は、情報は、梶、どうか…
スーパーで買い物をいている最中、不意に届いたあまりにも唐突で信じがたい情報に、買い物なんぞしている場合ではないとスーパーを飛び出した。
自宅まで駆け抜け、単車に跨る。
(弥鱈立会人の口ぶり、取り乱し様、今までにない様子だと受け取っていいだろう。とにかく今は、合流を)
なによりも大切にしたいと願う相手の安否が不明であるというのに、あまりに不確定が多すぎる情報、手繰り寄せられる限りの情報の点と点を繋ぎ合わせ、答えを探す。
(くそ、思い当たる節が見つからん)
いくら探しても見つからない答えを求める様にバイクの速度が上がる。街灯が間隔を取って輝く中、それぞれの点が繋がり線になるほどのスピードで指定された駅を目指した。
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「お待たせいたしましたお熱いですのでお気をつけてお持ちください」
「ほい、ありがとーね」
「わあ…いい匂いですね!」
「冷めないうちに帰るよ」
「そうですね!」
出来立てのピザに揚げたてのサイドメニューを袋に下げ車に戻る。
車内はすぐにジャンキーな香りに包まれた。
「僕もう勝負の時からおなかぺこぺこだったんです」
「んじゃ、もうちょいの我慢ね」
「にしても色々と買い物しましたね…、お酒に、乾き物、お茶に…え?クラッカー…?何でこんなもの買ったんですか…?」
「んー?使うからに決まっとるやろ」
「可愛いパーティグッズなのに、門倉さんが買うと殺傷能力がつきそうですよね」
「ほう、クラッカーで人を殺める方法を学びたい、ということですか?」
「きょ、今日は遠慮しておきます」
「そうけ、残念じゃのう。今度教えてやるけぇ、覚悟しとき」
「お手柔らかに…」
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駅前、とは名ばかりの明るさのない場所。街灯の下でスマホを片手に立ちすくむ男性の前にバイクを停める。
ヘルメットを脱ぎ、男性に声をかける。
「弥鱈立会人!!!」
「南方さん、早かったですね。近くにいらっしゃったんですか?」
「家から飛ばしてきたわ。それより、電話の件」
「えぇ…残念ながら事実です」
伏目に、申し訳なさそうに、まるで捨てられた仔猫のように悲哀の雰囲気を滲ませた弥鱈立会人を見ることになるとは思ってもいなかった。
普段から人のことをどこか見下ろしている彼がこんなにもしおらしく…、それによく見ればスーツには傷、靴に泥がついている。そんなになるまで情報を集めたのか…と目頭が熱くなる。
「おどれのことじゃ、目星は付いとるんじゃろ」
「…さすが、南方立会人。移動します。少し離れた場所になりますので…」
ーッパシ
街頭に照らされた弥鱈に向かって予備のヘルメットを投げる。
「被れ。ここまでの道を見ても自力で走っていく距離じゃないじゃろ。わしが乗せてやるけ、案内せい」
「分かりました。ありがとうございます」
ヘルメットをかぶりバイクの後部へ跨る弥鱈に想い人を重ねる。
(乗せるなら、梶が良かったな…)
物思いに耽るわけにもいかないため弥鱈に「ちゃんと腰に腕回しとけ」と忠告し、エンジンを蒸す。
「このまま、◯◯駅まで飛ばしてください」
「任せろ。10分もあれば十分や」
「えぇ、よろしくお願いします…」
腰にまわる腕はトキメキもなくただ、一刻も早く手がかりの場所へ向かうことだけが脳内を占領していた。
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「ほい、ただいまー」
「お邪魔しますー、ってあれ?弥鱈さん?」
弥鱈さんからの頼まれものを完了し、大荷物を(主に門倉さんが)持って門倉さんと弥鱈さんの家についに到着した。
広めのリビングには大きなソファと大きめのクッションが4つ、ローテーブルと一般家庭にしては大きなテレビが置かれており、その前にはスイッチが設置され、あとは人を揃えるだけ、な雰囲気を漂わせているが、門倉さんと僕以外の人気を感じない。
弥鱈さんとはいえこんなに気配がないわけがない。
「門倉さん、弥鱈さんは…?」
「あいつは、今頃南方迎えに行っとるよ」
「そうなんですね!南方さんはこのお家に来たことあるんですか?」
「一度もないよ、だから弥鱈が迎えに行っとるんよ」
「なるほど、たしかにここセキュリティガチガチですし、迎えに行った方が賢い選択ですね!いつの間にか連絡しててくれたんですね」
「梶が買い物しとる間にちょちょいとな」
「ありがとうございま…す…?」
買い物の間、門倉さんとひとときも僕のそばを離れなかったよな、カゴを押していたのも門倉さんだったし…携帯…触ってた…?
「…南方さんたちどのくらいで来ますかね」
「んーどうやろな、すぐくると思うけど」
「連絡してみます?」
「おどれ、南方にメッセージ送るのに8時間かかるじゃろ。いーからシャワー浴びておいで」
「そんな悪いですよ!!」
「いーの、先にキレイになっといで。南方にはわしから連絡しておいてやるけ。そろそろやな」
「え?そろそろって…?」
「んー?ナイショ」
人差し指を立てて口の前に持ってきてシーとジェスチャーをする門倉さん。その顔はとてもじゃないけど、一般人がしていい顔ではない。
嫌な予感が的中しない様に恐る恐る
疑いが入り混じった感情を込めて投げかける。
「…あのー、門倉さん。さっき言ってた門倉さんと弥鱈さんが協力してくれるって話、もしかしてもう、始まってたりします?」
「弐っ」
不気味な笑顔を浮かべた門倉さんが僕に手を差し伸べる。そこにはさっき買ったクラッカーが乗っかっていた。
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「南方さん、一回止まってください」
「どうした」
指定された駅はもうほぼ目と鼻の先だったが、後ろに乗る弥鱈から呼び止められる。
「門倉さんから、門倉さんから地図が」
「なんやて」
「これ、マンションですね…、ここからだったら…5分とかかりません」
「つまり、そこに二人ともおるんやな。加勢しろってことか。門倉の手に負えん相手っちゅーんか?」
「そういうことになりますね…急ぎましょう」
「おう」
南方。召集完了。
到着まであと5分。