ただいま和一は、マリオカートの7レース目を走っていて、冬彦はまだ帰ってこなかった。
あまり心配はしていない。冬彦は1時間おきにメールを送って任務の進捗状況を教えてくれていたので、心配はしないが…本当に彼氏がいないと寂しいんだ、ちくしょー!冬彦が腕に抱かれていないと、眠りにつくのもままならない。時間がかかる組の任務が嫌い。
その日の朝、メカニックはほとんど一睡もできずに7時ごろに目を覚ました。それから1時間、集中力を持続ためにコーラを一気飲みながら、ネットで買った壊れた家電製品の修理をした。その後、シャワーを浴びた。冬彦が帰ってくるまでに体を奇麗にしておかないと殺されちまうからな。そして、リビングでゲームをしながら、彼氏の帰りを待っていた。
2周目に入ったところで、コーヒーテーブルに置いたスマホの着信音が鳴った。ゲームをポーズし、スマホを取り上げて画面ロックを解除すると、冬彦からまたメールが届いていた。
『もうすぐ帰る。あと5分』
和一はハートの絵文字で返信し、愛情を込めて微笑みながらゲームに戻った。
案の定、数分後、玄関のドアが開く音がして、冬彦がとぼとぼとソファに近づいてきた。すっかり疲れているようだった。ピンストライプのスーツはぼろぼろで、皮膚には切り傷やあざがたくさんあった。幸いなことに、和一が見る限り、大きな怪我はしていないようだった。
「やあ、ダーリンッ」※
と、和一は冬彦にメガワットスマイルを浴びせかけた。
「どうだった?」
冬彦はソファに腰を下ろし、和一の肩に頭を預けて、うめくように答えた。
「クソ…ぐっだぐだだよ」
和一はくすくすと笑った。
「会いたかったな」
「うーん」
冬彦は和一に腕を回し、横抱きに引き寄せ、強く抱きしめた。
まともな返事がないことに和一は口をとがらせたが、それでも冬彦の小さな体に腕を回して抱き返した。
「ほら、オメーも会いたかったって言えよォ」
と弱音を吐いた。
冬彦はあきれた顔をして、和一の首筋に顔をすりつけた。
「言わなくてもわかってんのに…」
和一はあからさまな愛情表現に顔を赤らめた。冬彦がこれほどまでに親密なのは珍しいことだ。もちろん、冬彦は和一にキスしたり、手を握ったり、時には髪を弄ったり、いつもは添い寝しているのだが、今は全身で抱きついているのだ。かわいいなぁ。
あ、そうだ。こいつはいつも疲れているときはすげー甘えん坊になっちまう…まったく、ぐったりしまったんだ。
「ホント、見ればわかってんなー」
和一は笑いながらそう答えた。
「オメー、まるで一週間の旅行から帰ってきたみたいんだ」
彼は冬彦の髪にゆっくりと手をやった。いつものように柔らかくはなく、金髪の毛束には汚れが混じっていたが、冬彦は和一の首筋に感謝の意を込めて口ずさんだので、それだけで十分。
彼は冬彦がシャワーを浴びて、清潔で心地よい服に着替える必要があるのが分かった。あのピンストライプのスーツは、特には糸が切れた状態で、着心地が良いとは思えなかった。でも、もし冬彦がそれを気にしていたとしても、表に出さなかった。和一がソファに横たわるとも、冬彦は反対することもなく、和一の胸に寄り添って静かにあくびをした。
和一は、今の状態で、こいつを可愛いと言っていいものか悩んでいた。冬彦は疲れすぎて気にしないのかなぁ?しかし、雰囲気を壊したくはない。前回そうやって褒めてみたとき、冬彦は死神のような目つきで和一の頭を軽く叩いてきたんだ。今回は代わりに、力を抜いて冬彦を抱き寄せ、指先で背中に円を描くようにした。
あっという間に、冬彦が和一の胸に頭を預けて眠ってしまった。極道の胸が、自分の腹に当たって上下するのを感じた。今日一日こうして一緒に過ごせるなら、まあ、和一はぜってー文句言わない。
メカニックはその後、数分で眠りについた、顔に柔らかな笑みが浮かんだままで。
――――――――――――
※元は「babe」。日本だと「ダーリン」は女性から男性へのニュアンスがあるらしいですが、英語圏ではそんなことはありません。Psychepolterさんと相談してみたら、お互い「ダーリンの方は左右田らしい響き」だと思っていますので、ハニーではなくダーリンにしました。ご了承ください。