羽化　それを理解した瞬間、心の枷が弾け飛ぶ音を聞いた。
　もう縛られなくていいんだ。私は選び取ることができる——自分で。
　女であることを後悔しているわけじゃない。けれどその現実が、いつも濡れた布団のように、重苦しく全身に纏わりついていたことは否定できない。
　生まれついたからには仕方ない。ずっと、そう思ってきた。力が弱いのも、覆い被さる身体を振り払えなかったのも、それゆえに死んでしまったのも——その理由の何割かは、私が女だったからに他ならない。死霊となって蘇り、憎きかたきに復讐を果たしたけれど、それでも心にかかった靄を完全に消し去ることはできなかった。だから修練に励んだ。必死に、全身全霊を込めて。強い身体と精神を手に入れたかった。嵐のような暴力にも屈さぬ土台が欲しかった。そのためには、ただ強くなるしかないと思った。
　それでも、肉体が女であるという事実は、絶えず雪のように降りかかる。当たり前過ぎて、寒いと思わないままに、私の心を芯から冷やす。私が女でさえなければ、かつて死ぬことはなかったかも知れない。女であることは、ずっと、私を無意識に縛り付ける枷のようなものだった。受け入れざるを得ない——だって仕方がないから。どれほど修練を積もうが、人から恐れられる存在になろうが、女であることからは逃れられない。
　そう——思ってきた。
　けれども。
　目の前が開けた気がした。私は、全ての呪縛から開放されて、いつだって私の望む私になれる。
　高揚が身体を満たした。
　女を捨てることに未練はない。
　男に憧れがあるわけでもない。
　ただ、私が私であるために——。
　そう。これは逃避ではなく、羽化なのだ。
　心が軽くなる。ああ、やっと手に入れた。
　私は成れる。欲しくて欲しくて、それでもどうしても届かなかった望みの具現、私のなりたかった姿に。


　大股で扉をくぐる。この大きく踏み出す一歩すら嬉しい。
　室内に入ると、皆が驚いた顔で出迎えた。当然だ。
　各人各様の戸惑いを受け、愉快になって笑みが溢れる。
　それでも、すぐに受け入れてくれるだろう。この仲間たちならば。
　生まれ変わった、この「俺」を。


「——これからは、俺を七刀と呼べ！」