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    さき(供養用)

    @Saki_Kannazuki

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    供養用

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    さき(供養用)

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    散蛍が書けない運命みたいです 風邪を引いた。
     厳密に言うと人形は風邪などひかない。しかしながら、とても体調が悪かった。理由は容易に想像できる。『創神計画』は失敗に終わったが、そのための実験やら装置やら神の心などの代償だと思う。
     それは同時に自分が出来損ないで、神の器ではないことを突きつけられることと同じである。今更ながらの苦痛は、僕を蝕んだ。

    「……ブエ、ル……」

     忌々しい神の名を呼ぶ。しかしその呼び声は虚空へと溶けていった。いつもは鬱陶しいほどに関わってくる彼女は、今日は僕に関わりたくないようだ。
     与えられた無機質なベッドに横たわる自分の無力さを嘆く。神になると豪語しておいて、今や風邪を引いたくらいで動けなくなるのだ。

    「……ハハッ」

     全く、笑える話だ。僕はやっぱり、役立たずの出来損ない。どう頑張っても神には成れず、人間らしい心もない中途半端な存在。
     『創神計画』は、ただの旅人によって阻止された。少しは腕も立つようだが、それでもまだ弱い人間。そんなのに、僕は負けた。

    (……何を、しているんだろうか)

     今も彼女はスメールの地を冒険しているのだろうか。それとも、他の場所で戦っているのだろうか。
     どちらにせよ、もう終わった話。これ以上進展することなんて無いだろうし、僕だってしたく無い。

    「……だから、この話は終わり───」
    「こんにちは〜……え!?」

     がちゃり、と扉が開く。反射でそちらに顔を向けると、驚いた顔をした件の少女が目を丸くしていた。軽く身を起こしていた僕の身体を見ては、顔を見る。

    「スカラマシュ!? どうして……!?」
    「それはこっちのセリフだ……それより、頭に響くから静かにしてくれない?」

     どうして彼女はここにいるのだろうか。まあ、おおかたブエルがよこしたのだろう。彼女は何日かここを離れると言っていたし、僕の存在を秘匿しておきたいのだろう。そこらの賢者ではなく、僕の事情の全てを知っていて、尚且つ最も信頼のある旅人に。

    「私は……ナヒーダに、『病人がいるから介抱して欲しい』って言われて……」
    「そういうことね。……その病人ってのは、紛れもなく僕のことさ……ッ」

     ずきり、と背中が痛む。管が伸びていた場所が、引っ張られているようで痛い。足のない人間がないはずの足を痛める、といった幻肢痛ではないが確かに痛覚が機能していた。

    「ど、どこか痛いの?」
    「……っ別に。ただの風邪だ」

     ただでさえ負けたっていうのに、弱いところを見せるには憚られた。かといって風邪は言ってもいいのかと考えるとそうではないが、傷よりはマシだ。

    「うーん……とりあえず、ご飯とか作ってくるね。食べてないでしょ?」
    「僕に食事は必要ない」

     彼女はいいから、と部屋を出て行ってしまった。温かい食事を出されたとしても、この調子じゃあ食べられるか分からない。そもそも人形だから食事は必要ない。あの女が持つ僕に対しての情報が間違っているのかもしれない。

    (……そういえば、あの女の名前はなんだったか)

     確か、光るモノの名前だったはずだ。自ら光を放ち、闇夜を照らすモノ。彼女の金の髪と瞳、そして性格に相応しい名前。
     起き上がらせていた身を横たわせ、布団を被る。あの女の名前を知っていようがいまいが、僕には関係のない話だ。

    「───出来たよ〜!」
    「うるさ……」

     先ほど言ったことをもう忘れたのか。病人に対して大声を出すほど、旅人様はモラルがなっていないようだ。

    「稲妻風の料理を作ってみたんだ! お茶漬けっていうんだけどね……スカラマシュって、稲妻出身?」
    「…………まあ」

     どこで造られたかと言われれば、確かに稲妻だ。だがあの土地は今や僕にとって忌々しい場所であり、戻りたくなんてない。
     彼女が配膳用の盆に乗せている茶碗からは、白い湯気が立っていた。上には鮭のようなものが乗っている。

    「よいしょっと。……はい、あーん」
    「……なんの真似」

     彼女は一口分掬ったスプーンを、僕の前に差し出す。間抜けにも彼女自身の口も開いていて、僕がそれを食べるのを今か今かと待っている。

    「食べさせてあげる」
    「……」

     多分、部下なら殺していた。けれどだるい身体と彼女に負けた事実から、なんとなく断ることができなかった。きっと風邪で正常な判断ができないだけだ、そう割り切って素直に口に入れてみた。

    「……っ」
    「…………なに」

     予想通り、驚いたような顔で固まっていた。その顔は滑稽で、してやったという気持ちになる。
     ふるふると震えた彼女の手を掴む。慌てふためく様子に、一つの仮説が生まれる。

    「あ、あの……スカラマシュ? 手、その……」
    「ああ、ごめんね。君の作った料理があまりにも美味しくて」

     おそらくこの女は、僕に惚れている。こんなに利用価値のある女を放ってはおけない。普段は気持ちが悪いと吐き捨てるような物言いをしながら、彼女を見る。

    「え……!? あ、ありがとう……その、えっと……」
    「もう一口、食べさせてよ」

     耳まで顔を染める女。さて、落としたらどう利用しようか。彼女の力ならこの場所からも脱出できるだろう。スメールだけでも十分広いのだから、ブエルの監視下から逃れるのも容易い。

    「あ、あーん……」
    「あーん」

     あっという間に茶碗の中は空っぽになった。少しは、料理も美味しいと感じれるものだったし、この狭苦しい牢屋から抜け出す希望も見えてきた。

    (こんなところからは、おさらばかな)

     彼女の純情には申し訳無いが、絆される人間の方が悪いのだ。
     そこまで考えて、そういえば名前を聞きたかったと思い出す。僕に淡い想いを抱いていることに加え、風邪だと思い油断している彼女には聞きやすいだろう。

    「ねえ。そういえば、名前を聞きたいな。君を名前で呼んであげたいんだ」
    「あっ……ほ、蛍! あの、虫の蛍だよ!」

     ホタル、ほたる、蛍。以前部下が作っていた調査書にもその名前があった。その名前は今思えば確かに彼女に似合っている。眩い、太陽のような少女。

    「蛍。看てくれてありがとう」
    「ど、どういたしまして!」

     えへへ、と間抜け面で笑う蛍。恋をするように頬を染める彼女は、やはり滑稽に思えたのだった。


     気づけば、一週間が経っていた。僕の身体は以前よりはよくなっているものの、いまだに万全な状態とは言えなかった。そんな間も彼女は献身的に介抱をしてくれた。

    「今日も持ってきたよ〜ご飯!」
    「ありがとう、蛍」

     いつものように蛍に食べさせてもらう。こうやってスプーンで食事を食べさせられるのも、もう慣れたものだ。

    「そうだ、もう結構シャワーとか浴びてないんじゃ無い? 体拭いてあげようか?」
    「…………は?」

     まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。仮にも僕は男の身体を持っていて、彼女は女だ。男の身体を拭くなんて、貞操概念はどうなっているんだ。
     
    「君……作り物でも僕が男だって忘れてない?」
    「……あ、」

     途端に顔を赤らめる蛍。ようやく気付いたようだ。

    「───ふーん。じゃあ、こうされても良いのかな?」

     蛍を押し倒す。しかしながら、彼女は大きいリアクションをしなかった。てっきり慌てふためくぐらいはすると思っていたのに、否定もせずただ目を見開くだけだった。

    「このまま僕に犯されても、いいのかい?」
    「……っ……」

     嫌だとか怖いだとか、普通の少女らしいことを言ってほしいのだ。でなければこちらも萎えるというもの。ただでさえ人形には生殖機能が無いのに、勃つものも勃たない。

    「何かいいなよ。名高い、神をも地に付けた旅人さん」

     彼女の頬に手を添える。彼女はただ、目をキツく閉じて震えている。嫌なのか堕ちたいのかはっきりして欲しい。

    「どう、して……私なの?」
    「───黙れ。君がぺらぺらと喋る権利なんて与えた覚えはない」

     彼女の口を無理矢理塞ぐ。人と口付けをするだなんて死んでも嫌だが、いつまでもうだうだする蛍の方がもどかしい。

    「んっ……っ!」

     足をバタバタとさせて、必死に抵抗する蛍。情けなくて、もっといじめたくなる。
     ああ、ぐちゃぐちゃに犯してあげたい。生理的な涙を流しながら嫌がる彼女を、無理矢理蹂躙したい。

    「こういうの、好きなんでしょう?」
    「人の恋心踏み躙って、何が楽しいの……!?」

     ようやっと息を吸えて、過呼吸気味に胸を上下する蛍。そう、その顔を見たかった。
     そんな彼女の嫌がる顔に興奮している自分がいることも、隠せなかった。

    「でも君、逃げないんだね。本当は僕にこうやってされるの、期待してたんじゃない?」
    「……そんな、こと……っ」
     
     彼女の胸を触る。どんな顔をするのか、と期待したが思っていたような顔ではなかった。

    「……っ♡」

     気持ちよさそうに身を捩らせる蛍。どちらかというと嫌がって欲しい自分としてはあまり面白くない。
     何度か胸を弄ぶと、少しずつ嬌声が洩れてきた。浅い息を繰り返して、僕に縋り付いてきた。

    「ふっ……♡んっ、ぁあ……♡♡」

     頃合いを見計らい、下腹部に手を伸ばす。ドロワーズを脱がし、下着のクロッチ部分を擦ってあげた。

    「やっ、いぅ……♡♡!」

     下着にシミを作る蛍。





    「はぁ……僕の子供、孕んじゃうね」
    「ぁ……♡♡……ぅう゛っ♡!!」


    「僕が、世界から忘れられても……見つけ出してくれる?」
    「いいよ。どこを彷徨っていても、私が貴方を見つけてあげるから」


     どうせ、嘘だ。彼女も僕のことなんて忘れて、いつもの変わらない日常に戻るのだ。それでもよかった。彼女の記憶が無くなっても、彼女に付けた傷は残っている。
     
    「……ねえ、愛してると、言ってくれないか」
    「愛してるよ、スカラマシュ」

     僕の願いを素直に聞き入れ、彼女が微笑む。全てを包み込むようなその顔に、思わずこちらも頬が緩む。

    (……もっと、早く君と出逢っていれば)

     敵対する関係では無く、添い合う関係であったのなら。彼女に愛の言葉を言われて、僕も囁くような関係であれば。僕たちには、違った未来があったのかもしれない。
     でも、もう遅い。僕にとって彼女と交わるのは最初で最後であり、もう二度と縁を繋ぐこともないのだから。



     ───その日。『散兵』、『傾奇者』という存在は世界から抹消された。
     ただ一つ。消えゆく少年が瞼の裏に映していたのは、蛍のように眩い光を放つ少女の微笑みだった。
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