30日CPチャレンジの20日目『一緒に踊る』 正直なところ、クリスマス・ダンスパーティを前にした数日前、ハジメはあまり心配をしていなかった。仲の良い友達と一緒に、美味しいものを食べて、楽しい思い出を作りに行くつもりだけだった。
しかし、夕食が終わった後、各寮の首席がダンスフロアに向かうのを見た時、七年生がまさに大人の優雅さを表現しているのを見て、喉の奥にしこりができたような気がした。
ハジメはダンスをしたことがない。
11月と12月に社交ダンスの選択授業があったのだが、ハジメはそれをすっぽかした。今大広間の両脇でぎこちなくしている他の四年生と五年生を見渡せば、自分だけでないことは明らかだ。
しかし、まあ、課外活動をサボるのはどうかと思うが、せめて相手のために努力しないのは、ちょっと失礼だと思うんだ。
ハジメはチアキを見た。ローズゴールドの長いローブを着ているが、前かがみになって二年生の時にハジメからもらった古いニンテンドーDSに夢中になっているため、その姿は分かりにくくなった。
「なぁ」と小声で囁き、彼女の注意を引くために軽く肘を打った。
「あの…踊りたいのか?」
チアキはほんの少し視線を送ってから、マリオカートに向かって戻っていた。
「大丈夫だよ。ハジメも本当は踊りたくないんだと、思うよ」
ハジメは安堵のため息を笑いで隠した。
「いや、そうだよな。バタービールを取ってこようと思うんだけど、飲む?」
チアキは目を輝かせ、それがバタービールの誘いなのか、それともゲーム内で手に入れたアイテムボックスへの反応なのか、ハジメには分からなかったが、頷いた。
「うん。帰ってくるまでここで待ってるよ」
頷いたハジメは立ち上がり、ダンスフロアの端を慎重に移動しながら、軽食のテーブルへと向かった。スローテンポの音楽で踊るのを避けようとするティーンエイジャーで混雑しており、何度も謝りながら通り抜けなければならなかった。やっとの思いで近づいた時、ハジメは誰かにぶつかり、つまずく前にテーブルの端を掴もうと奮闘した。
「あ、ごめん」
「気にすんな」
その声にハジメはハッと気づき、人込みの中に戻っていく金色の閃光に目を凝らした。
「フユヒコ!」
ハジメは手を伸ばして、相手の少年の姿が見えなくなる前に袖を掴んだ。例のハッフルパフ寮生が驚いて目を瞬かせると、ハジメは掴んでいた手を下して胸の前で両手を上げた。なぜ、あんなに必死に掴んでいたんだろう?
「ああ、悪いな。ペコのところに戻った方がいいんじゃない?」
フユヒコは肩をすくめ、頬を桃色に染めながらちらりと目をそらした。
「いや、オレもあいつもダンスにはあんま興味ねーんだ。あいつは今、向こうでムクロと決闘クラブの話に夢中だ。オメーに場所を譲るために動いただけ」
「あ…そうか」
ハジメは顔を赤くして、自分用のバタービールの瓶を手にするために近づいた。
「つまり…俺たち二人とも、ダンスに興味ない相手がいるんだろうな」
フユヒコは鼻で笑った。
「この方がいいんだ。いくら払われてもバカ騒ぎすんのはごめんだ」
バタービールのキャップを開け、ハジメはようやくフユヒコの姿がよく見える位置に立った。小柄な少年の手には甘いものが盛られた小皿が握られており、ハジメはニヤリと笑った。
「ダンス習ったことがないのか?」
「ちっ、習ったに決まってんじゃねーか。下手でもねーし。ただすげーやりたくねーだけなんだろ」
「そっか」
ハジメはフユヒコの隣でテーブルに寄りかかり、くつろいだ。
「俺はただ習ってないんだ」
気さくに嘲り、唇に小さな笑みを浮かべるフユヒコを、ハジメはバタービールに口をつけながら目の端から眺めた。夕食の時に同じテーブルに座ったとはいえ、ドレスローブ姿のフユヒコをじっくり見るのはこれが初めてだ。ナツミの言った通りの金色のローブで、真っ黒な縁取りが施され、その下には淡い金色のダブルブレストのウエストコートと黒いプリーツブザムシャツを着ている。
それって、まあ…よく似合っている。
うっわ、なぜか飲み込みが悪くなってくる。喉に詰まらせる前にハジメは瓶を唇から離し、すでに口の中に入っているバタービールを苦しそうに飲み下ろした。やっばっっ。
二人は数分間、踊っている生徒たちを眺めていて、音楽がより明るい曲に変わっていく。ハジメは手に持った瓶をいじった。耳の中で心臓が太鼓のように鳴っているような気がしたが、きっと音楽のベーストラックなのだろう。
「へへっ、あいつら見てみろ」
フユヒコはハジメの脇腹をつついて、顔を歪めながら不安定に踊っている二人組の生徒を指さした。
「何やってんだかさっぱりわからなさそーな。テンポもほとんど合ってねーんだ」
「あはは、そうだな」と笑いながら、ハジメはフユヒコにつつかれたところをさすった。痛くはないが、触れたところが妙に温かかい。
「音楽が盛り上がったから、参加する人が増えたみたい」
「ああ、そうだな」
フユヒコはそう言うと肩をすくめたが、ハジメは意識の端でサイオンジ・ヒヨコの耳慣れた笑い声に注意を奪われていることに少し苛立ちを覚えた。
「そうこなくっちゃ!」と、フユヒコの肩越しに、ミオダ・イブキの声が聞こえた。
「もっと踊る足を動かすよー!」
「ちょっと…」
フユヒコはそう呟き、少女の声する方を振り向くと、人混みの中から緑色の光が噴き出してきた。
「まさか――」
「フユヒコちゃん!」
イブキは人混みの中から飛び出し、パンクロックなバレリーナのように片足でバランスを取って二人の少年の前に降り立った。
「ハジメちゃんも!二人とも壁の花になってどういうことっすか!」
ハジメは持っているバタービールを見せた。
「もう手がふさがってるんだ。踊るなんて――」
「言い訳いらないっすよ!このイブキに任せて!」
イブキがそう叫ぶと、後ろからヒヨコがやってきて、大笑いで倒れそうになっていた。
その光景を理解する前にも、ハジメの体が動いてしまった。イブキが杖を取り出し、鼻で笑いながら二人に向けた。
「タラントアレグラ!」
フユヒコの両肩に手を置いて呪文から完全に身を守ると、ハジメは背筋から足にかけてピリピリとした痛みを感じ、自分ではコントロールできないほど両足が動き出した。
「イブキ!」と唸りながら肩越しに目をやると、キャッキャと笑う少女が人混みの中に消えていくのが見えた。
「楽しんでね、ハージメー!」
ヒヨコはそう笑いながら、ドレスローブの長い袖をたなびかせて後を追って去っていった。
一方、ハジメの足は勝手にダンスフロアに向かうことを決めていた。
「まっ…!?離せよ、ボケ!」
フユヒコはそうなじりながらも、顔面からつまずかないようにハジメの前腕を万力のように掴み、引っ張られて前に進んだ。
「踊る足の呪文にやられたのか!?」
「それは…あ、うん、これは…多分そうだな」
ハジメはその言葉をどもって、足を抑えようと無駄にしながらフユヒコの両肩をもっと強く握りしめる。
「悪い、無理、止ま――」
「じゃあなんでオレまで引っ張り出したんだ!?」
フユヒコは唸りながら、振りほどかせなかったハジメのペースにしぶしぶ合わせてみる。
「踊りたくねーって言ったろ?」
「悪い…!」
ハジメは、恥ずかしさのあまり顔がますます温かくなりながら、何度も謝った。
「マジで、本当に悪いな。つい反射的に掴んでしまって……」
フユヒコは悔しそうに唸って、ようやくハジメの両手を肩から離した。
「踊るならせめて手を正しい位置に置けよ」
そう言ったフユヒコはは頬を紅く火照らせながら、ハジメの左手を自分の腰のあたりに置いた。
うわあ、こいつまだこんなに細くて――
「お、俺…一人で踊り尽くせるから…」
「オレを巻き込んだヤツはオメーだろ、ハジメ。もう引き下がらないぞ」
恥ずかしそうに赤らめても、フユヒコの金色の瞳は強烈に燃えている。
「それに、まあ…。そうしないとまたイブキに狙われるかもしんねーし、せめて自分の動きはコントロールしてーし…」
ハジメの喉は弱々しい鳴き声しか出ず、ただ断固として床を見つめ、頷いた。
二人は音楽に合わせて無言で踊りながら、すぐにアップテンポの曲に変わった。ハジメは本当にリズムに乗っているのかどうか分からないが、直そうと思っても直せないだろう。とりあえず気を紛らわせようと床を見て、天井を見て、目の前の少年を――
「お前、今夜は本当に綺麗な」
曲がエンディングに差し掛かると、フユヒコは眉をひそめて見上げ、そして歩みも緩めたが、ハジメが同じようにできないことを思い出し、再び動き出した。
「はぁ?」
「いや、その…お前…」
ゆっくりとした曲が始まると、ハジメは緊張して息を呑むんだ。
「ローブ。金地に黒。かっこいいぞ。あと、その…その金色が瞳にぴったりだ。似合ってる」
なんでそんあこといってんのか!イブキのおしゃべりの呪いもかけられてんの!?恥ずかしいまま、ハジメはフユヒコの肩の向こうにある遠いところに視線を向けた。
「いや、一応、言おうかなーって思っただけだよ」
相手のハッフルパフ寮生がどんな表情をしているか分からないし、ちゃんと向けて確認するのも怖かったが、フユヒコの口調には驚きの色が浮かんでいた。
「ああ…そう、か。ありがと………。オメーのローブも…かっこいいぞ」
熱い。ハジメの顔は熱く、耳は熱く、首は熱く、フユヒコと接している体のあらゆる部分が燃えているように感じられ、そして胸郭の奥に息苦しい温もりがあり、呼吸が非常にしづらくなる。極まらなく気詰まりだが、不思議と不快感はない。それどころか、ハジメはこの感覚がもっと望んでいて、もっと長く続くことをむさぼんでいる自分に気づき、相手の少年に気づかれないように、ほんの少しだけフユヒコに全体を近づけた。
踊る足の呪文が切れたのだと、ハジメはぼんやり気づいた。今は、完全に自分の意志でクズリュウ・フユヒコとスローダンスをしているし、やり方が全く分かっていないので、もう一人の少年に気づかれて止まるのは時間の問題だ。それでも、今のところ…。
今のところ、ハジメは二人の間に「なにか」をできるだけ長く持たせることに満足している。