除夕の夜に 誰だ、と鋭く飛ばした声に引かれて木陰から顔を出したのは、既に顔なじみとなった子供だった。
「云飞か。こんな時間にどうした?」
咄嗟に、なにか尋常ならざる事態でも起きたのかと思った。普段なら朝露滴るような早朝に訪れる奴だ。こんな深夜の山奥に単身やってくる理由など、それ以外に思い浮かばない。
だが俺のそんな懸念をよそに云飞は赤くかじかんだ頬でにっこり笑うと、着膨れた身体で藪をかき分けつつこちらにやって来て、赤々と燃える焚き火の前にしゃがみ込んだ。
「あー、あったかい」
手のひらを翳して幸福そうに呟く。俺は呆れて云飞を見下ろした。
「何しに来た? ガキが出歩いていい時間じゃないだろ」
この辺りに危険な妖精の気配はないが、山犬や猪など気をつけるべき生き物はごまんと居る。明かりは携帯しているみたいだが、そんな小さな光では足元だって覚束ないだろう。通い慣れた山とはいえ、誤って崖にでも落ちたらどうするつもりだ。
1953