ハッフルパフ寮生に恋するべき理由(2/2) 二人は会計し、10代の子供たちでいっぱいのお菓子屋さんでできるだけ早く店を後に去って外に出た。
「さて、次はどこに行こうか?」
「え?」
ハジメはフクロウのように瞬きをしてから、事態を把握した。そうか、今日は好きなことをやっていい日なら、自分が決断しなければならないんだ。それは、予想していたよりも少し大きなプレッシャーだ。
「あぁ…ちょっと考えさせてくれ」
「おう、ゆっくりで構わねーな」
ハジメが考え込んでいる間、フユヒコが身を乗り出してハジメが持っていた袋を手に取った。
「あとこれくらいはオレが持ってあげる。たまには休めや」
頬がわずかに温かくなるのを感じながら、ハジメは心臓がどよめいた。
「いやマジでいい――」
「謙遜は勘弁してくれ。オレが持ってあげるんだっつってんだろ」
「…そうか。ありがとう、助かる」
ハジメはハイストリート通りの方をちらちらっと見た。
「じゃあ、その…実は最近、魔法使いのファッションを検討した方がいいんじゃないかと思ってるんだ。制服のローブ以外、マグルの服しか持ってないし……」
フユヒコは表情を曇らせた。
「マジか?夏休みにファッション首都のイタリアに行ったのに、今更服の買い物を!?」
「だって『最近思ってる』って言っただろ?ダンスパーティの時もドレスローブを借りたんだ」
「くそ、個人専用のドレスローブなんて高級魔法使いしか持ってねーんだよ……」
フユヒコはため息をつくと、肩にかけた袋を直しながら肩をすくめた。
「まあ、いいや。オメーが好きなことをする日だし、『グラドラグス』に行こうか」
人通りの多い道を歩いて数軒先の店まで行くのは少し大変で、ハジメはフユヒコと腕がぶつかったり肘が当たったりするのをあまり意識しないようにしながら進んでいった。ようやく割と人気の少ない「グラドラグス」に入り、人通りも少なく息抜きの余裕ができた。
「カジュアルやビジネス用のローブでいいか?」
フユヒコは店内の品揃えを確認しながら、そう言った。
「なあ、今の身長何センチ?」
「170センチ強」
フユヒコは機嫌悪く下品な言葉を呟いた。
「成長止めてくんねーか?追いつく時間くれよ」
棚から適当な長さの若竹色のローブを取り出し、地面に引きずらないように頭の上に持っていかなければならないことに顔をしかめた。
「これ着てみろ」
「お前は?」
ハジメはローブを受け取りながら、生意気に尋ねた。
「オレはなんだ」
「もう150センチ超えたか?」
わざと地雷を踏んで、フユヒコがどもって質問を避けるのを見て、親しみを込めて言っただけだ。最初は予想通りに反応を見せ、頬と鼻先を真っ赤に染めたが、やがて口を歪めて不機嫌な顔だけをした。
「も、もうすぐだっつーの?」
そう呟き、横をチラっと見て、頬のピンクをより恥ずかしそうに色づかせた。
うわぁ。
なぜ「うわぁ」という言葉がすぐに浮かんだのか分からないが、その予想外の反応に、ハジメは何か不思議な、曖昧な感覚を覚える。やはり何かが間違っている。
「あー、そうだな」と言ってから、まるで綿あめの中で呼吸しているかのような感覚で息を吸い込み、続けた。
「あ、うん、よかった。じゃあ、これ…このローブを試着するぞ」
ハジメは頭がクラクラしながら試着室に入り、ローブを着てみると、胸の締め付けが布のせいなのか、それとも他の…なにか?なのか分からない。
胸骨のあたりで手を拳にし、深呼吸をし、ある程度落ち着いたと感じると、試着室から出た。
「じゃあ、その…どうかな?」
ハジメは自意識に、服がよく見えるように腕を少し上げて聞いた。
フユヒコは上下に見て、口を歪めて答えを考えた。
「それ…」
小柄な少年は言葉を濁し、苦痛に近いような表情で答えた。
「似…合ってる。似合ってるん、だ」
正直なところ、ハジメは自分が滑稽に見えると思っているから、フユヒコの返答はかなり不可解だ。ふいに、ハジメは気づき、目を見張ったのだ。
「待て、お前…俺が喜ぶと思って、わざと優しいこと言ってるのか?」
フユヒコは顔を真っ赤に染めた。図星。
「オ、オレはこんな優しいこと言えねーとでも思ってんのか!?」
「『こんな』優しいことの問題じゃなく、『この』優しいことが正直予想外だって」
「オレの言ってることのどこが問題なんだ!」
「いいか、フユヒコ」
ハジメは友達の両肩に手を置いた。やはり、このローブはダメだな。たとえハジメに似合っていても(似合ってないが)、背中や胸のあたりで布地が引っ張りすぎているのは確かだ。
「最高の日にしようとするのはありがたいけど、そのために毒舌を減らすのはやめてほしいな。だって、お前の皮肉な言葉がなければ、『最高に幸せの日』なんていらないんだ」
フユヒコの顔はさらに赤くなった。
「なっ…オメー……」
しばらくどもっていたが、最後にフユヒコはこう言った。
「い、いいだろ!そのダセェローブを着たオメーはボツされたレプラコーンみてーんだな!いい!?」
ハジメは大笑いした。
「その調子だな!じゃあ、今から着替えて…」
店の端にいるお針子の魔女ををちらっと見たら、その魔女は騒いでいる二人をかなり睨んでいる。
「ここを出て、別の場所に行った方がいいかもな」
「くっそ、助かったな」
フユヒコはハジメの手を振り払いながら、不機嫌そうに言った。
「どうせ、オメーがまだ雑草のようにぐんぐん伸びてんなら、何も買ってやる意味はねーんだろ」
まだ笑っているハジメは試着室に戻り、着替えを済ませて二人とも追い出される前に店を出た。
―――――
午後の残りの時間は、ハイストリート通りを歩きながら色とりどりの店構えを見ることに費やした。ハジメが新しい羽根ペンを買うために「スクリベンシャフト」に立ち寄り、「ゾンコ」を少し見て回ったが、それ以外はウィンドウショッピングで満足した。ようやくつま先が凍りつきそうになる頃には、暖かい飲み物が必要なほどだ。
「『三本の箒』はどうだ?」
フユヒコは、両手をこすり合わせて暖を取りながらそう尋ねた。まだ持とうと言い張る買い物袋が、その動きに合わせてざわざわと音を立てる。
「いいんじゃない」と、ハジメは白い霧とともに笑いを浮かべながら同意した。
「ペコとかに会えるかもな」
「おう。会わなくても、オレら二人で座ってもいいんじゃねーか」
ハジメは首のあたりがやけに暖かく感じたが、硬く頷いたら二人でパブに入った。
「三本の箒」は予想通り混雑していて一歩足を踏み入れると、たちまち少年たちは雑音に包まれた。しかし、その雑音をナイフのように切り裂くような一声のけたたましい笑いがあった。
フユヒコは苦笑いを浮かべた。
「ペコは見つかったな」
親指をその笑い声のある方角に振り向けたフユヒコは続けた。
「あそこへ行こうか?それとも逃げる?オメーの判断に任せや」
ハジメはため息をついた。
「どうせ後であいつに会うことになるし、会ったら援護があった方がいいんだな。歯を食いしばってやろうか」
二人の少年は混雑したパブの中を縫うように進み、笑い声に従って部屋の一番隅にあるブースにたどり着いた。そこにはスリザリン寮の女子たちがバタービールを持って身を寄せ合って座っていた。そのうちの一人は、無礼にブーツをテーブルの上に置いて座り、大きな金髪のツインテールを揺らしながら、目の前の新聞を見て狂ったように笑っている。
フユヒコがテーブルに近づくと声をかけた。
「よお、エノシマ。何がそんなにおかしいんだろ?」
「やあ、キミたち!」
四年生の少女は新聞越しに二人に向かってニヤリと笑った。
「ねぇ、今朝の『日刊予言者新聞』見た?この雑観、マジウケるぞ!」
「そうか?」
最高の状況でもエノシマ・ジュンコのユーモアのセンスには疑問が残ることが知っているハジメは、不安げに他の女子を見やり、「そんなの面白いのか」と静かに問いかけるような目で見た。ペコは少し首を傾げ、その隣のイクサバ・ムクロはわずかに肩をすくめた。サイオンジ・ヒヨコは完全に無視した。
「じゃあ、教えてよ。俺たちは見てないんだ」
ジュンコは呆れた顔をした。
「自分で読めばいいじゃん!」
彼女は新聞をハジメの手に押しつけ、マニキュアを塗った指先で例の記事を指差した。
『ハッフルパフ寮生に恋するべき理由』
…あ。
ふーん。
「一体どこが面白いんだろう?」
そう言いながら、ハジメは雑観に目を通した。バレンタイン時期の話題性のある、どうでもいい記事に過ぎない。
ジュンコは一瞬にして顔を曇らせた。
「面白くない。間違ってる」
「誰かの『意見』なんだから『間違ってる』わけがないだろう」
ヒヨコは不敵に笑った。
「気にしなくていいじゃーん。どうせ、誰も『優等穢れた血』くんが理解してることは期待してないんだもんねー!」
他の人だったら、ハジメは怒ったかもしれないが、ほっといてため息をついて、新聞をぼんやりとめくっただけだ。
「いやー、誤解しないで。ハッフルパフ寮生はいい子だしね?」
ジュンコは独白しながら指を振った。
「例えば、マコトってマジかわいい。でもちょっとマイペースなんだよねー。知的についていける人がいいんだけど、ハッフルパフの子じゃちょっとね。悪気はないぞ、フユヒコ」
「いや、いいんだ」とフユヒコは呟いたが、ハジメはその顎の固くさから、完全によくないと思っていることを察した。
記事の内容に対して何かの賛意しなければと思い、ハジメは元のページに目を戻した。
「でも、別に悪いことじゃないと思うんだけど?ハッフルパフ寮生に見られる好ましい特徴を指摘してるんだ。忠誠心、面倒見、正義感、包容…。一理あるだろ?俺ならハッフルパフ寮生と付き合いたくなるかも」
ハジメは、ジュンコの目が完全に捕食者の視線になったとき、自分が失敗したことを悟った。
「へぇー。そ~でしょ~?」
ヒヨコは眉をひそめた。
「えぇー、まさかゲロブタみたいなやつが好きなの!?」
「ミカンは悪い人じゃないよ」と、ハジメはゆっくりと、外交的に言った。
「でも、いや、えーと、出来たら付き合いたいのは、例えば――」
フユヒコ。
その名前は、口に出そうと思う前に、ハジメの喉で乾いてしまった。
え?
なぜ、フユヒコが最初に思い浮かんだのか?
「で、ヒナタ?」
ペコはやっと語り出して、真紅の瞳にわずかな笑みを浮かべた。
「一体誰がいいのか?」
ハジメは水から出た魚のように大口を開けて、女子たちに見つめられて頬を熱くなるのを感じた。
「俺は、ええと…」
ジュンコは短い爆笑をした。
「なーんだ、チアキに決まってんだろう!そんなに謎めいた態度をとる必要はないよ、ハ~ジメ」
小悪魔のような大きな笑みが、彼女の顔に伸びた。
心の中に渦巻く混乱の中で、ハジメはある気づきを突きつけられた。この人はエノシマ・ジュンコだ。ハジメが何を考えているか知っている。ハジメを弄んでいるのだ。
他人のプライバシーに配慮しない天性の「開心術士」は、実に恐ろしいものだ。
「あ、うん、そうだな」と不安げに言い、その言葉を逃げ道として額面通りに受け止めることにする。そして、次の瞬間、自分が何を認めてのかが分かって心臓がバクっと飛び出し、反応を心配して視線をフユヒコに飛ばした。しかし、小柄のハッフルパフ寮生は、この話題には微塵も興味がないのか、顔をしかめているだけだった。
「もう座って何か飲もうか?」
フユヒコはハジメを軽く押し、ブースに座るように促した。
「足が痛くてもうたまらねーんだ」
「あ、うんっ」
ハジメはすぐに、ジュンコではなくペコが座っている方の端に腰を下ろして、そしてフユヒコがその隣に座っていても、ぐるぐると渦巻く思考を鎮めようとした。
当然、フユヒコはハジメがチアキと付き合いたいと言っても怒らないし、驚きもしない。あまりにも自然で、当たり前の結論なのだ。当然すぎる。
当然すぎて、ハジメ自身、なぜそうでないのかがわからない。
ハジメは深呼吸をして、顔の下半分を両手で覆い、左側に座っている少年が太ももに押し付けてくる心地よい、しかしあまりにも気を引く温もりを無視しようと、自分の取り巻く他の雑音を遮断して、思考に没頭した。自分は…フユヒコと付き合いたいのだろうか?
そう思いながらも、耳先が火照るのを感じた。
フユヒコと付き合うなんて……そんなの……。まあ、ハジメは今まで誰とも付き合ったことがないのだから、参考になるようなことはないんだろう。でも、一緒にいて楽しいのは事実だし、今日のように学校以外で一緒にいる機会があるのは、とても嬉しいことで、それで――
今日ってデートだったのか?
ハジメは、今日の記憶を振り返って、頭がくらくらした。買い物をしたり、笑ったり、冗談を言ったり、甘えされたり……。気づかないうちにクズリュウ・フユヒコとデートしていたのか!?
激しく首を振った。集中力の切れ目に、フユヒコの戸惑っている視線を感じたが、それを打ち消した。いやいや、二人はただブラブラと遊んでいただけなんだ。
でも、もしフユヒコとのデートがそんな感じだったら……。まあ、全然嫌いじゃないんだけどね。
突然、クリスマス・ダンスパーティを思い出し、その思い出が重なり、もう耐えられなくなりそうだ。もしフユヒコとのデートが、フユヒコとの「本当の」デートが、あの身体的な接触、あの甘美で心地よい温もりも含んでいたら…手と手、肌と肌、あるいは………。
ハジメは喉に息を詰まらせ、思考から自分を追い出し、フユヒコからなるべく離れるように右に体をすくめた。
「ヒナタ!?」
ペコが驚いたように呟いたが、それはハジメが彼女の膝の上に半分乗っでしまうところだったのだから、当然といえば当然の反応だ。
だけど、フユヒコとそんな関係を本当に望んでいる度合い……その欲求の強さに、今、気づいたの、圧倒されてしまう。恐ろしすぎるんだ。
「なーんだ、この変なやつ」とヒヨコは嗤った。
しかし、ジュンコは笑った。
「あーあ、ほっといてあげてねぇ」と、彼女はニヤリと目を輝かせながら叱った。
「こいつは今、明らかにいろーーーんなことを考えてんのぉ」
激怒して、屈辱して、ハジメは彼女の方を精一杯睨んだ。
(くそくらえ、エノシマ・ジュンコ!)
その棘のついた敵意に対して、ジュンコの笑みは耳まで伸び、ハジメは自分の顔が焼け落ちるかと思った。どうしてムナカタに「閉心術」の指導を頼まなかったんだろう!
「おい」とフユヒコは囁いた。ハジメは今、相手の少年を直視できるかどうか自信がないけど、無理やり試してみた。
「大丈夫か?バタービールも飲んでねーんだ」
ハジメは目の前に置かれた飲み物に気づかなかったが、今、パイントの泡立つ飲み物を見つめながら、自分の中に沸き起こる甘ったるい感情の上に、こんなに甘いものを飲んで、すぐに吐いてしまうなんて想像しかできなかった。
「俺…悪い、食欲がないんだ」と白状した。
「ただ、その…なんか…守護霊のことが気になって……」
フユヒコの金色の瞳は理解したように柔らかくなり、ハジメはすぐに罪悪感を覚えた。そうだ、フユヒコはこういう人だし、ハジメは誰よりも喜んでフユヒコに打ち明けたいことは山ほどある。しかし、この問題なら…理解してくれるかどうか確信が持てない。
「俺のをどうぞ」と呟きながら、ハジメはパイントをフユヒコに押し付た。
「そろそろ先に城に戻ろうと思うんだけど…」
「おう、いってら」
フユヒコはハジメが去る余裕を譲るためにブースから離れ、ハジメはテーブルから身を引いた。ジュンコの視線を無視して、「守護霊の呪文」の練習に戻ろうと女子たちに言い訳をした。
「なあ、」
フユヒコはハジメの買い物袋を渡しながら、こう囁いた。
「エノシマはなんかアレだけど、それ以外、今日は悪くねーんだろうな?」
ハジメの胸がときめいた。
「ああ」とハジメは自動的に、真剣に言って、そして思わず微笑んだ。
「本当に楽しかったよ。ありがとう、フユヒコ」
―――――
結局、あの日のホグズミード村での思い出は、守護霊を創り出すことはなかった。
創り出したのは、温かみのあるバター色の照明、遠くで行われていたクィディッチの試合の響き、そして「必要の部屋」の開いた扉に囲まれた、小さな戸惑う少年の思い出だった。
以前は、この思い出は効かなかったかもしれない。しかし、新たな文脈を得たことで、この思い出はハジメが、他の誰にも理解されないように理解してくれる人と初めて会った時の思い出になった。
ハジメが恋に落ち始めた時の思い出になった。
銀色のヤマネコが部屋の中を歩き回り、ハジメの脚をかすめる(何も感じなかったが)のを畏敬の念を持って見ていていた。観察しているムナカタは評価するように頷いた。
「よくやった。今後、同じ結果を再現するのは比較的簡単なはずだ。今回の呪文を唱えた時の気持ちを思い出せばいい」
「うん」
ハジメは、ヤマネコから目を離すことができない。やっと有体のある守護霊を作ることができたと思うと、まだ信じられない。
しばらくしてハジメは、ムナカタも猫から目が離せなくなっていることに気づいた。しかも、首席は眉をひそめて物思いにふけっている。
「何だ?何か問題でもあるんだろう?」
ムナカタは鼻から息を吐いた。
「問題なんて…ない。ただ…」
彼は腕を組み、人差し指を上腕に当てた。
「以前、有体のあるものを作ろうとした時、あなたの守護霊は何か…違うものになるような気がしていた。オレはてっきり大型の犬か、あるいは狼だと思っていた。確かにこんな小さなものではなかった」
しばらく考え込んだ後、ムナカタは肩をすくめた。
「そんなことはどうでもいい。守護霊がどうなるかは、顕在化するまではわからないのだろう」
「あ…ああ、そうだな」とハジメは不安げに同意したが、顔が耳の先まで熱くなるのを感じた。
彼は無知ではない。守護霊が姿を変える理由くらい、ちゃんと知っている。
そして、誰の守護霊がヤマネコになるかなんて、校内で聞くまでもないんだ。