《ひめはじめ Ver.星羽悠》 一月二日。つまらない親族の集まりがあり、早くに出かけたのだが、早めに抜けて日が暮れた頃にやっと自宅に戻ってきた。
風呂を終えてリビングへ戻り、先にコタツで温まっていた羽悠のすぐ背後に座る。
細い背中を包むように腕を回す。この体勢だと、ぼくは膝から下しかコタツの恩恵は受けられていないけれど、空調も効いているし、羽悠にくっついているからか、さほど寒くもない。
「羽悠」
「ん……どうしたの?」
「今日はなんの日か知ってますか?」
より密着する姿勢になり、肩から顔をのぞかせながら羽悠に問う。ふわふわの髪の毛と、シャンプーのいい香りが鼻をくすぐる。
「えっ……唐突だなぁ。と言うか、帰ってきてからお風呂以外、ずっとオレから離れないね?」
早めに抜けたのは、羽悠の体調が気がかりなのももちろんあったのだが、親戚が代わる代わる部屋にやってきて、羽悠をかわいいだの綺麗だのと持て囃しに来るのが気に食わなかったから、というのも大きいかもしれない。
「……だって、流石に親戚の前では、こんな風に羽悠に触れられないじゃないですか」
目の前のうなじに右手の人差し指をゆっくりと這わせた。指がたどり着いた肩の先がわずかに震える。
「……っ」
「あれ、照れてますか? うなじまで真っ赤で可愛い」
「キ、ミ……だって、変な、とこ……ひゃ、ッ」
「触ってる、って?」
羽悠がコクコクと首を縦に振った。服の下に差し入れようとした左手をやんわりと止められる。しかし、その指先は力が入っておらず、無抵抗に近い状態でそのまま先に進めそうですらある。
「さて、ここで最初の質問に戻ります。今日は、なんの日でしょうか?」
「わから、な……ッあ」
「うーん、そうですか……」
「最初の頃より、触り方が、あ、ンッ」
鎖骨を撫でていた指先を懐に滑り込ませた。胸の突起から、へその方へ。いわゆる、性感帯になり得る部分を上から順番にゆっくりと撫でる。
「ぼくは羽悠が思ってるよりも俗物的なんですよ。羽悠は、ぼくに触れられるのは好きじゃないですか?」
「い、ッ……! そ、そんな、わけ……ッ」
お互いの息が多少荒くなってきた。羽悠はぼくに上体を預けるように身体を反らせて、足をもじもじと擦り合わせている。
先程よりも熱を帯びた身体は、ぼくの理性を少しずつ食んでいった。
「……さて、そろそろぼくも限界かもしれません。コタツで、というのも趣がありますが、やっぱりベッドルームにいきましょう。明日もまだお休みですからね、今日はあなたをじっくり抱きます」
「ん……。は、ぁっ……誠、くん……さっきの、質問の答えは、教えてくれないのかい?」
赤く火照った頬と少し潤んだ瞳。さらに上目遣いで、こちらの様子を伺う姿は懇願しているようにも見えた。もう焦らすつもりもないが、今すぐにでも抱きしめてベッドルームに連れ去りたい衝動を抑え、ごく冷静に振る舞う。
「っ、あぁ……そうでした。答えは『ひめはじめ』ですよ。初めて秘め事をする日、だそうです」
「そ、れは……」
「言ったじゃないですか、ぼくは羽悠が思ってるよりも俗物的ですよ、って」
ふふ、となるべく柔らかく笑って見せた。羽悠は単語を聞いてもイマイチ今の状況としっくり来ていない様子だったが、流石にもう我慢はできなかった。
「昔は違ったらしいですけどね。──ねぇ、羽悠。ぼくと秘めゴト、しませんか」
薄い腹へ僅かに指先をしずめれば、羽悠は顔を真っ赤にして、ゆっくりとうなづいてくれた。