いなくならないである日の朝、いつもより早く目が覚めたのでたまには早く朝食の用意でもしようとしているとバタバタと音が聞こえてきて誰かがもう起きてきたのか?と振り返ろうとすると
「樹っ!!」
「うわっ」
「樹、いなくならないで、嫌だ」
後ろから抱きつかれると言うかしがみつかれている。まるでこの世の終わりみたいな声がしたが声からして青斗だろうとは思うけれど料理中なので振り向けない。
「ちょっ青斗どうしたんですか?!料理中なので危ないですから離して.......」
「.......」
「あの??」
どうやら離してくれる気はない様だ。仕方ないので包丁など危険なものだけ遠ざけて話を聞くことにする。
「はぁ.......急かしませんから話してくれませんか?」
「…………樹が、」
「はい?」
やっと一呼吸置いて青斗が話し出す。
「いなくなる夢を見たんだ、」
「っ」
しがみつかれている腕の力が強くなった気がして心のどこかがチクリと痛む。
「ずっと呼んでたのに振り向いてくれなくて、いなくなって、夢だってわかったけど、それで不安になったから部屋覗いたらもういなかったから怖くなって……」
「それは…………」
「お願いだから居なくならないで……」
「…………」
青斗相手だから嘘でもどこにも行かないと、ずっとここにいるから大丈夫だなんて言えなくて言葉に迷う。
「ひとまず落ち着きましょう?…………たかが夢なんですからそんな、ね」
迷った結果呆れたように少し笑ってみたりして。声が震えていたりしなかっただろうか。笑えている自信がなくて正面から顔を見られてなくて良かった。
「でも、」
「きっと疲れていたんでしょう、嫌な夢を見ただけですよ。それに私は今ここにいますよ。ほら、貴方がしがみついているので間違いないですし」
自分でも説得力がないとは思うけれど青斗は仲間を疑う事を知らないし優しいので私のこんなあやふやな言葉でさえ信じてしまうだろう。
「……そう、だね」
「今日は早く目が覚めてしまったので早めに朝食の準備をしていたんです。びっくりさせてしまいましたね」
「あ……そうなんだ、勝手に部屋覗いてごめん」
「いいですよ。朝食、まだ出来てないので離してくれたら一緒に作りませんか?」
「うん、……ねぇ樹」
「どうかしました?」
やっと腕が離れて行ったので振り返って青斗の顔を見る。思っていたより落ち着いていた。
「樹」
「青斗?」
「……うん、返事が来るのっていいなって思って」
そう言って急にしがみついてごめん、痛くなかった?と聞いてくるその顔は申し訳なさが顔に書いてあって。
だから、つい言葉が口から溢れる。
「……貴方が呼んでくれるなら答えますよ」
決して約束する訳ではない。けれど、いつかは叶わなくなってしまうのだろうから聞こえる限りは答えたいと思ったから。
きっとその時まで心のどこかで痛みを覚えるのだろう。