「雨彦!大丈夫ですか!?」
驚いたような声が耳に届いて、雨彦ははっとした。周囲を見渡すとそこは勝手知ったる我が家の玄関。目の前には心配そうな表情で近づいてくるクリスの姿。
少しずつ現状が頭に入ってきて、雨彦は失敗した、と内心歯噛みした。
現在時刻は、もうすぐ日付が変わろうという時間。今夜の雨彦は、掃除屋としての仕事に足を運んでいた。
ことの始まりは、その掃除の対象というのがいつになく難敵で、少々手こずってしまったこと。掃除自体は無事に完遂したものの、いくつか傷を拵える結果になってしまった。傷とはいっても、軽い擦り傷がほとんどなのだが、左腕に負った切り傷だけは誤魔化しが利かなそうな具合だ。
アイドルになってからは、顔の怪我にだけは気を付けるようにしているのだが、掃除の仕事というのはいつも完全に無傷とはいかない。それでも基本的に人目につくような怪我をすることはなかったし、多少の傷は掃除中に不注意で負ったものだと言えば、周囲にも納得してもらうことができていた。
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