恐れている事:眼鏡が外れる事ここはゴーラス寮のリビング。
「これはまた…………」
テーブルの上には眼鏡……だった、であろうもの。フレームがへしゃげている上にガラスが割れていて残念ながら元の姿はない。
「あちゃー、光牙〜〜樹の眼鏡壊したって??」
「わ、悪かったけどわざとじゃねぇしっ!」
「はいはい、分かってるよ。どうせぶつかったとかそういうのでしょ?でもびっくりするぐらいバキバキだねぇ」
「見るも無残な姿、とはこういう事だろうな」
「……悪ぃ」
珍しくしゅんとしている光牙さんが樹にぶつかった拍子に樹の眼鏡が外れてさらに運悪く踏んづけてしまった……と言うのが事の顛末らしい。
「ふむ、グリーンは眼鏡がないと日常生活が厳しいタイプか?」
「あっそうだった、眼鏡の替えとかコンタクトとかは持ってないの?」
黄島さんが眼鏡がない状態でソファーに座っていた樹に話しかけるとビクッと肩を揺らした後、
「あの、えっと、……に……かも…………」
なんだかおどおどしているし小声だし様子がいつもと違う。
「あ??なんて????」
「っ」
ちょっと怯えてるようにも見えて明らかに様子がおかしい気がしてどうした?と声を掛けていると突然ロイが樹の方を見て
「なるほど……眼鏡がないと性格が変わるのか。面白いなグリーン!」
「「えっ?!」」
「あーー……ごめん樹、俺が聞き取れなかったからもう1回言ってくれない??そこのロイと光牙は気にしなくて大丈夫だから」
ワクワクした目で見ているロイと不機嫌な光牙さんを抑えつつ黄島さんが話しかける。
「……。よ、予備がラボにあるかも……しれない、です」
「そっか〜じゃあ取ってくる?あ、でもラボの中は流石に俺たちは分からないし樹は動けないか」
「あ、あの」
「それはそうだな。ふむ、手を繋ぐなりしてグリーンを誘導すれば大丈夫だろう。ラボまで一緒に行ってやれ、ブルー」
「わ、わかりました!」
そうこうして樹の手を引いてラボまで歩く。樹はほんとに裸眼だと見えてないみたいで目を細めながら恐る恐る歩いている。
いつもどちらかと言うとスマートに動いてるイメージだしなんだか珍しい物を見たな、と思っていると腕を気持ち引かれて。
「ん、どうした?」
「えっと……すみません」
「いいよ、気にしないで」
「………………認識が出来ないと、不安で」
「うん」
「……その………………怖くて」
と呟くその声が消え入りそうで。だから慌てて引いていた手を両手で握る。
「俺はちゃんと傍にいる。樹さえ良ければいつでも手は貸せるし代わりに見る事は出来るよ、だから」
「本当に……、優しいですね、貴方は」
安心して、と言葉を続けたかったけれどそれだけ言った樹がなんだか悲しそう……いや、寂しそう、に見えた。
「樹……?」
「あの、そろそろ着くと思ったんですが、どうですか?」
「っえ、あ、ああ、もうすぐだよ」
寂しそうに見えたのは次の言葉が出るまでで、気のせいだったのか?と思ってもう少しを歩く為に片手を離す。
辿りついたラボの中に入るとこの辺りにあると思います、と引き出しに近づく。
「あ、あったよ。これ?」
「ああ、ありがとうございます」
顔を上げた樹はすっかり見慣れた姿で先程の表情は伺えず。
「はぁ……ご迷惑おかけしました、本当に助かりましたよ青斗」
「うん……。あのさ、」
「突撃してきたのに気づかなかったので白鷹さんが完全に悪い訳ではないですけど私もスマートグラスの予備を増やすべきでしょうか……」
「ど、どうかな……」