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    桜道明寺

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    桜道明寺

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    以前タイトルリクエストで書いた二狗です

    愛の代わり 腹が減ったら飯を食うように、眠くなったら惰眠を貪るように、俺たちにとって身体を重ねるのは、ごく自然のなりゆきだった。欲を喰らい、欲を吐き出す。まるで鏡に向かい合うように、互いに相対するのはあくまで自身の欲であって、そこに個人は介在しない。それで良いとすら思っていた。情で繋がるのは柄じゃない。どれほど人の真似事をしようが一皮剝いてしまえば、俺たちは本能の赴くまま欲望を貪る獣に成り果てる。とはいえ、そうもはっきりと自身を見下していたわけではないが、そこにある理という薄皮が一枚、境を隔てているのは識っていた。抱いて抱かれて、どちらが主導権を握るかで拳が出ることもあった。ただただ粗野で頭の悪い、その場限りの交わり。時を問わず、場所を問わず、俺たちは幾度も重なりあった。牙と牙がぶつかり合い、口唇を細かく傷つける。快楽による忘我で人化が解けたこともある。最中は交わす言葉もなく、何かに追い立てられるかのように性急に身体を繋いだ。それはまるで、一瞬でも目を離せば、途端に見失ってしまう光を掴まえるような行為だった。実も何もない胡乱な関係性は、いつ崩れても不思議ではない均衡の上に成り立っている。終わりが来たならそれまで、俺も奴も心の何処かで、きっとそんな風に考えていたと思う。いずれその時が来たとしても、俺たちなら後腐れなく終わるだろうと。そしてそれは、ある意味、間違いではなかった。
    「——玄离」
     風上から流れてきた声に顔を上げる。緑の髪が揺れるのが、ぼんやりと見えた。
     人の身体は不自由だ。この手に持った器具がなければ、満足に物を捉えることすらできやしない。
     俺は服の裾で拭いていた眼鏡を掛け直す。
    「やあ、どうしたの?」
     俺であって俺のものではない高い声が、それに応える。
     高いところから見下ろす瞳は、あの頃のまま、けれどあの頃には無かった柔和な光をたたえて、今の俺を見ている。そして、きっと俺もまた。
    「老君から伝言だ」
     淡々と用件を告げる、その声が切羽詰まる瞬間を知っている。覚えている。欲だけで走り続けた、かつての記憶は、まだ俺たちの内にある。
     もう繋げる身体はないけれど、なぜか笑いがこみ上げるほど、温かいものが胸に満ちてきていた。
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