お犬マン2話と3話とお犬マンの設定ある日のこと。
僕がいつも通り縁側に座って本を呼んでいると、ふと視線を感じた。
顔を上げると、いつの間にかお犬マンが庭にいた。
「こんにちは、センさん」
「……」
「今日もいい天気ですね」
「……」
「ところで一つ相談があるのですが」
「……なんでしょう……」
「私、実はセンさんにお願いがあってここまでやってきたんです」
「……」
「その願いというのはですね……」
「……」
「センさんと結婚させてください」
「断る!!」
僕は全力で突っ込んだ。
「どうしてですか!?」
「どうしてもこうしてもあるか! いい加減、諦めろ!!」
「嫌です!!」
「そもそも僕は男だ!!」
「それが何か問題でも?」
「大ありだよ!!」
「大丈夫ですよ。ちゃんと女の子にしてあげますから」
「できるか!!」
「できますよ。安心してください」
「全然、できないわぁあああ!!!!」
僕は腹の底からの絶叫を上げた。
しかしお犬マンはそんなことおかまいなしに、ずかずかと家の中に上がり込んできた。
「ちょっ……ちょっと待てぇええいい!! 入ってくるなぁあああ!!」
僕は慌ててお犬マンを押しとどめようとする。
だが悲しいかな、力の差がありすぎて全く歯が立たない。
結局、お犬マンは我が物顔で居間までやって来た。
「ハァハァ……センさんの匂いがする……」
そして彼は嬉しそうに室内を見回す。
「うぅううううううう……」
僕はそんな彼を恨めしく思いながら睨みつける。
「センさん、どうかしましたか?」
「……なんでもない……」
「そうですか。それよりもここで一緒に暮らしましょう」
「嫌だ!」
「何故ですか!?」
「逆に聞くが、なんで俺と一緒に暮らすんだ? 意味がわかんねぇぞ!?」
「だって結婚したら一緒の家に住むのは当たり前じゃないですか」
「俺はお前と結婚する気はない!!」
「そんなつれないことを言わずに……」
「言うに決まってるだろう!!」
「……私はこんなにもセンさんのことを愛しているというのに……。一体、私のどこが不満だというのですか……?」
お犬マンは悲しそうな表情を浮かべた。
「全部だよ!!」
僕は力いっぱい突っ込みを入れた。
「……分かりました……。では今度こそセンさんの心を掴んでみせます」
お犬マンがそう宣言した時だった。
ピンポーン♪ 玄関のチャイムが鳴った。
誰か来たようだ。
「……チッ」
お犬マンの舌打ちが聞こえてきた。
どうやら彼の邪魔が入ったらしい。
誰が訪ねて来たのかは知らないが、お犬マンにとって招かれざる客であることは間違いないだろう。
……まあ、誰であろうと関係ないけど……。しばらくすると再び家の呼び鈴が鳴り響いた。
「はい、どちら様ですか?」
インターホン越しに応える。
『宅配便です』
「あ、少々お待ちください」
そう言って一旦、モニターから離れ、お犬マンの様子を伺ってみる。
彼は僕の部屋の押し入れの中で息を殺していた。
まるで忍者のように。
「……何をやってるんだよ、お前……」
呆れつつも彼に尋ねる。
「いえ……こうすればセンさんもきっと私との結婚を承諾してくれると思いまして……」
「なるわけねぇだろう!!」
僕は力いっぱい突っ込んだ。
「……仕方ありませんね……。では少しだけ時間稼ぎをしてきます」
お犬マンはそっと立ち上がると、玄関へと向かった。
「……」
そして玄関を開ける音。
「はい、何でしょう?」
「あのぉ……ここにハンコを頂ければいいんですが……」
「分かりました」
お犬マンの声が聞こえる。
それからしばらくして、ようやく彼が戻ってきた。
「はぁ……やっと戻って来やがったか、この野郎……って、ん?」
お犬マンが手に持っているものを見て、思わず目を丸くする。
「おい、それ……」
「はい、婚姻届です」
「いつの間に持ってきた!?」
「先ほど、センさんが留守にしている間に役所から貰ってきておきました」
「だからなんで俺がお前と結婚なんてしなくちゃいけないんだ!!」
「それはですね、センさんと私が結ばれるためですよ」
「知るかっ!!」
「センさん、さっき言いませんでしたか? 私と結婚したくなければ、心を掴むって。ならこういうやり方が一番だと思うんです」
「思うんですじゃねぇよ!! そもそもお前は俺の話を聞く気がねぇだろう!!」
「いいえ、ちゃんとお話を聞いていますとも。ですが残念なことに私の気持ちには一ミリたりとも影響しません。なのでここは強引にでも結婚するしかないのです」
「強引なのはどっちだ!?」
「大丈夫ですよ。きちんと女の子にしてあげますから」
「できるかぁああああああっ!!」
僕は全力で突っ込みを入れるのであった。
---
---
3話
「センさん、今日もいい天気ですね」
「……」
「ところで一つ相談があるのですが……」
「なんだ?」
「実は最近、犬用の首輪を買ったんですよ。それで是非、これをつけて散歩に行きたいと思うのですが」
そう言ってお犬マンが見せてきたのは、赤い革製の首輪だった。
「却下だ! そんなもんつけるくらいなら死んだ方がマシだ!」
僕は断固拒否する。
「えっ、付けるのは私ですよ? 別にセンさんに付けようと思っているわけではないので、安心してください」
「そういう問題じゃない!!」
「それに安心してください。リードは短いのを用意してありますので」
お犬マンはそう言うと、どこから取り出したのか黒い紐のようなものを見せびらかすように振ってきた。
「そんなものをどこから持ってくるんだ、お前は!?」
「近くのホームセンターや100円ショップで買ってきました」
「……そういえば昨日、買い物に行った時、妙に色々買い込んでいたな……」
僕はその時の光景を思い出した。
「はい、センさんの喜ぶ顔が見たくてついたくさん購入してしまいました」
「そんなもので喜ばんわ!!」
「そんなこと言わずに。ほら、どうですか、似合いますか?」
お犬マンが嬉しそうな表情を浮かべながら、僕の前でくるりと回った。
「お前が付けるのは勝手だが、絶対に僕につけようなどと思うなよ!」「そんなことはしませんとも。ただ、付けてみたいだけです」
「嘘をつくな!!」
「本当ですって……」
「なら外せよ!!」
「えっ~駄目ですか?」
「絶対にせん!!」
「そうですか……せっかくセンさんのためにと思って用意したのですが……。仕方ありませんね。今回は諦めることにしましょう」
「最初から諦めろ!!」
「分かりました……」
お犬マンは悲しげに項垂れると、玄関へと向かった。
「ではまた今度、別の方法で心を掴んでみせますからね…」
お犬マンは最後にそれだけ言い残すと、そそくさと家を出て行った。
「……まったく……何考えてるんだ、あいつ……」
僕は呆れつつ、玄関の鍵を閉めた。
------------
※お犬マンの設定
お犬マンという名前は作者が勝手につけた名前です。本当は名前はありません。
名前の由来は某漫画に登場するキャラクターからとりました。
つまり作者の趣味です。
性別:男です。
性格:変態
好きなもの(人):センさんのこと
嫌いなもの(人):特になし
備考:一人称は「私」
センさんのことが大好きで、隙あらば一緒にいようとします。
ちなみにセンさんの近所では、お犬マンは有名な存在で、皆からは「狂犬ドッグ」とか呼ばれています