いちごジャムの話2ジャムの瓶を開ける音は幸せの音だ。
おずおずと恥ずかしがり屋な香りが瓶の開いた口から甘く香った。ジャムに濡れたその口元に鼻を寄せると、より濃厚な甘酸っぱい香りが頭の中いっぱいに広がった。
お父さんが僕のために買ってくれるものはなんだって嬉しい。寂しくて眠れない夜はお父さんと朝に食べるトーストといちごジャムの事を思い出して耐えるんだ。寂しくてもさ、ほら、ハロ、君がいるし、お腹が空いたら大好きなパンといちごジャムもある。
だけどやっぱり寂しくてどうしようもない時は、お父さんが僕のためだけに買ってくれたいちごジャムをスプーン掬って食べるんだ。一度お父さんに見られて怒られたから、今は一人の時だけにしている。
スプーンにたっぷりとのせたいちごジャムはキラキラと輝いていて綺麗で、怒られたせいか少し悪い事をしているような、ちょっとしたスリルもある。
誰も見ていないのにドキドキする。
口をあけて、スプーンごとぱくり。
幸せの味だ。
口の中いっぱいに広がるいちごの香りと甘酸っぱさ。たっぷり入ったお砂糖の頭の中が溶けてしまうような甘さに思わず目を閉じてため息が漏れた。
もう一口、もう一口とカチャカチャ音を立てて食べれば、小さな瓶はあっという間に空っぽになる。空っぽの瓶を見ると寂しくて胸が潰れそうになるから、最後の一口ぶんだけ残しておくように最近はしている。
お前はジャムが好きだから気をつけないとな、と言って月に一度は絶対に歯医者に連れて行かれるけど、本当は歯医者じゃなくてお父さんと遊びに行きたいんだけどなぁ。