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    906

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    伽羅ちゃんが年長さんくらいの謎時空ネタ3作目。
    何でも許せる方向けの卒園式話。

    全話通して、かっこいい長谷部が好きな方には向かない傾向があります。
    日本号&福島光忠が出ます。

    おもいでのアルバム松の内も明け、本丸は日常を取り戻していた。
    ちいさな大倶利伽羅は、無事ランドセルの準備も終わり、春から小学校に通うのを楽しみにしていた。無論、本人は嬉しそうな素振りだなど見せているつもりはないが、ランドセルを見つめると、思い出したように舞う薄紅色の花弁は、ごまかしようのない大倶利伽羅の気持ちを表していた。

    「「「出席は2人まで!?」」」
    常日頃から賑やかな伊達組の部屋に、3人分が重なった声が木霊する。
    正面に座るちいさな大倶利伽羅は、その勢いに吹き飛ばされそうで、腹に力を込めて、なんとか持ちこたえた。
    「…せんせいが、今は密になるのはいけないからだ、と言っていた」
    キリっとした表情に「伽羅ちゃんはやっぱりカッコいいねぇ」と相好を崩しているのは燭台切光忠だ。
    「いや、光坊。そんな呑気なことを言っている場合じゃないぜ。こいつは困った驚きだ。伽羅坊の卒園式、みんなで行けないじゃないか」
    鶴丸の「みんな」が果たしてどこまでを指すのかはわからなかったが、大倶利伽羅は、
    「ほいくえんのみんなが困るから、たくさんで来るな」とはっきりとした声で言った。

    嵐の予感である。

    鶴丸国永、燭台切光忠、太鼓鐘貞宗はもちろん、本丸にはちいさな大倶利伽羅を可愛がる男士が多い。
    近侍の長谷部の采配のもと、公正に抽選で出席者を決定することとなった。
    我こそは大倶利伽羅の保護者だと自負する者、賑やかしで参加する者、よくわからないが参加する者、勝負事には参加しない選択肢がない者、と気づけば本丸内の半数近くが参加する、一大くじ引き大会となってしまった。

    まるで敵前にいるかのような、張りつめた空気の中で当たりを引いたのはーーー
    福島光忠と日本号であった。
    静まり返る大広間に、眠そうな日本号のため息と嬉しそうな福島の声が響く。
    「光忠。伽羅くんの卒園はお兄ちゃんがしっかり見届けてくるから安心してくれ」
    あろうことか第一声がそれである。燭台切光忠の視線が一瞬にして鋭くなり、
    「気安く伽羅ちゃんのこと呼ばないでくれます?あと、僕に兄とかいませんので」
    絶対零度の斬撃が繰り出された。
    「結果に異議は認めん」という長谷部の一言で、その場は鎮められた。

    くじ引きから幾日も経つが、伊達組の部屋が異様に静かである。
    「鶴さんもみっちゃんもいつまでも男らしくないぜ!卒園式、みんなで見られるよう、長谷部にお願いしてみたからよ!」
    切り替えの早い貞宗に対して、鶴丸と光忠の落ち込みは継続していた。
    伊達の名が廃る無気力ぶりである。
    情けない姿にため息をつくと、貞宗は魔法の一言を繰り出す。
    「ほら、伽羅だってそんな二人を見たら悲しむぜ!!」
    大倶利伽羅が悲しむ、その一言だけで先ほどまでの醜態が嘘のように動き出す。
    「貞坊の言う通りだな。光坊、伽羅坊の卒園式の服、まだ準備終わってなかったよな」
    「ごめん。僕ってばカッコつかない状態だったね。伽羅ちゃんをカッコよくするのに、僕たちがこんなんじゃダメだよね」
    絶大な効果を放つこの一言に、貞宗は満面の笑みで答える。
    「そうだぜ、鶴さん!みっちゃん!」
    勢いよく3人の拳が突き上げられた。
    『すべては伽羅(ちゃん)(坊)のために!!』


    いよいよ卒園式当日。
    大倶利伽羅は、鶴丸・燭台切・太鼓鐘に存分に着飾られた。髪は撫でつけられ、シャツの袖にはカフスボタンが留めてある。ボタンには刀紋があしらわれているこだわりようである。小さな伊達男の出で立ちだった。当初は羽織袴も提案されたが、動きにくいと必死に断り、スーツに落ち着いたらしい。ハーフ丈のパンツスーツは、大倶利伽羅によく似合っていた。さすが『ちいさな大倶利伽羅を愛でたおす』伊達組の手腕である。

    「いってきます」
    「しゃーねぇ、行ってくっか」
    「号ちゃーん、ネクタイちゃんと締めてよ!」
    三者三様の言葉を残し、ちいさな大倶利伽羅と保護者の御一行は本丸を出陣した。

    留守番組は大広間に集合だ。
    大倶利伽羅たちを見送ると、長谷部からそんな通達が入る。
    一体何かと集まった大広間には、大きなスクリーンが立てられていた。
    「長谷部くん。これどうしたの?」
    光忠が驚きを隠せない様子で問う。
    「日本号には最新式のビデオカメラを渡してある。撮影しているデータをすぐに投影するぞ」
    「LIVE配信だ。今日のためにプロジェクターも購入したからな!」
    自慢げに言う長谷部に、一同は『おぉぉ!』と歓声を上げる。
    が、
    「どこに線を繋ぐのだ。」
    「映らんぞ」
    長谷部の不得手のせいで、画面は何も映し出さない。
    「ねぇ、あと15分で式始まっちゃうよ――」
    「この機械音痴!」
    「頑固者ー」
    「守銭奴―!」
    「不器用ー」
    「主至上主義ー!」
    「主至上の何が悪い!」
    「ちょっと誰だ!厨のお酒持ち出したの!」
    大広間は阿鼻叫喚である。
    結局、状況を見かねた歌仙兼定と山姥切国広によって、配線と通信の確認が無事なされた。スクリーンに卒園式会場が映し出されたのは、式の開始3分前であった。

    式の会場では、日本号が撮影席に収まった。その長身を生かし、絶妙な立ち位置から動画を撮影していたため、大広間ではスクリーンに映し出されたちいさな大倶利伽羅の姿に、大盛り上がりであった。
    一方、福島光忠は各家庭に設けられた保護者席に待機していた。
    式の途中で、園児からの言葉を受ける役目だ。
    他の園児たちが、具体的なエピソードを交えてお礼の言葉を述べるなか、
    「きょうは来てくれて、ありがとう」
    大倶利伽羅のお礼の言葉はその一言だけだった。

    滞りなく式は進み、大倶利伽羅と手を繋ぎ福島光忠が退場した。撮影も終了したようで、スクリーンの灯りが消える。
    式の余韻に浸る一同の前で長谷部がパンパンと両手を鳴らし、
    「第二部は夕刻から宴会だ」
    と宣言した。

    「伽羅くん」
    帰る道すがら、日本号の後ろを歩く大倶利伽羅は福島に呼び止められた。
    無言で振り向いた大倶利伽羅に、福島は邪気のない笑顔で問う。
    「本当は言いたいこと、あったんじゃないの?あの3人に」
    大倶利伽羅は答えない。ぐ、と眉間に力を入れて、何かに耐えるような表情をした。
    「後で言ってあげなよ。喜ぶよ、きっと」
    自分の予感が当たっていることを確信した福島は、満面の笑みを浮かべそう言った。
    「馴れ合うつもりはない」
    なんとなく諾、と言うのが嫌で、大倶利伽羅はすげない返事をした。
    「うちの光忠をよろしくね」
    「光忠はうちの、だ」
    先ほどとは違う意味で眉間に力を入れ、大倶利伽羅は鋭く刀を返す。
    「ふふ、君もなかなかだよねぇ」
    大倶利伽羅の反撃など物ともしない福島は、満足げな様子で再び歩き始めた。
    「福!坊主をからかうのも大概にしろ。さっさと帰るぞ!」
    背後の不穏な空気を感じながらも、外野に徹していた日本号が口をはさんだ。
    逆光で日本号からその表情は見えないが、大倶利伽羅が不機嫌そうなことだけはわかった。
    「今日は宴会だそうだ。みんな待ちくたびれてるぜ。こんなスーツも息苦しくて着てらんねぇ」
    「号ちゃん!せっかく似合ってるのにー!」
    直前の食えない狸ぶりはすっかり崩れ、福島は情けない声で日本号に縋りつく。
    「…どこの光忠も一緒だな」
    ちいさな大倶利伽羅に生ぬるい目で見られた福島であった。

    本丸では、大倶利伽羅の卒園を祝うという名目で、既に大宴会が催されていた。遠くて宴のさざめきが聞こえる。
    静かな玄関で、大倶利伽羅を出迎えてくれたのは燭台切光忠だった。
    福島をみとめると、一瞬視線が鋭くなったが、何かを言われる前に日本号がうまく躱した。
    「燭台切。俺ら先に飲んでるわ。あとでな、坊主」
    「ありがとう日本号くん。福島さんも…今日はお疲れ様でした」
    光忠の挨拶を背中に受け、何やら言いたそうな福島を日本号が促し、二人は廊下を大広間へと曲がっていった。
    「伽羅ちゃんおかえり。卒園おめでとう」
    「…ただいま」
    ちいさな大倶利伽羅に目線を合わせ、光忠は一際柔らかく微笑んだ。
    「みんな盛り上がってるよ、伽羅ちゃんも行こう?」
    「みつただ」
    「なあに、伽羅ちゃん」
    目線の高さが同じ大倶利伽羅の、真剣な声音に光忠が瞬かせて応える。
    「『お弁当作ってくれてありがとう。みつただのお弁当が大好きです』」
    「へ?」
    不意打ちの言葉に受け身を取れなった光忠の頬は紅い。
    「え。か、伽羅ちゃん、なにそれ」
    「卒園式では、たいせつな人にありがとうの気持ちを伝えるんだ」
    光忠の動揺が伝播したのか、大倶利伽羅もなんだかそわそわした気持ちで答えた。
    「僕にだけ?」
    「…国永と貞にもある。でも三人だけだ」
    「そっか。…嬉しいなぁ、伽羅ちゃんからそんな言葉が貰えたなんて。僕の方こそありがとう。そして本当におめでとう」
    眉がハの字のまま固定されてしまうのではないだろうかと、大倶利伽羅が心配になるくらい、光忠は困ったような嬉しいような顔のままだった。
    「小学校でも遠足のお弁当、作ってほしい。あと最初は学校まで一緒に行きたい」
    「もちろんだよ!」
    大倶利伽羅の常にないおねだりに、パァァァッと顔を輝かせた光忠は、大倶利伽羅を抱き上げた。そして未だまろい頬を優しく撫でた。
    「入学式いつだっけ?みんなで行くの楽しみだなぁ」
    浮かれ気味な光忠の言葉に、大倶利伽羅は首をかしげる。
    「みつただ、入学式も保護者はふたりまでだぞ?」
    「……うそでしょ……」

    春の嵐はまだ、おさまらない。

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    906

    DONEちゅきこさんの【Dom/Subユニバース】『COLORS』シリーズ設定の獅子王×加州SSです。本編メインカプは🍯🌰ですが、こちらは🌰の高校の先輩獅子王くんと🍯さんの同僚加州くんの話。
    チラチラ本編のネタばれアリ。また、D/S初心者の勝手な解釈がてんこ盛りの何でも許せる方向けの極みですので、自衛お願いたします。

    ちゅきこさん、いつもありがとうございます✨
    カサナル、ココロ「痛っ・・・!」
    思わす体がこわばったのは、恋人にも伝わっただろう。
    幾度目になるかわからぬお泊りの夜。
    獅子王は今夜こそは、と内心期待をかけて、加州清光の家へ足を踏み入れた。

    一目惚れから始まった交際はそろそろ半年になる。
    お互い、いい大人だ。もう一段階踏み込んだ関係になっても何も問題はない。そう思っていた。

    何の予定もない週末を控えた金曜日。獅子王は意気揚々と加州のマンションに現れた。手土産にデパ地下のデリでつまみを買ってきた。加州が好きだと言っていたブラッスリーのバゲットは、獅子王の会社からここまでの道のりにあるので、毎週立ち寄ってしまう。
    出迎えた加州が用意した、青江にもらったというチーズをバゲットに合わせ、加州が最近気に入っているという蜂蜜ワインを相伴に預かる。こっくりとした味わいもいいが、やっぱビールが一番だ!と宣うと、呆れたような、それでいて優しさのにじみ出る笑みを浮かべる加州。いつもと変わらない夜だった。
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