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    inu_hebi

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    inu_hebi

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    おまけ

    「なんであんなこと言っちゃったのかなぁ……」
    深夜2時。布団の中に潜り込んだまま自分の発言を思い返してみる。
    しかしどれだけ思い出そうとも、あの場面でああいうことを言う以外に選択肢は無かったように思える。
    別に恥ずかしいことでもないのにどうして私はここまで悩んでいるのだろうか……。
    ARuFaさんの前では平気な顔していたけれど、こうして独りきりになるとまた羞恥心が増してくる。
    そうだよ。
    さっきまで一緒に居たせいで感覚が麻痺してしまっているが、よく考えればあの場においてあれだけの大声で叫んでいたのだ。
    ARuFaさんが部屋の中から外に出て来ていたとしても不思議ではないではないか。
    きっと彼は今まで起きていて私の発言を聞いていて、だからそんなタイミングでドアの鍵を開けたり閉めたりしたに違いない。
    ということは、一連の流れは全て彼に見られていたということだ。
    つまり、私の告白も聞かれている可能性が高いということになる!!
    ふっと昨日の光景が脳裏に浮かび上がった。そうすれば必然的に気になってしまうのが自分の発言である。
    「ああもう!」
    恥ずかしさに身悶えてしまうことを我慢できずに思わず叫んでしまったので慌てて口を押さえた。
    幸いにも部屋には私一人しかいない。
    再び深呼吸を行い心を落ち着かせた後で、もう一度先ほどのシーンを思い出してみる。
    あの時、私の心の中には絶対に口にしてはいけない欲望が存在していた。
    それをハッキリと言うならば、『ARuFaさんに私の事を好きになって欲しい!』ということである。
    なんで、そんなバカげたことを望んだのか?
    理由は単純明快、私が彼を好きだからに他ならない。
    本当はもっと前から彼のことが好きなのではないかと考えていた時期はあったのだが、
    その感情について深く考える前に私がARuFaさんに対してしてしまった様々な行為が重く圧し掛かってきてしまい、
    気持ちがぐちゃぐちゃになっていたことが原因だった。
    でも今は違う。
    自分が行ってしまった数々の行為は『全て』水に流れるかのように消え去ってくれたからだ。
    もちろん完全に元通りというわけではないだろう。傷跡が完全に消えることはないように、
    記憶に残る出来事はいつまでも残り続けるはずだ。それでも、彼に対する行いが全てチャラになったという事実は大きい筈。
    だからこそ言える言葉がある。……正直な話だ。
    正真正銘、心の中にある本音を声に出せばいいだけなのだから、たったそれだけのことなのに何故それができない!?
    そもそも好きってどういう意味で言っていると思っているんですか私は!
    好きですっていう意味じゃないですか馬鹿ァーッ!!!
    というわけなので、仮に今ここで彼が部屋に入ってきてもこのセリフさえ言えば全てが丸く収まる筈。
    …………いや待てよ。
    ARuFaさんはそういうタイプの人間ではなかったんじゃないだろうかという疑念が生まれてきた。
    だって、この前、私の事が好きと聞いてきた時に「いいんじゃない?」みたいなことを言ってましたよね!?
    それってもしかしてもしかすると、友達としてという意味だったのかもしれない!
    だとしたら私は今まで一人で勝手に勘違いしていたということに……
    でも、それならそれで、今更こんなこと言ってしまえばARuFaさんは困ってしまうのではなかろうか。
    ……そうなったら当然関係はギクシャクしてしまうよね……それは嫌だ。
    うむ、ここはやはり何も言わずにやり過ごすのが一番良いんじゃないか。うん、そうしよう。
    そうと決まれば、私は目を閉じて寝る準備を始めた。
    今日は色々なことがあった。疲れた体を休めるために早く眠ってしまいたい。
    ARuFaさんのことも、自分の事も、もうこれ以上考えてもしかたがないことだし。
    明日になれば、全部忘れていることだろうと考えた瞬間、玄関の方でガチャリ、と音がした気がした。
    「……!?」
    一瞬にして背筋に鳥肌が立つ。
    まさか、本当にARuFaさんに聞かれていたということなのか。
    い、一体どうすれば……。
    迷っている場合でもないので、意を決して布団の中で息を殺す。
    靴を脱いで廊下の床板を踏む音に加えて、部屋の扉が開かれた。ドキドキしながら目を閉じる私。
    しかし、その後に訪れたものは静寂だけだった。
    物音のしない室内、布団の中の暗闇、何の変化も無い空間。
    おかしいなと思い始めた次の瞬間、足下付近にあった電気のスイッチが入った。
    眩しさに目がくらみつつも薄っすらと見上げてみると、そこには私服姿のまま、腕組みをしてこちらを見下ろしているARuFaさんの姿があった。
    「あ、起きたんだ」
    恐・山・さ・ん、と言いながら指を差してくる。
    私は、自分の心臓が跳ね上がる勢いを感じつつ、静かに返事をする。
    「……おはようございます……」
    彼はそのまましゃがみこんできて私の頬を軽くつついて遊び始める。
    「ほっぺた柔らかいねぇ〜」
    そう言うなり今度は思い切り引っ張ってきたため、「イタイイタイ!」と抗議する羽目となった。
    ARuFaさんは満足げに離れていった後で、ニヤっと笑ってくる。
    「なんかすごい顔してたけど、どんな夢見てたんだよ!」
    「……えぇー、それはちょっとぉ」
    答えたくないですぅ〜、と語尾を伸ばして抵抗を試みたところ、ARuFaさんはそれ以上何かを聞くことはなかった。
    その代わりのように「そういえばさぁ、昨日俺の事好きだよって言ってたじゃん?あれって本当?」などと尋ねてきたのだ。
    はいぃ? いきなりそんな話を振られて焦った私は、思わず素が出た状態で彼に聞き返す。
    「へ、変なこと言いますよねー、全くもぅ!!」
    我に返ったような気分だった。
    このタイミングでこんなことを言ってしまうなんて、やっぱり私はとんでもない大馬鹿者だ。
    どうしてよりにもよって、本人に直接、しかも朝起きてから数分の間に言ってしまっているのか。
    しかし、もう取り返しはつかない状態だった。
    一度口から出た言葉を無かったことにする術はないし、この状況において誤魔化すためのロジックは存在していなかったからである。
    ARuFaさんは、いつも通りの笑顔を浮かべたまま、こう言った。
    「俺はね、お前のこと好きだよ」
    「……はい?」
    正気か? 耳にはちゃんと入ってきた言葉だけれど脳が理解しようとしていない。
    これはもしかすると、もしかせずとも、冗談なのではないかと勘ぐってしまう。
    ただ、ここで私が本気にしてしまうとまた話が厄介になってしまうことが予測されたのと、
    下手くそなギャグを聞かされた時のような白けた雰囲気を出してしまうことは避けたかったこともあって、表面上はあくまでも平常運転を維持しようとした。
    「あっ、そういうの良いんで大丈夫です」
    「どういうことだよ!ノリ悪いなホント!いいよ、じゃあもっとわかりやすく言ってやるから」
    私の返答に対して怒ったように叫んだあと、ARuFaさんは続けた。
    「好きっていうのは恋的なアレの意味だから!もちろん性的な意味も含まれるやつね!つまりは付き合って欲しいというか、
    むしろもう既に結婚とかして子供が二人くらいできたりしている人生設計まで考えていてもおかしくない感じの関係になりたいと思ってるの!そういう意味で君が好きなんだよね」
    ここまで聞いて私はようやくARuFaさんの言っていることを全て飲み込むことができた。
    あ……これマジのやつだ。ガチめな方の意味だ。
    ARuFaさんが真剣であるということは痛いほど伝わってきたが、同時に何故今になってそんなことを言う必要があるんだろうと思った。
    ……だって、ついさっきまでは普通に接してきていたじゃないか。それがどうして急に態度を変えてくるのだろうか。
    どうせなら今まで通り友達として接してくれていれば良かったものを……。
    私はため息をつくふりをして顔を右手で覆った。
    その手を少しずらして彼の方をちらりと見ると、そこには期待に満ちた表情が浮かんでいた。
    ……なんだろうそれは。
    一体何を思ってそのような顔になるのかさっぱりわからない。
    「うふっ」と笑ってごまかし、私は再び布団の中に潜り込んだ。
    どう反応するのが正解なのか、あるいは、どういう対応をすれば良いのか、全てがわからなかった。
    これ以上ここにいたところで更なる混乱が待っているだけだと判断したので、私はそのまま立ち去ろうと決める。
    ARuFaさんはまだ何か話したそうな気配を見せたが、それを無視して私は荷物を持った。
    部屋を出るときに、一度だけ振り返って彼を見る。
    彼は相変わらず、布団の上に座り、両手を広げてこちらに手を振りながら、にこやかな笑みを見せていた。
    私も控えめに笑い返したもののすぐに前を向いて廊下に出た。鍵を閉める音に紛れ込ませるように心の中で呟いておいた。
    (やっぱり私はあなたの事が嫌いだわ、ARuFaさん)
    そう考える私の脳内には、何故か『月光』が流れ始めていた……。
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