未知的甜蜜 料理を教えて欲しい、と諦聴から申し出があったのは今から半年前のことだ。
玄离は今でこそ街中のマンションに一人で住んでいるが、数年前までは少し離れた田舎で、人間の少年の中に棲んでいた。阿根と言う名の少年は、幼い頃から彼の祖父と二人で暮らしていたせいか万事に秀で、その中でも料理はお手の物だった。そして長年、少年の中からその手元をつぶさに見てきた玄离もまた、門前の小僧よろしく一通りの家事を覚えていった。おかげで一人暮らしの現在も生活に困ることはない。
そんな折、時々遊びに来ては流れで玄离の手料理を食べていた諦聴から「料理を教えて欲しい」と言われた時には、意外すぎて思わず聞き返してしまった。
「なんで? 特に必要ないだろ」
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