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    icedragon_2

    かきかけの(完成させたい)やつと短文の一時保管場所。

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    ロゾ(多分)の書いてるやつのほんと冒頭 全文も別に長くないのに全然完成しそうにない(なんで?)ので…

    ##ローゾロ

     雨上がり。あたりは湿った大地の匂いが立ち込めている。
     ローが刀と戦利品を抱えてポーラータングの濡れた甲板に降り立つと、そこには緑色した男が立っていた。こちらからは背中ばかりだが、柵に肘をつきぼんやりと海を見下ろしている。
     緑。それは海上を駆けるにも深海を泳ぐにも、滅多に見られない色である。それはこのポーラータングにおいても例外ではなく、現在がイレギュラーにあることを雄弁に語っていた。緑青の明るい髪に、深い緑の外套を纏うその男は、ハートの海賊団のクルーではない。同盟相手、麦わらの一味の剣士である。ドレスローザまでのつかの間に乗船したサウザンド・サニー号はこの剣士がうろつき、甲板にはみかんの木や草花の植わる花壇が備わっていてまったく緑には事欠かなかった。海賊としては変わり種だがこんなところでも変わっているのか、そう感じたことも記憶に新しい。

    「うわ、ロロノアびしょ濡れじゃん!」
     背後にいたベポがバタバタと駆け寄った。ゾロの服は普段よりもさらに色を重くして、雨の合間も濡れることを厭うことなくじっと佇んでいたことを知らせている。
    「おう。見張りだったからな」
     平然と返す男に、ローはむ、と眉をひそめる。
     先ほどまで、ローはベポを引き連れてこの先の航海の情報収集に出ていた。目当ての情報は手に入れ、資料を広げて航海士との議論の末に結論は固まったものの、ふと外をみればしとしとと静かに降りしきる雨。まだログが溜まるまで猶予があるのだからと、止むまで昼食も兼ねてのんびりと茶を飲んでいたのだが。
     野生動物だって、雨避けに木の陰に隠れくらいはするだろう。それをこいつはなんだって。
    「感心しねェな」
    「あァ?」
     ローは嫌味たらしい声色でちくりと男をつつく。騒ぎにならなければとある程度は自由にさせていたが、万……いや、億が一、体調でも崩されたらたまったものではない。なにしろルフィから麦わらの一味を預かっている立場であった。そのうえローは医者である。いくら人間離れした丈夫な身体の持ち主であろうとも、見過ごして良い理由にはならなかった。

    「おれはテメェらを待ってたんだぜ、ハートのキャプテンさんよ」しかしのんびりと振り返ったゾロは、未だ飄々とした姿勢を崩さない。「荷積も終わって残りはテメェらふたりだけだ」
     これが一般人、あるいはハートのクルーならば、ピシリと背筋を伸ばしてお行儀良い返事をするものだろう。麦わらの一味を相手にそんな反応を期待する方が無駄ということを、悲しいかなローは身をもって学んできた。が、それを受け流せるほどの無の境地にはまだ達していない。胸中に湧き出た呆れが口からため息となって零れた。
     飼い主と離れた魔獣はゆるゆると勝手気ままに過ごしている。何の用もないだろうに廊下をあっちこっちうろついていたり部屋に帰らずその辺で寝こけていたり――今でこそ救いようのない方向音痴が原因だと知れ渡っているが、当初は密偵の類ではないかと疑う者も少なくなかった――、食堂で酒盛りをすればいつの間にか混ざっていたり。その例は枚挙にいとまがない。明確に迷惑だと止められない行動なだけに厄介だった。仮にそれを理解していたのだとしたら、まったくなおさら性質が悪い。
    「傘をさすなり物陰に入るなりしろ」
    「んだてめェ、雨の中戦闘になっても濡れたくないって駄々こねるのか?」
    「無駄に雨に打たれるなって話だ。体が冷える」
    「冷やしたらメンエキリョクが下がるんだって」
     細けェやつだとうんざりした表情を隠しもせず、むしろ口に出して堂々とのたまう不届き千万な輩を、ベポがわんわんと叱っている。それも「この船じゃおれの方が先輩だしお兄さんだぞ!」「へェ、見えねェな」とまるで効果がない。

     もふもふと体を跳ねさせながら奮闘しているその様子をほほえましく眺めていたローだったが、次いで聞こえた発言にぱったりと思考が止まった。
    「も~、キャプテンに余計な心配かけさせないでよ!」
    「……あ?」
     ぽかんと呆けた声が出た。
     心配。誰が、誰を。――おれが? ゾロ屋を、
    「え、うん。心配」
    「馬鹿言え。濡れねずみにふらふらされちゃあ面倒なだけだ」
    「うっ、スイマセン……」
     やっとのことでかみ砕いた意味合いを吐き出すように、ローは声を尖らせた。
     そんなわけあるか。ベポの言う心配などでは決してない。腹は立つが、この健康優良児が風邪をひく心配なんてのはまったく無駄なことで……いや、そもそも心配してやる義理はないのだ。医者としての信条と、同盟の関係を危ぶんでの発言というだけだ。それよりも、人外かくやと言わんばかりの身体を蝕めるウイルスがいればそちらの対処が問題に違いない。
     しかし、自身の優しいキャプテンによる語気の荒い反論に、ベポはあまりに委縮している。ふかふかの大柄な体をしゅん……、と音でも聞こえてきそうなほどに小さくして。これにはさすがのローもうろたえた。十年もの年月をベポの兄貴分として過ごしてきたローは、その気の弱さをもちろん知っている。だが、それと哀れに縮こまるシロクマを見過ごすのはまた別の話だった。有象無象の名もなき相手ならともかく、自分の発言が起因しているならばなおさら。そのうえ自覚はないが、彼はもふもふきゅるきゅるとしたものにたいそう弱かった。ハートの海賊団では知れ渡っているが、彼の愛用のペンはシロクマの頭をしている。閑話休題。
     気を取り直しに咳払い。いや、そんなことはどうでもいいんだ。弟分の肩にぽんとやわらかく触れ、出来る限りの平坦な声でローが言う。
    「ベポ、ログももう少しで溜まるだろう。ウチの奴らにはお前から指示を出しておけ」
    「アイアイ!」

    「打たれ弱ェな、あのシロクマ」
     船長命令にキリリと表情を変え駆けて行ったベポを見送りつつ、ゾロはのんきに感想を述べた。
     元凶はお前だろと言わんばかりに、隈の濃い目がじろりと鋭く睨む。半ば当てつけである自覚はローにはない。
    「繊細なんだ。どこぞの誰かと違ってな」
    「そりゃあ大変だ。で? もう出れるのか」
    「先の航路についてはおれから話す……が、ゾロ屋」手を構え、にや、とひとの悪い笑みを見せれば、呼ばれたゾロはいぶかし気に片眉を上げている。「てめェはその前に温まってこい」
    「……!?」
     ブゥンと空気を震わせ、広がった薄い青の中。からんと転がる洗面器がひとつ。姿を消す直前の虚を突かれたゾロの表情に、少し胸がすいた。
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