30日CPチャレンジの13日目『アイスクリームを食べる』 シチリアは…味のあるところだ。
ハジメは、フユヒコが本気で別荘に招待してくれたとは思っていなかったが、案の定、夏休みに入って1週間も経たないうちに、イズルが手紙を持って寝室の窓から飛んできた。その手紙には国際煙突飛行ネットワークを利用するための具体的な手順と、イタリア語の住所を指定するための非常に詳しい発音ガイドが書かれていた。「ドロミーティのクソド田舎にはまりたくなかったらな」と。
ハジメはドロミーティのクソド田舎にはまったわけではなかったが、クズリュウ家が別荘を構えたパナレア島北西部もあまり活気がない。いや、魔法界の土地としては理にかなっていると思うが…。もちろん、悪いところではない。海の眺めは素晴らしいし、山腹の散歩道も嫌いではないが、昼食後、港近くの商店を散策しようと山の反対側まで行ってみると、やはりあまり産業がない…。ハジメは、イタリアにもっと期待していたんだ。
「そんな目で見んな」
フユヒコは眉をひそめてそう言った。
「ああ、ほら。趣味があって悪くねーだろ?」
「趣味がある、か」とハジメは繰り返し、商売というより老婆の物置小屋のような小さな店を覗き込んだ。
「黙れよ、ボケ」
フユヒコはハジメの脛を軽く蹴った。
「明日はもっと大きな島に、次の日はパレルモに行く予定だけど、今日はのんびりパナレアでぶらぶらしよーぜ。ああ、そういえば……」
フユヒコは懐中時計を取り出すと、さっと目を通した。
「やべっ、もうすぐリポーゾだ」
「リポーゾ?」
「みんな店閉めて昼寝するから、まるでゴーストタウンになっちまうんだ」
これ以上にゴーストタウンになるのか!?と思ったハジメは皮肉な言葉をかみ殺した。これまで出会った島民のほとんどが英語を話せなかったが、念のため、不快な思いをさせたくはなかった。
「閉店する前に何か食べよう。ハジメ、イタリアの本物のジェラート食べたことあんのか?」
「本物の…」
ハジメは友達を見下ろしながら、瞬きをした。
「えーと、ないかな?ないと思うんだけど?」
フユヒコの顔にニヤニヤとした笑みが広がっていた。
「楽しみしろよ。ほら、この角を曲がったところにジェラテリアがあるんだ」
ハジメはジェラテリアはどんなものなのかよくわからなかったが、石造りのひさしの下にあるアイスクリーム屋台よりも、もっと立派なものを想像していた。しかし、フユヒコに店主と話させながら、ハジメは味のわずかな選択肢に目を通し、結局フユヒコが注文したのと同じチョコレートとヘーゼルナッツの種類に決めた。
「よし、いいか?」
フユヒコはそう言うと、二人は屋台から離れ、店主は見送ってから店じまいをした。
「言っとくけど、一口でオレに感謝することになっちまうよ」
「俺よりお前の方が楽しんでる気がするな」とハジメは言いながら、小さなプラスティックスプーンでデザートを軽くつついた。
「あーはいはい、そういう態度もすぐ変わるんだ。ほら、食ってみろ!」
肩をすくめながら、ハジメはジェラートを少量すくって一口食べた。舌の上で溶けると、甘くてナッツのような濃厚な風味が残り、喉越しの冷たさが、頭上に高く昇る太陽の下でとてつもなく満足感を与えてくれた。美味しい。確かにとても美味しいんだ。しかし、ハジメの本音を言えば…。
「普通のアイスクリームと変わらない味だ」と、彼はスプーンを見つめながら言った。
「はあ!?」
フユヒコは自分のジェラートを食べながら声を上げた。
「正気か!?もっとうめーのに決まってんだろ!」
「いや…本当に違いを感じないんだ」
ハジメはもう一口食べてみたが、うん、確かにアイスクリームと変わらないように思えた。
「テメー、自分の味覚がおかしくなる呪いをかけてんのか!?」
「かけてねえよ」と、ハジメはスプーンの周りで口を尖らせて言った。
「だって、普通に美味しいんだよ?アイスとどう違うのかわからないだけだ」
「もっと濃厚だろ!それに、もっと牛乳が入ってんだ」
「だったらなんでお前は好きなんだ?」
「うっせーんだ!」
フユヒコはまた足首を蹴った。
「牛乳はクソみたいな味がして、ジェラートはしねーんだ!そんな許せんことを言い続けんならオメーのも没収してやるぞ!」
「ってゆーか」と、ハジメはニヤニヤしながら言った。アイスとジェラートの違いを論じるというより、フユヒコをからかって挑発するのが目的になった。
「ジェラートがアイスより優れてるわけないだろう?フレークもついてないんだ」
「フレークなんてどうでもいいじゃねーか!このクソ英国人!」
「お前も英国人じゃないか!」
ジェラートを食べきるまで二人は仲良く言い争い、ハジメはスプーンでボウルの底をこすりながら、考え込むように口ずさんだ。
「そういえば、この味はなんていう名前だったっけ?うまかったよ」
「んん?」
プラスチックスプーンを噛みながら、フユヒコはちらりと見上げる。
「バーチョってゆーんだ」
「バーチョ、か」
ハジメは繰り返し、その言葉を口にしてみた。
「バーチョ、バーチョ…バーチョ……」
「っ、バ、バーチョバーチョゆーなよ」
閉店した店先を見回しているフユヒコがそうつぶやくと、ハジメは相手の少年の頬が薄桃色に染まっていることに気づいた。
「あれ?」
ハジメも店先を見渡したが、何も不思議なことはない。
「バーチョってことか?なんで?バーチョってどういう意味?」
フユヒコはさらに顔を真っ赤に燃やした。
「い、言うのやめろって言ってんだろ!」
「でもどういう意味だ?」
「そんなこと言ってねーんだ!とにかく言うなよ!」
ハジメは眉を上げ、口角も上がっているのを感じた。
「何を?バーチョ?」
フユヒコはハジメの脛に総攻撃を仕掛け、うっせーんだ、笑うな、落としたボウル拾え、ポイ捨てすんな、とにかく静かにしろリポーゾだっつーの!と怒鳴った。
ハジメは、リポーゾの時にどっちが騒いでいるかは指摘しないことにした。
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・イズル=このパロでは、ハジメくんのクロオビヒナフクロウ。
・フレーク=棒状のチョコバー。イギリスでソフトクリームに付く定番です。最近見かけているもり〇がさんのチョコフレークバーと全然違う。がっかりした。
・バーチョ=ググってみて!☆