わたしとあなたのユートピア/レオいず(途中) 俯いていたかおが、自動的にうえへ持ち上がる。レオが目線のその先を追いかけると、レオのほっぺたを両手で掴んだままの泉がいて、そのまま「車出して」と言った。
「いいけど……こんな時間に?」
レオはさらに目を泳がせて、リビングの壁にかかっている時計を確認した。夜の、じきに日付もまわるころ。夕食や入浴も終え、寝る支度が済んだらあとは各々ベッドに入るだけ。そんなときだった。
折りたたんでいた足をのばして、泉のほうに向き直る。次にレオの視界に飛び込んできたのは、泉の手首にかかっているランチトートだった。Knightsのロゴが入っているから、なにかのグッズなんだっけ。思い出せないが、それはなかみを伴って紺色の布がおもたそうにゆれている。
「どこいくんだ? 買い物は、今日の夕方しなかった?」
「んん……どうしようかな、決めてない」
「ん?」
車出してと言ったのはそっちのくせに、目的地が定まってないとはどういうことだ。
泉はレオの頬を手のひらで揉みながら、「ああ。ちょっと行った先の公園は? ベンチあるでしょ。なんなら、歩いていってもいい」と言って、そのままレオのからだを引き上げた。
結構雑なちからの入れ方をされたものだから、よろけたところを泉がすぐさま手を取って支えてくれる。さながらダンスホールで足をもつれあわせる男女のような姿勢になったのだが、もちろんそのまま踊るなんてことはなく。レオがたちあがったのを見るやいなや、泉はそのままずんずん前を進み出す。
レオの手首あたりをつかみながら、リビングを抜け、廊下、そして玄関のドアへ手をかける。
「え、ちょ、セナ」
「なに?」
「おれ、こんなかっこだし、髪もむすんでない」
「あんたそんなの気にするようなやつだっけ」
生地の薄いスウェットと、風呂のあとドライヤーでかわかしたまんまのオレンジの髪は、だらしなく肩口に垂れている。たしかに外出には適さない。だけれど、泉はレオの返事なんか聞いちゃいないとでも言わんばかりに、すでにつま先を靴の中に滑らせている。
「セナもその、すっぴんのままで平気?」
「は!? 俺の素顔が表にも出せないくらい醜いとでも!?」
「うるさいな! おまえはいつだってきれいだよ!」
でしょう、とくちもとを吊り上げて笑う泉だったが、やっぱりレオのことは待ってくれない。ほら、と促すみたいに腕を揺らされる。
べつにいやだった訳ではないけど。観念したレオは、泉に続くように靴を履く。
「ねえ、歩く? それとも車?」
「車でいこう。夜だし、あぶないから」
「そう。好きにして」
だから、そちらから言っておいてそれはどういうことなんだ。
不思議に思いながらも、レオと泉は星が浮かぶ紺色の空の下をしばらく並んで歩く。先導する泉の手が、いつの間に手首から手のひらに移動していた。レオの手指をかきわけるように、泉の手指も絡まってくる。それから泉の手首のトートバッグがまた、おもたく揺れた。