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    Sei_Kurage

    @Sei_Kurage

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    Sei_Kurage

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    風邪を引いたサクのために儚華家にお見舞いに行く怜くんのはなし。

    怜くん→@reia_akiDK24

    ##創作DKSS

    《ちょっと、動かないで》怜×サク サクが風邪を引いた。
     そんな話を弟のセイから学校で聞いた怜は、「兄さんはどうせ普段からろくなものを食べれてないから……」と、寂しそうな一言が忘れられず、学校からまっすぐスーパーへ向かい、そこから食料の詰まったエコバッグを片手に制服のままこの双子の家までやってきた。

    「セイくんとサクくんのおうち、初めて来た……。なんか緊張するなぁ……」

     この家に住む双子の兄弟とは、何度も話したり出かけた事があるが、こうして家を訪ねるのは初めてのことだ。セイが言うにはそこそこ有名なデザイナーが設計した[変な家]との事だったが、シンプルなグレーの壁面と、塀の外からでもわずかに見えた、リビングであろう部屋の大きな一枚板のガラスが印象的なその家は、一般的な感覚から言えば[すごい家]だ。

     ──ピンポン

     家の中はさぞ静かなのだろう、少し緊張しながら押したチャイムの音が、インターホンのスピーカーに加えて、ドア越しにも響いた。

    『はぁい』

     ほどなくしてスピーカーから、聞きなれたセイの声が聞こえる。ゆったりとしたその声に、怜はここが全く知らない場所ではないのだとどこか安心する。インターホンにはカメラがついており、怜はそちらに視線を向けて、レンズの向こうのセイへ呼びかけた。

    「あ、セイくん。おれだけど」
    『あ、怜くんセンパイ! 来てくれたんだ!』
    「うん、サクくん大丈夫そう?」
    『兄さん、部屋に引きこもってるんで……わかんないんですけど、たぶん。あ、今開けます!』

     ガチャ、とインターホンの切れる音がし、パタパタと足音が近づいてきた。間もなく鍵が外れ、大きな扉を開けてセイが出てくる。セイはとっくに帰宅していた様子で、髪は後ろで一つ結びにし、赤いパーカーに黒のペプラムジャケットを合わせた、いつもの彼のラフな装いだった。(休日の彼はゴシック色の強い服を身に纏うため、さらに華美な出立ちになるのだ)

    「怜くんセンパイ! こんにちは! なんかすみません、呼び出したみたいになって」
    「ううん、今日は時間があったからいいんだ。サクくんの様子は?」
    「昨日久しぶりに家に帰ってきたと思ったらすごい熱で。それからずっと部屋にいます」
    「もう、二日前に会った時は全然そんな感じじゃあなかったのに」

     怜を招き入れ、そのまま会話をしながら廊下からリビングへ向かう。いつものニコニコした怜の表情はそのままでも、声が少し怒っているように感じたセイは、そんな彼の様子を見たことがなく、とても不思議そうな顔をしている。まぁ、気のせいかとそれ以上は深く聞かなかったが。

    「あ、まず荷物置いた方がいいかな? あと冷蔵が必要なものがあれば、冷蔵庫使ってもらって!」
    「うん、ありがとう。えーっと、タンパク質もと思って鶏肉を買ってきたから、ちょっと冷蔵庫お借りしてもいい?」
    「はぁい、大丈夫です!」

     セイはリビングを横切り、冷蔵庫の扉を開ける。怜はそれについて行って、エコバッグの中から鶏肉のパックを取り出すと、セイの指したスペースに差し込んだ。

    「あとはお野菜と常温で大丈夫なものだから、ちょっとここに置かせてもらってもいい?」
    「うん。あ、こっちの椅子の上に置こ。はい、荷物貸して」
    「ありがとう」

     セイは広いダイニングテーブルを囲う、四脚の椅子のうち一つをひくと、その上に怜から受け取ったエコバッグを置いた。持ち手が重力を失い、口が開く。その中身をセイは興味深そうに眺める。にんじん、だいこん、ねぎ、生姜……風邪に効きそうな、かつ栄養のバランスを考えて選んだであろう食材がたくさん詰まっている。セイは怜の料理スキルを何度か体験させてもらっているので、兄のことを少々うらやましく思った。

    「あ、そうだ、怜くんセンパイ。僕ちょっと出かける用事ができたから、出てくるね」
    「えっ」
    「遅くなると思うし、気を遣って僕の分は残しとかなくても大丈夫だから。怜くんセンパイのご飯は好きだけど、万が一傷ませちゃったら申し訳ないもの」
    「え、まって」

     セイは「あはは♪」と上機嫌に笑った。笑顔がかわいい後輩だとか思うよりも、彼らの両親が出張でいないことを知っていた怜は、サクと彼の実家で二人きりになる事実に、ちょっとどころか、かなり動揺してしまっている。何かに伸ばしたいがやり場のない手は、宙をうろうろと彷徨っている。

    「ちなみに、兄さんの部屋は階段を上がって左にある、黒い丸のプレートが掛かった部屋ね」
    「えっ」
    「寝床とそこに行くまでの道は何とか確保してあるんだけど、ちょっと散らかってるから、許してあげて! えーと、……よし! じゃあ、兄さんにはお大事にって! あ、あと鍵はオートロックだから、もし僕が戻る前に帰りたくなっても、そのまんま出て行ってもらって大丈夫。いってきます!」

     怜が声を挟む隙間もなく、セイはマシンガントークをしたのち、家の扉から張り切って出て行ってしまった。せめて料理ができるまでセイを引き留めようと思ったのに、それは一切叶わなかった。

    「いっちゃった……。うーん、どうしよう……とりあえずどのくらいご飯が食べれそうか分からないし、サクくんの様子を見に行ってみようかな……」

     先程のセイの話によれば、サクの部屋は二階の左手にあるらしい。怜は広いリビングの端から上階に生えるらせん階段を、なるべくゆっくりと音を立てないように登った。階段を登り切ると、目の前には二メートル四方ほどの大きなガラスが、夕日の差し込む庭の様子をパノラマのように映している。左右に廊下が伸びており、セイの言葉に従って左へ視線を向ける。

    「あ、あれか」

     ドアが二つ並んだうち、手前に黒い丸の金属プレートが見え、怜は少し早足でそのドアの前に立つ。奥にある右隣の部屋のプレートは黒い星の形をしており、おそらくこちらがセイの部屋なのだろうと納得した。

    「なんか緊張する……どうしよう……」

     意味もなく制服の襟を正し、姿勢を整える。そりゃあ恋人の部屋に入るのだ、男子高校生としては非常時だろうがドキドキするに決まっている。

     意を決した怜が、部屋の扉を柔らかくノックをしてノブに手をかけた。ゆっくりと扉を開くと、なによりも真っ先に無地やさまざまなロゴが印刷された、段ボール箱の山が視界に飛び込んできた。
     某密林の段ボールや、お洒落なエンブレムの段ボール。いくつかは知っているスポーツブランドのものもあり、中には服飾関係の物が入っているのだと怜は推測した。さらに足元には未開封の袋が散らばっており、中にはアクセサリーや布が入っているようで、端っこが袋の隙間から飛び出ている。
     きょろきょろと辺りを見渡すと、その向こうにベッドと白い塊が目に入った。それがこの部屋の主人である事が分かるのに時間はかからなかった。

    「もう……! 惺雫! 入ってくるなって言っただろ……!」
    「ぁ、……サクくん? 体調は大丈夫?」

     布団の中から聞こえた、まるで手負いの獣のような低く唸る怒声に一瞬驚きはしたものの、心配な気持ちの方が強く出て、怜は優しく声をかける。

    「んん……っ? え? その声……怜くん……え……? 本物?」

     第一声からは想像のつかない、掠れ気味だがふわふわでかわいらしい声が、盛り上がった布団の中から聞こえてくる。サクの存在と生存を確認した怜は、ゆっくりとベッドへと近づいた。

    「サクくん、大丈夫?」
    「やっぱ、れーくんだ……?」

     すぐそばまで来た怜の声に応えるように、サクは布団の塊から顔だけを出す。視線は合わなかったが、いつも白い肌は熱でほんのり紅く染まっており、汗がちらちらと窓から差し込む日を反射している。よく見れば、いつも身に付けているピアスはすべて外されており、見慣れた金属の光はベッドサイドに置かれた小さなガラスプレートに散らばっていた。その隣には三分の一ほど中身の残った、青いラベルのペットボトルが置いてある。ひとまず飲み物は飲んでいるようで安心した。

    「起こしてごめんね」
    「うぅ……ん、っ!? えぇ、まって……なんでいるの」

     まだうとうとしていたサクは、怜に触れられてやっと視線を交わした。その存在を脳が認知した瞬間に跳ね起き、その拍子に上半身から布団が膝元にはらと落ちた。
     普段見下ろすことのないサクの顔を上から覗くと、ちょうど胸元がざっくり開いた水色の部屋着からは、程よく締まった胸板がのぞいている。怜はそれを何度も見て触れているはずだが、この状況でどうにもいけないものを見てしまった気分になり、ゆっくりと視線を外した。

    「っ」
    「え、ぁ……セイ、は……?」
    「さっきまでいたけど出かけちゃった」
    「や……僕、さっき怒っちゃって……恥ずかしい……」

     熱で紅い顔をさらに濃くして、サクは俯いてしまった。

    「それは大丈夫だよ。──それより! おれ、一昨日サクくんに『寒くなるから、風邪ひかないようにね』って言ったよね」
    「はい……」
    「あのね、心配になるから……ほんとに」
    「ごめんなさい」

     いつも怜がいれば戯れて甘えるサクも、流石に怜の真剣な表情に大人しく従わざるをえないでいる。彼に獣耳やしっぽでも生えていたならば、わかりやすく垂れ下がっているだろう。
     とはいえ、怜も病気の恋人を怒るためにここまできたわけではない。ごほ、とサクが喉を鳴らせば、辛そうな顔をして様子を伺った。

    「ちょっと、おでこ触るよ」
    「え」

     一言。その間にサクは抵抗する暇もなく侵入を許してしまい、ベッドのスプリングが軋む音がする。ベッドに片膝を立てた怜の顔が、近づき、鼻先が触れ合いそうな距離まで迫る。怜の鮮やかな翠色の瞳がぼやけて、彼の吐息がサクの頬を撫でた。

    「あ、ぁ……」

     怜は手のひらで温度を比べたあと、ゆっくりとお互いの髪をかきあげ、額同士をくっつける。サクはその間、忙しなく視線をさ迷わせるも、どことも焦点が合わず、言いたいことが溢れすぎて喉の奥から出てこない。

    「ぁ……っ、ぅ……そ、そんな! こと! だめぎゃ、あ、ぅ……余計にねち、あがっあ、ぅぅ……」

     やっと喉が震えても、言葉にはならなかった。熱でふわふわする思考と力の入らない筋肉に、サクはさらに振り回され、ぐわんぐわんと回る脳に頭を抱えては悶えている。

    「ほら、あんまり暴れないで。身体に障るから」

     怜はサクの頭を抱えるように優しく抱きしめる。抱きしめられながら、誰のせいだこの天然タラシと思いつつも、規則正しい怜の心臓の音は耳に心地よかった。しかし、耳を塞ぐことによって相対的に響く、自分の鼓動があまりにも早いことに驚く。

    「ぅ……」
    「うーん、やっぱり熱いね。今日は何か飲んだり食べたりした? お薬は?」

     怜はベッドの縁に腰掛け、サクの背中を優しく撫でる。サクの身体は熱く、汗は部屋着をじっとりと濡らしていた。それでも、先程より少し落ち着いた様子のサクは、頭を怜の肩に預け、ゆっくりと呼吸をしている。

    「え、と……サクが朝ミルク粥作って、漢方のやつ、のんだ。お昼は、まだ……」
    「今はお腹空いてる?」
    「すこし、だけ……」
    「じゃあ何か作ろうか」

     怜がサクをベッドに預けて離れようとしたが、パーカーの裾を引っ張られ、それは叶わなかった。

    「や……もうすこし、ここにいて」
    「ごはんは?」
    「後でいい。怜くんがぎゅっとしててくれたら、それで僕は満足」
    「わかった、じゃあ少しだけね。そのあとご飯食べれそうなら食べてくれる?」
    「うん……」

     おやすみ、と、怜が笑う。サクは素直に布団へ潜り込んだが、身体を離した喪失感を埋めようと、掛け布団の隙間から手を伸ばしてぱたぱたと動かす。見かねた怜がその手を取ると、サクは安心したように上瞼を下ろした。
     やがてサクの穏やかな寝息が聞こえ、怜は安心から深く息を吐いた。
     サクがあまりに穏やかに眠るもので、少しだけ、一緒に寝ようかな……なんて思って、怜はサクと手を繋いだままでベッドから降り、頭と上半身をスプリングに預ける。

     セイの帰宅により、二人が同じフレームに収められるまで、あと三時間。
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