2LDKの惑星にふたり(前編) 一.どんぐりひろい
春風が吹くたび、厨房でさんざん燻された髪から木炭の香りがした。アパートに帰ってきたら、まずは郵便物のチェックをするのがキバナのルーティンだ。開け閉めのたびに金切声で叫ぶポストの中身がなにもないことを確認してから、軋む階段を上がって部屋を目指す。「かわいいから」という言い訳のもと、ドアに飾られたままのクリスマスリースは、覗き穴を塞いでいるのでいい加減どうにかする必要があった。どうせ同居人は何も気にしていないのだろうから、それはきっとキバナの仕事になるのだろう。
「ただいまあ」
靴底の減ったスニーカーがあちこちにひっくり返っている。キバナはそれらの合間を縫うように進み、脱いだ靴を自分用の靴箱へ片付けた。せめてこの薄汚れたスニーカーくらいは自分で仕舞ってもらおう、と考えていると、リビングのドアからひょっこりと顔が覗く。
5616