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    tsumuginosabu

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    tsumuginosabu

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    何でも許せる方のみでお願いします

    血迷いました書きたいところだけ

    「ちょちょちょ、ちょっと待ってマジで誤解してるから」
     お願いマジで聞いて、と言った彼は珍しく焦っていて慌てているようだった。
    「……なに」
     確かに見たのは一瞬だったけどすごく背の高い綺麗な人だったのは今でも思い出せる。すらりとした手脚が綺麗で、横顔も見えたけど切れ長の瞳が綺麗だった。だから、私じゃダメだって思ったのに。あの時のことを思い出してまたじわりと涙が滲んだ。
     唇を噛んで、ぎゅと手を握り締める。爪が食い込む痛みなんかじゃ、この胸の痛みを掻き消すことは出来なかった。
    「あれ! 女じゃねぇの!」
    「…………は?」
     いや流石にそんな嘘つかれても……それで誤魔化せると思われてんの? 唇が千切れそうなほど痛くて、手から血でも出てるのではないかというほど握り締める力が増していた。
    「マジなんだって! あれ兄貴! 灰谷蘭! ちょ、ほらコレ見て」
     お兄さん、髪短かったじゃん、と言いたげな私に彼は慌ててスマホの画面を差し出して見せた。
     画面にはうわぁ……と少し引き気味な表情をした竜胆と、ノリノリでピースをしているお姉さ――お姉さん? よく見れば一度見たことのあるお兄さんに似てる顔立ちをしているし、言われてみれば――
    「――確かに竜胆よりすごく背が高かったかも」
    「それ判断基準にされんの……? キツ……」
     女の人でそうそうあんなに背の高い人はいないだろう。本当に? と念を押すように聞くと彼はマジだってば と今までに見たことのない勢いで肯定する。なんなら今本人に聞くから聞いててと、そこまでしなくてもと私が止める声を聞かずに電話をすること十数秒後。スピーカーにしたスマホからはお兄さんの爆笑した声が流れてきた。
    『マジ? アレ見られたわけ? ガチウケる』
    「ウケるな 今それどころじゃねえの!」
    『アハハ竜胆クッソ焦ってんじゃん、録音しとこ』
    「にィちゃん!」
     久しぶりに竜胆の兄ちゃん呼び聞いたな〜と当事者である私が呑気に考えてるとお兄さんが私を呼んだ。
    『誤解させてわりーなー。仕事で女同伴っつーから女装してみたところ見られたみたいだワ。アタシ、アタシより背の高いオトコが好みだからさァ〜〜!』
     裏声でそう話したお兄さんに呆気にとられているとお兄さんの爆笑する声とそれに真っ赤な顔して怒鳴る竜胆の声が直ぐに聞こえてきて笑ってしまう。
    「お兄さん」
    『ン〜?』
    「ご迷惑おかけしました」
    『おー竜胆にツケとくから気にすんな〜、じゃ』
     ぶつり。ツーツーツーと通話の終了を告げる無機質な音が部屋の中に響いた。
     気まずい顔をした竜胆が「ごめん……こういうことだから……」と謝ってくる。それをみて再びふは、と笑みがこぼれた。
    「こちらこそ変な勘違いしてごめんね」
     おー……と歯切れの悪い返事をした彼をいつもの様に笑い飛ばした。
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    tsumuginosabu

    DONE百鬼夜行で彼女を亡くした五条と、夏油のことが好きだった女の子の話。

    Twitterで載せていたものの横書きverです。
    画像の文字が読みにくいという方や、横で読むほうが好きという方はこちらでどうぞ。
    「恋心というにはあまりにも」 彼が死んだと聞いた。彼が殺されたと聞いた。それを伝えてきたその人は、いつもと違って表情が抜け落ちていた。きっと、私も同じような顔をしているのだろう。そう思った。
    「傑は、僕が殺した」
    「……そう」
     どこか上の空な返事になった。そっか、死んじゃったのか。なんて、軽く受け止められるような想いを抱いていたわけではない。けれど、どこか腑に落ちたような感覚がしていた。この不毛な恋心の行き着く先は、私か彼の死——これしかないだろうと心のどこかでは理解していたから。

     好きだった彼が、離反という選択をした時点である程度の覚悟はしていた。覚悟はしていたとはいえ、辛かった。
     きっと、夏油は私の気持ちを知っていた。酷い人だと思う。最後のあの日、突き放してくれればこの恋心も捨てられただろうに、それを彼は許さなかった。中途半端な優しさは、かえって人を傷つける。初めてこれを理解した瞬間だった。
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