はちみつの薬(1/3)1
「なあ、一日寮を交換したら?」
ハジメは、背中合わせに座っていたためフユヒコの表情は見えなかったが、冗談だと思い、笑って答えた。
「ああ、だったらいいな」
「いやマジだ。互いに変装して、一日寮を交換したらどうだ?」
ハジメは薬草学の宿題を見ながら顔をしかめた。マジか?
「でもそんな変装が、その、うまくできるかどうか…な」
と、具体的なことには触れないように言った。ハジメは数ヶ月前、ちょうど15歳の誕生日の頃に大幅な成長期に入っていて、自分より頭半分以上背が高くなっていることを思い出させられるのがフユヒコが嫌だった。
フユヒコが背後から動くのを感じたハジメは、後ろに転ぶ前にソファの背もたれに体を預けた。
「あのなぁ、ここがどこの学校か忘れたのか知らねーがこれ――」
フユヒコは開いた魔法薬学の教科書を、ハジメの顔に押し出した。
「ポリジュース薬。聞いたことねーのか」
「めちゃくちゃ高度の魔法薬じゃないのか?」
ハジメは目の前のページをざっと見て、言った通りと確認した。
「フユヒコ、俺たち二人じゃ無理だよ」
フユヒコは本を受け取りながら、簡単にこう言った。
「じゃあ、誰かに手伝ってもらおーか。オメーの寮監ってスラグホーンじゃねーの?アイツにお願いしてみろ」
「スラグホーンがそんなことするわけ…ちょっと待て、まずなんでだよ!?」
ハジメはフユヒコに向き直った。
「この提案はちょっとおかしいと思わない?」
「オメーだって、交換すればいいなって言ったじゃねーか。さっき」
と指摘し、フユヒコはドヤ顔で笑った。
「あれ誇張表現だ」
「ふーん、そう?」
ハジメは黙って、口を引き結んだ。確かに、ハッフルパフを試してみるのは耳寄りな話だ。スリザリン寮生たちのほとんどは、だんだん理解できるようになったが、親友やいとこと一緒に学校生活を過ごすのは楽しいことだろうな…。
「そうだと思った」
フユヒコは腕を組み、勝ち誇ったようににっこり笑った。
「じゃあ、やる?」
「そんなこと言ってないよ」
ハジメは一旦間を置き、そしてため息をついた。
「でも…そうだよな。うまくいく方法が見つかったら、いいんじゃない?」
「その意気だな」
フユヒコはソファに散らばった羊皮紙を片付け、魔法薬学の教科書を二人の間に置いた。
「とにかく、スラグホーンが問題外でも、同じ学年にポリジュース薬が作れるやつがいるか知るべきだと思うんだろ?オレのクラスで、レイブンクローのやつらは魔法薬学の天才の五年生がいるとか言ってたが、O・W・L試験の受験生を困らせるのは情けねーな…」
「うーん…」
ハジメは、自分の魔法薬学クラスの生徒を思い浮かべながら、頭を悩ませた。
「そうだな、スリザリンやグリフィンドールには、特にいな……いや、待てよ……」
フユヒコは眉をひそめた。
「なに?」
ほんの一瞬躊躇した後、ハジメは続けた。
「グリフィンドールに一人――いや、魔法薬学の才能があるかわからないんだけど、あいつはいつも…違うように見えるんだ」
「違うように?」
「例えば…」
ハジメは両手で漠然と手振りをした。
「いつも違う髪、違う目、違う顔で授業に来るんだ。みんなはあいつを『詐欺師』と呼ぶんだけど…」
フユヒコの金色の瞳が輝いた。
「アイツ、ポリジュース薬を使ってると思うのか?」
「なぜそうするかはわからないけど、可能背があるんじゃない?それともあいつ『七変化』なのかも」
「おいおい、同じ学年に二人も『七変化』がいるなんて、冗談だろ?」
フユヒコは呆れた表情をした。
「とにかく、今のところアイツに賭けようか。今度会ったら聞いてみろ」
2
「両方だ」
ハジメは詐欺師に目を白黒させた。
「え?どういう意味だろう?両方って」
「お前の質問の答えだよ。私はある程度の『七変化』という能力を持っている」
詐欺師は授業の終わりの片づけをしながら、説明に飽きたような様子で言った。
「しかし、その技術を磨くため、ポリジュース薬にも手を出しているんだ。そうでなかったら手に入れないような可能性への扉を開いてくれるんだ」
「他にどんな可能性を求めているのか?」
ハジメは、もう一人の少年が地下牢教室から出たのを追いながら、大きく目を見張った。
「だって、もう『七変化』なんだろう?それで十分すごくない?」
詐欺師はため息をついた。
「生まれつきの能力で変えられるものには限りがある。身長、体重、性別、声帯…」
「声帯すら変えられないのか?」
核を曲がる寸前で立ち止まった詐欺師は、ハジメを鋭く見つめた。今日はアイスブルーのつり目か、とハジメは気づいた。
「ヒナタ。いきなり私の能力の話について話しかけてくるなんて、妄想もつかないよ。ポリジュース薬のことなら、何でも聞いていい」
「ああ…」
ハジメは恥ずかしそうに笑った。
「そんなに簡単なのか?」
「悪意がなければ、クラスメイトを手伝うのは構わないよ。そして、ヒナタから何の悪戯が感じないんだ」
詐欺師はそう言って、肩をすくめた。
「俺が何に使いたいのか、知りたくないの?」
「私には関係ない。私のこともヒナタには関係ないと同じなんだ」
ハジメは思わず苦笑した。
「そ、そうだな。詮索して悪いな」
詐欺師はまた肩をすくめた。
「いずれにせよ、今回の薬は4時間程度だけど、数週間後にもう少し長持ちするようなのを完成させるつもりだ。その先は…学期末に近づいているから、夏までに次の薬を始めるつもりはなっかたんだが…」
「あ、いえ、大丈夫だよ!」
ハジメは両手を振って否定的に言った。
「今回の薬は十分だ!ただ、その…問題なかったら、二人分をお願いしたいんだ」
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※「二人の七変化」:このパロでは、77期生はテディ・トンクスと同じ学年(登場予定ない)