地獄巡り暗く、暗い、道のなき道の路傍にて。白く波打つ羽衣をひっかけた、白い炎のような髪の毛をした青年がきょろきょろと辺りを見回している。
(やっぱ、そこらの亡者とは違ェな)
これはまるで物見遊山。その落ち着きなさは全てが好奇心に衝き動かされているようだ。
「なーなー、この辺のトゲトゲ」しゃがみこんで、自分のモノとは違う色をした白い"トゲトゲ"をつつきながら、背後のおれに問いかける。
「骨じゃねえの?なんでそこら中に刺さってんの」
「…ん、そりゃあ生えてんだ」
「生えて?」
「まあ、現世に合わせて言えば、だ」
見ろ、言われて白が目をやると、鬼が亡者を追い立てている。わかりやすい巨大な金棒を振りかぶって、
「あ、死んだ」
「ああして鬼が亡者を"殺す"。散らばった骨とか、血とか、内臓は地面に溶けて…」
「え」
「で、ああいうのが生えてくる」足元の骨の茎が伸び、しぶいたような赤い花が咲いた。
「げぇ〜…」
「気分でも悪くなったか」舌をべろんと伸ばし、いかにもふざけて"気持ち悪い"と表現しているそいつをハン、鼻で笑ってやる。
貴い奴らにゃ合わないだろう、早く帰れ。そう言外に伝えてもどこ吹く風だ。「不味そーだな」などと笑って続けるのだから、暖簾に腕押し。まったく骨が折れそうだ。
「食うモンじゃねえぞ」
実を食べればその毒に内臓が焼かれる。花を食えば鋭い結晶に喉が切り裂かれる。茎を食えば、鋭い骨が体内から突き刺さる。生前の、生の営みが忘れられない亡者を懲らしめるためのそれだ。
「お前らってさあ…何食ってんの?」
「…そもそも、鬼も神も…食わないで平気だろう」
「そうだけどさあ!」地団太を踏み、人の子のように駄々を捏ねている。これがどうして神なのだろう。「食ってるから生きてる!って思うだろ!?」
「どうでもいい」
「えー!もったいねえ!」
足元で実をつけ始めたそれを、どうにか食えないかと見つめる太陽神。
彼が背負う光を眺めながら、食事とやらに思いを馳せる。その行為は知っている。しかしその情景にはまるで覚えがない。こんな、生命なんて何もない場所で、そんなことをするだろうか。しないだろうな。
当たり前の結論にやっとたどり着いた愚鈍さに、脱力めいた笑いが零れる。
「……あんまり前のことだから、忘れっちまったよ」