Let‘s party time③Part4
「ここです、南方さん」
指定された駅から5分と経たない場所にある推定40階ほどのタワーマンションの前に着く。
バイクを停めると後部から弥鱈立会人が飛びおり、マンションの入り口へ向かい、躊躇なく正面から入室しようとする後ろ姿に思わず声をかけてしまった。
「おい、そんな軽率に近付いて罠があったらどうするんや!」
キッと振り返る弥鱈は、急ぎと怒り、双方の感情を表立たせてぶつけるように睨みつけながら静かな声で呟く。
「…私がそんなヘマ、するとでも?」
「…失礼しました」
仮にも立会人という点においては先輩。歳下とはいえ先輩である相手に謝罪を落とした。
「さ、どうぞ、開きました。ここの28階のようです」
マンションのセキュリティすら、いとも容易く解除し、二重三重にもかかるセキュリティを慣れた手つきで解除していく。
流れるように開いていく扉を弥鱈立会人の背中越しに見つめ、その姿を追いかける。
28階まで、専用のキーがないと動かない仕組みのエレベーター。階段を駆け上がる覚悟をしていたがどうやらこのエレベーターも利用できるらしい。
(立会人ともなるとピッキング…それにハッキングも…その場で道具なしに解除できるようにならんといけんのか…今後の参考にあとで勉強するか…)
他の立会人の技術を間近で見る機会がほとんどないため、こんな技術があるのかと学びになる反面、自分の力の無さを痛感する。
(弥鱈立会人がいなかったら、ワシはここにも辿り着けてない…それどころか梶の危機すら知らずに家でのうのうと酒をのんでいた可能性すらあった…無力や…何でワシはこんなにも無力なんや…)
己の無力さに苛立ちを覚える。拳を握りしめ怒りを抑え込む。
「南方さん?乗ってください、置いていきますよ」
到着したエレベーターに先に乗り込んだ弥鱈立会人の声で我に返り「すまん……」と拳を緩め、エレベーターへ乗り込んだ。
8階、9階、10階………エレベーターは下層階で止まることなく目的の28階までノンストップで登り、その扉を開けた。
28階のエントランスホールは広く、手前に2軒奥に1軒の扉を確認することができた。
「弥鱈立会人、1/3、二手に分かれますか」
「いえ。その必要はありません、あちらから門倉さんの気配を感じます」
「…え」
「この気配。ええ。門倉さんで間違い無いですね」
弥鱈立会人にふざけている様子はない。大真面目に門倉の気配を感じ取っているのだろう。賭郎本部ではそこまで仲良くしている姿は見ないが、同棲していると言うし、門倉と飲む度に可愛い可愛いワシの弥鱈と惚気全開で来るほどのハマりっぷりを見れば、弥鱈も門倉のことを好いているのだろう。そいつが言うのであれば、間違いない。
「…おどれがそういうなら。間違い無いじゃろう…扉ぶち破るか?」
「他のお宅を見る限り、こちらは一般の方も住んでいるマンションと見て間違い無いでしょう。あまり大騒ぎするのは悪目立ちしてしまい悪手かと。私が鍵を開けます。なので南方さんは、1、2、3で扉を開けて入ってください」
「わかった」
「それでは行きますよ…1、2、、、3」
鍵が開かれる。ドアノブに鍵が開く振動を感じ、弥鱈立会人のカウントに合わせて扉を開く
(待ってろ、梶。今助け……)
パァーン
え?
撃たれた……?
火薬の香り…爆発音、間違いなく、予想されて、俺は撃たれ…弥鱈立会人は…無事…か……
「って、撃たれて無いやないか!!!」
「わああああ、南方さん、すみませんすみません!!」
「おどれ、梶、何驚かしてくれとんのよ!」
小さく縮こまり、上目遣いで謝罪してくる。
怒っている顔も可愛いのぅ。ちょっと潤んだ目も…って、
「……梶?」
「え、あ、はい、僕ですよ?」
数刻前から連絡が取れなくなって、
行方が分からないはずの、食べてしまいたいほど愛おしい梶が目の前にいる。
どうして?生きてる…ん?あ?
混乱が混乱を招き、抑えも効かず、とりあえず梶を抱きしめる。
「…ひゃ、え?南方さん…?!急に、え、どうしたんです!?」
「…梶、おどれ…心配させよってに…そんなことより、無事でよかった…」
抱き寄せた梶が潰れそうなほどの力で抱き締めると、お返しと言わんばかりに優しく腕が回される。
「梶、おどれどこにも怪我はないんか」
「怪我…?僕は特に怪我してませんけど…」
「せや、拉致られて、連絡取れなくなって…………門倉ァ!!!」
弥鱈立会人の話通りであれば門倉がこの部屋に…
「なーにー。玄関でうるさいのぅ。はよあがってお手手洗って、スーツのホコリおとしんしゃい。」
廊下の突き当たりの部屋から門倉がひょっこりと顔を覗かせている。
「おどれはオカンか!!!ってそーやない!!!おどれ拉致られたんとちゃうんか!!勝負の相手は??GPSは???連絡取れへんとちゃうんか??あぁ???」
畳み掛けるように問いかける。
「あーあーうるさいうるさい、弥鱈、何て伝えたのぉ?」
いつのまにか背後から移動し、靴を揃えている弥鱈立会人が、とぼけたように唾玉を飛ばす。
「え〜?門倉さんのGPS読み取れなくなったこととぉ、勝負撤退後、梶様と連絡が取れなくなったこととぉ、急用ってこと伝えましたぁ〜」
「…いや、わしもざっくり想像はできとったけど、端折りすぎよ…」
弥鱈がクククと笑うのに対し門倉が弐っと笑う。一発ぶん殴らせてほしい…が、拳は梶を抱き締めるのに忙しいため、強めの口調で問いかけた。
「どういうことだ、門倉。説明しろ」
「たいぎいのぅ…梶にパス」
「僕ですか?!」
流れ弾を喰らった小鹿はおずおずと語り始めようとするが、その前に、玄関に座り込むのはやめろ、手を洗え、とうるさい小姑門倉に従い、一旦場所を変える。
リビングらしい部屋で梶はここに着くまで本当に何もなかったことを話してくれた。
勝負は無事終わって門倉と買い物をしていたこと、ここが門倉と弥鱈が同棲している家であること、そして…
「南方さんと…マリオパーティがやりたかったんです…」
俯き、視線を外す。
頬は赤く染まり、耳まで赤くなっている。
可愛い。
この一言に尽きる。
「南方さんとマリオパーティしたくて…弥鱈さんに相談したら、今日できるって……それでお二人に南方さん呼んでもらったらこんなことに…」
「梶様が、ご自分で連絡とってれば、南方さんがこんな焦ってくることも無かったんですよ〜?」
シャワーを浴び部屋着姿になった弥鱈立会人がやれやれと言わんばかりにタオル片手に歩み寄る。
「お風呂空きましたので、お二人でどうぞ〜。あ、うちのお風呂どっかのゴリラ用にめちゃくちゃでかいんで、お二人で入っても余裕ですよ〜」
「一緒に、お風呂?!」
「ええんか?!」
「ぼ、僕はまだ無理です…!」
「そうか…じゃあ、先入ってこい」
「あ、ありがとう、ございます…」
「…は〜、なんか、門倉さんが言ってた“こそばいー”の意味、私わかったかもしれません」
「でしょー。わしこういうのすーぐくっつけたくなるのよ」
「奇遇ですね、私もです」
「やっぱ相思相愛じゃのう…。ほーら、髪乾かしちゃるからここ座り」
「え、もしかしてここに残ったの地獄か?同僚カップルの生活見せつけられとる?え、梶、やっぱ一緒の入ってもいい?」