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    Dk6G6

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    Dk6G6

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    周囲から逆だと思われてるけどカブミスな話です

    言いふらすのはやめて下さい「隊長って性欲ないのにどうやって抱くんだろ」

     騒がしい酒場の中、誰かの呟きがぽつりと落ちた。
     迷宮探索からお役御免となったカナリア隊の囚人達は現在各地で魔物の生態調査の任務に駆り出されている。その関係で久々に会った隊長は、何とトールマンのカブルーという男と恋仲になったらしい。「え〜!?相手短命種!?ガキじゃん!」「いいよね、短命種……。生き方がひたむきというかさ……」「あら、あの男に隊長の相手が務まるのかしら」等々皆で好き放題言い、隊長の第二の人生の新たな門出を囃し立てた。そしてめでたく任務も終了した後の飲み会での席のおつまみは、隊長の下世話な話になった訳だ。酒で緩んだ思考から疑問をポンポンと投げ出すせいで最低な考察が酒場に垂れ流されていく。

    「確かに。薬でも飲んでヤるんじゃね」
    「魔術でもそういう用途で使えるのがあるわよ」
    「途中で効果切れて寝そうでヤダな~」
    「この場にパッタドルがいなくて良かったなあ」

     好き放題に元上司の下事情が考察されていくが、止めるものは誰もいない。普段ならすぐさま怒り出すであろうパッタドルは今日は不在。酒と仕事終わりの解放感でストッパーがなくなった隊員たちはギャハハと笑いながらミスルンの下半身事情の話を続ける。

    「隊長だってお貴族様なんだし、欲求失う前にそれなりに経験があったでしょ。過去の経験値でちゃんとリードしてくれそうじゃん」
    「そう?快楽を得たいという欲求もないから特に自分から動かないんじゃない?」
    「マグロっぽいよな。相手するトールマンは大変そう」
    「いや~、まさか隊長に惚れる奇特な人間が現れるとは」
    「迷宮で二人きりになった時魔物から散々助けられたっぽいし、吊り橋効果というやつじゃないかな?」

     その意見に皆が一様にうんうん、と頷く。ミスルンは強い。そしてエルフから見たら男らしい筋肉質な中年の男性である。そんな男性に四六時中命を助けられつつも自身の弱味を見せられたらどうなるか。クラッときてしまう人間がいてもおかしくない。まあ、隊長カッコいいもんな。金持ちだし。男らしいよね……。惚れてもしゃーないよ。彼らの頭の中ではカブルーとミスルンの謎のロマンスが展開されていく。迷宮内での吊り橋効果によるロマンスはよくあることだ。命の危機に瀕した時に助けてくれる歳上の男性という存在にうっかり恋心抱いて「抱いてくれ!」となってもおかしくはない。それが未熟な短命種なら尚のこと。
     誰も頭の中に最初から構築されている前提条件など疑わない。エルフたちの中では隊長は渋い壮年の男であり、カブルーは可愛らしい子供と言える時分の人間である訳だ。そうなると何となく頭の中では未熟な年下の恋人をリードするミスルンという絵面が出来る。それがどんなにちぐはぐな絵面であっても、エルフたちの中では何となくミスルンが抱く方なのだろうな、という認識が出来上がっていた。

    「で、実際そこのところどうなんですか隊長?」

     自分の最低な考察が垂れ流されていても黙ったまま酒を傾けていたミスルンにリシオンが話を振った。 
     酒精で少しばかり赤らんだ顔でミスルンは周囲のエルフたちの表情を眺める。皆一様に好奇心に満ち満ちた顔でミスルンの話に期待していた。誰構わず個人的なことを話すなとカブルーに言われたが、まあ、彼ら相手なら多少はいいだろう。この場にカブルーがいたら「一番話したら駄目な面子ですって!」と悲鳴を上げたに違いない。

    「いくつかお前たちは勘違いしている」

     私が抱かれている方だ、とミスルンのさして大きくない一声に騒がしかった声が一斉に静まり返った。

    「あと薬がなくても刺激されれば反応はする」

     それから……とミスルンは先程の無口はなんだったのかと思うほどに饒舌に語り始めた。その内容は恐ろしいほどの惚気。滔々とカブルーと恋人になってからの生活について語り続ける。周囲の反応など一切気にしない。
     すさまじくしょっぱい顔になったフレキとリシオン、あらあらと面白そうに話しを聞くシスヒス、うんうんと頷くオッタ。そして若干ドン引いている他の隊員たち。しかし、そんな様々な反応もミスルンの話がかなり際どい内容になってくるにつれ、同じ反応になっていった。

    「すいません。ミスルンさんのお迎えにきたんですけど」
    「うわっ!変態トールマン!!」
    「何で出会いがしらにそんな不名誉な罵りを受けないといけないんですか!?」
    「短命種の若さと勢いって怖……」
    「私ですらちょっとどうかと思う」

     一か所に身を寄せ合い青白い顔でカブルーを眺めるエルフたち。短命種趣味のオッタすら身を引いている。何ですか一体、と周囲を見渡したカブルーは一人で延々と語り続けているミスルンの様子を見て全て察してしまった。この時ばかりは自分の洞察力が憎たらしい。

    「ミスルンさん、迎えに来ましたよ。早く一緒に帰りましょう」
    「まだ話し終わっていない」
    「もう誰も碌に聞いてませんよ」

     この人結構酔ってるな、と彼の対応の面倒さに思わずため息を吐く。ミスルンは酔うと質が悪い。今回は延々と一人で惚気を語る方向へとその面倒くささが発揮されているようだ。
     
    「どこまで話してしまったんですか」
    「お前が私の耳を舐めるのが好きなことは先程話した。あとこの間の夜に……」
    「もう結構です」

     これは駄目だ。主に自分への被害がとんでもないことになっている。羞恥心のない彼が明け透けに語ってしまった内容は少々刺激が強すぎる。特に性に関して欲求が薄いエルフたちに対しては。すっかりカブルーを見る目が獣を見るようなそれになっている。
     どうやったら口止めできるのかと痛む頭を押さえながら、未だ話を続けようとするミスルンの口を押さえた。後ろから抱え込むような形で無理やり立たせ、酒場の出口へと引きずっていく。

    「すいません、僕たちはもう帰りますね。酔った彼の戯言は忘れてください」 
    「おうよ、中年趣味トールマン」
    「精々夜道に気をつけなさい。ムッツリ短命種」
    「怒りますよ」

     揶揄う口調の彼らを一睨みして酒場を出ていく。その背に向かって「隊長ー!!お幸せに!」「何でも頷くのはやめた方がいいぞ~!」「恋人と仲良くな~!!」と騒がしい野次が飛んでくる。カブルーに抱えられたままだったミスルンはぴくりと反応して振り返り、酒場にいる仲間に向かって「うん」と頷いた。

    「楽しかったですか?」
    「分からない」

     ふらつく彼の腰を支えながら夜道を歩く。分からないと言いつつもいつもより機嫌の良さそうな彼は、カブルーの顔を覗き込んで少し口元を緩めた。

    「だが、お前の話が出来て良かったと思う」

     彼らには世話になったから、と。今の自分がそれなりに満たされていると思うことを伝えられて良かったと語る。その横顔があんまりにも穏やかだったものだから、思わずその赤く染まった目元に口づけを落としてしまった。

    「……突然すいません」
    「構わない。お前に口付けされるのは悪い気分じゃない」

     そう言ってミスルンはカブルーの手を取り微笑んだ。二人の目は合わさり、自然と顔が近づいてゆく。そして唇と唇が重なりかけたその刹那、「おい、押すなって!バレるだろうが!」という声と共にどさどさと人が倒れるような騒がしい音が聞こえてきた。
     振り返ると元カナリア隊のエルフたちがバツの悪そうな顔でこちらを眺めていた。いや、見せ物じゃないんですよ。さっき良い感じに別れてたじゃないですか。
     
    「……やっぱり彼らに話すのはやめた方が良かったと思います」

     ミスルンは珍しく困ったような顔で、「そうかもしれない」と小さく呟いた。
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    Dk6G6

    DOODLEカブルーがミスルンにマッサージするだけの話
    未来永劫、貴方だけ目と目が合った瞬間、カブルーは自分が幻覚を見ているのではないかと真っ先に思った。だから瞬きを何度かしてみたけれども視界の景色は全く変わらない。一度視線を逸らし、もう一度焦点を合わせてから見ても無駄だった。数メートル先ではいつも通り泰然とした様子のミスルンが立っている。これが城や街中ならカブルーはいつも通りにこやかに声をかけただろう。
     しかし、今の彼の立っている場所が場所だ。視界を少し上に向けると、彼が出てきた店の看板が堂々と掲げられている。マッサージ屋と謳われているそこは、いわゆる夜のお店だった。歓楽街の中心地に健全なマッサージ屋などそうあるものではない。それにマッサージ屋とは書かれていても、その店の外観に張られているポスターや雰囲気を見れば、通常のそれでないことは一目瞭然だろう。そんな店からミスルンが出てきた。幻覚を疑ってもしょうがない。だって、彼に性欲などないはずだ。通常の男の知り合いがこんな店から出てきたのならカブルーは相手の性格によって軽く揶揄ったり、逆に見なかったふりをする。知り合いに性を発散しているところを見られたら、誰であれ多少気まずさは生じるだろう。でも相手はミスルンだ。羞恥心もないし、性欲もない。
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