捨て物(キングダム/那楚) いつだったかの戦場で、楚水さんを庇った兵士が死んだ。
士族の、まだ若い奴だったが楚水騎兵団の前身にあたる郭備隊から所属していたらしい。
よく楚水さんの側に居る姿を見掛けた。剣や鉾の手入れについて尋ねたり、兵法について教えてもらったりしていたようだ。
飛信隊には俺たち一家を悪く言ったり、疎むような人間はいない。そいつも例外なく気さくで何度か話したことがある。何なら、そいつのほうが俺たちが持っている武器や刺青に興味を示し、索敵のコツを尋ねてきたこともあった。
その若い兵士は楚水さんを庇った後、仲間に抱えられて日暮れとともに自陣へ戻ってきた。生きているのも不思議なぐらいの虫の息だった。
そして付き合いの長い元・郭備兵や百姓組に囲まれて、これまでの功績を称えられ、可愛がられて逝った。血の気を失って青白い顔をしていたが穏やかに笑って、一番慕っていたであろう楚水さんの腕に抱かれて。
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