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    桜道明寺

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    桜道明寺

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    特別なことなどなにもない賑やかな主従の日常

    A very merry unbirthday 床にひっくり返って天井を見上げながら、
    「何か楽しいことはないかなあ」
     と呟く。
     私は、それを目の端に収めながら、読みかけの本の頁を捲る。
    「この間買ったゲームがあるでしょう」
    「あれはもう飽きた。そもそもいつの話をしてるんだ。買ったのは三ヶ月も前のことじゃないか」
    「そうでしたか?」
    「そうだよ。新しく欲しいやつはまだ発売が先だし、本もあらかた読み尽くしてしまった。何もすることがない。つまらない、つまらなすぎて死にそうだ」
    「ならご自分が散らかしたものの片付けでもしたらいかがです」
    「それはヤダ」
     ぷう、と頬を膨らませて、抗議の眼差しでこちらを見る。
    「お前はいいなあ。この間のパーティ、楽しかったろう」
     この間のパーティとは、例の黒猫の誕生会のことだろう。あれ以来、折に触れて話すので、よっぽど参加したかったんだろうと思う。
    「ああいう騒がしい場には慣れません」
     実際、あそこまで大規模なものだとは思っていなかったのだ。会場が与灵溪の会館だったのも意外だが、各館長を始め、本部の連中まで顔を揃えているとは思わなかった。一体どこのVIPだ。
    「ああ見えて結構みんなイベントごとに飢えているからね。そもそも妖精に明確な誕生日がある方が珍しいし」
     それは確かに。実際私も自分の生まれた日を知らないし、それはきっと主も同じだろう。そういう意味では、そういう区切りを祝う習慣は我々にはない。珍しくて当たり前なら、あの力の入りようも納得できるというものだ。
    「——ああ、つまらない! 諦聴、何か楽しいことを考えておくれよ」
    「と言われましても」
     主がひとたびこのモードになってしまったら、読書の続行は困難だ。私は諦めて本を閉じると、ばたばたと手足を動かす主に向かって言った。
    「なら、何か記念日を考えましょうか」
    「いいね!」
     がばと身を起こして、瞳を輝かせる。
    「何か良いアイデアはあるかい?」
    「そうですね……主のダダこね記念とか無茶振り記念」
    「全く楽しくはないね」
    「あなたが気に入りの茶器を割ってしまった日は?」
    「だからどうして私の黒歴史を記念日にしようとするんだ」
    「それ以外に思い浮かぶものがないんですよ」
    「頑張れ。お前はやればできる子だって私は知っているぞ」
     無責任な激励になんとか頭を働かせる。
     その時、ふと脳裏に懐かしいフレーズが浮かんだ。——あれは確か。
    「……西洋の物語には誕生日ではない日のお祝いがあったようですが」
    「それだ!」
     生まれなかった日おめでとう! その物語では、そう言って毎日終わらないお祝いをしていた。私達は生まれた日を知らないから、何なら一年三百六十五日がお祝いだ。これからはその日の気分で祝ってもいい、祝わなくてもいい、ひょっとしたら、たまたまその日が、本当に自分の生まれた日なのかもしれない。
    「何でもないかもしれない日のお祝い、というわけだね。なかなか気が利いているじゃないか」
     にこにこと笑って主が言う。どうやらお気に召していただけたようだ。
    「なら紅茶とケーキがなければね。諦聴」
    「分かっていますよ。いつもの店でいいですか?」
     嬉しそうに頷きながら、おもちゃ箱から早速派手なガーランドを引っ張り出している。飾り付けは自分でするつもりらしい。
     私は内心で苦笑しながら、ふわふわと空中を漂ってきた藍玉盤を受けとる。
     明けない夜に相応しい終わらない宴が、もうすぐ始まろうとしていた。
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