「あの今日、海、行きませんか？」
「……はい？」

波の音が聞こえる。
最近一緒のチームになった彼……深海さんとなんやかんやで海に来ていた。他のチームメイトが個性が強すぎてやっていけるか少し不安になったので1番なんとかなりそうな彼とコミュニケーションをとろうとした、はずなのだけれど。
「あの、なんで海だったんですか？」
「なんか急に行きたくなって……故郷が海に囲まれてた場所だったからですかね……？えっと、緑埜さん、いきなり付き合わせてすいません」
「今日は予定がなかったのでいいですけど……」
季節外れの夕方になった海は他に誰もいなくて寄せる波の音が聞こえる。水面は夕日に当たってオレンジが混じっていて綺麗だ。

『深海青斗くん、多重人格持ちみたいだからお互い慣れるまで注意して見てて』

ふと5人で集まる前に黄島さんに言われた事が頭を過ぎる。切り替わりのタイミングが急だ、とも。急だ、と言う事はよく見ていないと分からないと言う事でもある。
「…………」
「深海さん？」
いつの間にか隣にいたはずの彼は靴を脱いで裾を捲って波打ち際……どころか海に向かって進んで行く。
「……」
「っ深海さん待って！！」
気づいたら彼は膝が浸かるぐらいまで海の中に進んでいた。慌てて追いかけてその腕を掴む。
「…………」
「深海さん、聞いてますか、深海さん！」
今が元人格か分からない以上このまま進んで海に、なんて事もありえる。どんな行動を起こすか分からないし掴んだ腕を離したくなかった。
「…………離せ」
「嫌です！だって今、離したら」
「…………」
その顔に表情はなくて、じわじわと沖に行こうとする彼に思いとどまって欲しくて叫ぶ。
「っ青斗！！！」
「！」
「貴方は深海青斗、ゴーラス5のブルーでしょう？！」
「……ブ、ルー」
「えぇそうです、そして……貴方は私達の仲間です。これから一緒に声福作戦をして行くんですから」
じっと相手の目を見つめる。夕日に照らされた海の色が揺れている。
「帰りませんか？」
「………。………あ、れ」
「気づきましたか？」
「え、海に入った覚えは……」
「……ひとまず上がりましょう。流石に冷えますから」
元に戻ったのか混乱しているであろう彼を引っ張り海岸まで戻る。

海岸まで戻って一息ついたところで、
「あの、えっと、俺なんかおかしかったり……しましたか？」
「正直……そうですね」
「俺、多重人格なんです。でも変わっている間の事はあんまり覚えていなくて……今も止めてくれたんですよね？迷惑かけちゃってすみません」
黄島さんからの話は本当だったかと思いつつ、本人の認識も確認出来たので良しとして明らかに凹んでいる様子の彼に声をかける。
「そうでしたか、謝らなくていいですよ。こちらこそ名前で呼んでしまってすみません。咄嗟に出たので……」
「いやいや！名前で呼んでくれると嬉しいです。その……俺も良かったら名前で呼んでもいいですか？」
そうやってにっこり笑うので純粋な人だな、と思う。今まであまり出会わなかったタイプかもしれない。
先程までの夕日はすっかり沈んでしまって水面は青色に戻っていた。
「……いいですよ。敬語も言いづらいなら外して頂いて構いませんし」
「ほんとか？ありがとう、これからよろしく、樹」
「ええ。よろしくお願いします、青斗」
どうか彼が純粋なままでいてくれますように。
自分の願いを叶える為にも、これから一緒に行動していく上で出来れば気づかれたくないのでそう願ってもいいだろう。