ミルクアイス 小黑はミルクアイスが好きだよね、と言われて、うん、と満面の笑顔で頷いた。
初夏の蒸し暑い午後。学校帰りの雑貨店で、たまには買い食いをして帰ろう、ということになって、満場一致でアイスに決まった。
「おまたせー」
両手にアイスの棒を持って、小白が店から出てくる。直接手渡された棒から伝わってくる、ひんやりとした空気、霜を纏って少し毛羽立ったようになっている様子がいかにも冷たそうで、乾いた喉が鳴る。
「いっただっきまーす」
じりじりと陽の射す場所では、あっという間にアイスが解けてしまうので、日陰のベンチに移動して、三人で一斉にぱくりと頬張る。きしり、とした歯ざわりに次いで、甘く冷たい塊が、熱の籠もった口の中を急激に冷やしていく。
「……っ、おいしー!」
「こういう日に食べるアイスは最高ね」
ミルクティ味のアイスを食べながら、山新が言う。
「ほんとほんと」
小白が食べているのは、ちょっと変わったスイカのような見た目のアイスだ。
「人間はすごいなあ。夏なんて暑いばっかりだと思っていたのに、こんな風に楽しいことに変えちゃうんだもん」
感心して言うと、山新が
「そういう視点はなかったなー。確かにねえ」
あっと言う間にアイスを食べ終わって、棒を齧りながら頷く。
「妖精は夏はどうしてるの?」
とけかけたアイスを崩すまいと角度を変えつつ食べている小白が訊く。
「んー、僕の場合は水辺によく居たかな。あと少しでも涼しいところを探して、暑くなってきたら移動して、って感じだったな」
そう、冬は冬で辛かったけど、夏もまた身の置き所のない季節で辛かった。
だから師父と一緒に旅をするようになって、人間が、寒かったり、暑かったりするのを工夫して快適に過ごしているのを見て驚いたんだ。その時、初めてすごいなあって思った。それまではずっと人間なんて力は弱いし、能力だって使えないし、だからこそ群れでしか生きられない貧弱な種族だと思い込んでいたから。
そうそう、アイスの美味しさも、師父が教えてくれたんだった。
旅の途中、暑さでへばっている僕に買ってくれたんだ。最初に食べた時はびっくりした。真夏なのに、氷みたいに冷たくて、でも滑らかに甘くて、食べながらうっとりしてしまった。一口食べてぼうっとしている僕に、「とけるぞ」と苦笑しながら一緒に食べたアイスは僕とお揃いのミルク味で、それから僕はミルクアイスが大好物になった。
たまには他の味——例えば、いま小白が食べているような、変わったアイスも気になるけど、いざ「どれがいい?」と訊かれると、やっぱりミルクアイス! と答えてしまう。
最近はよく飽きないね、と笑われるけど、いいんだ。
旅の途中。道の先に陽炎が立つほどの、真夏の厳しい陽射し。人もまばらな田舎の商店で、うだるような暑さの中味わった、棒が斜めに刺さっているような手作りのミルクアイス。
食べるたび、隣で「美味いな」と笑う、師父との思い出ごと味わえるから。
だから僕はミルクアイスが大好き。きっと、ずっとこれからも。