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    kofaku

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    kofaku

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    愛を否定する兄の話です

    どこまでも偽らぬ愛を毅然と、その青い瞳は輝いていた。

    ————————

    今年も冬が来た。クーラーさえ効かせていない夏の暑さがむしろ恋しいまであるほど寒い。
    シルヴィオは、数日の休暇を取って日本に飛んだはいいものの、雪の冷たさに根負けしてホテルに引きこもっていた。

    「びっっっ……くりするくらい寒いな…………」
    「まあこっちは雪降りますからね」
    「寒くないのか……?」
    「寒いです」

    鼻水を啜って話す無名に、ああやっぱりかと目を逸らす。そりゃそうだ、『ネコはコタツで丸くなる』んだから、冬に出歩ける方がおかしい。シルヴィオには彼がである理由はわからなかったが、なんとなくそれで納得はできた。
    それと、見間違えだと思ったらそこにいた事も。

    「で、行かないんです?」
    「……行きたいけど……あっちの方が寒いだろ?」
    「去年は誕生日だなんだと迎えに来てたのに」

    悪いか、とひとつ噛みつけば、罰の悪そうな笑い声が聞こえてくる。どうにもこうにも怒ることはできず、無名の姿を視界端に捉えたまま瞬きを繰り返した。

    ————————

    どこまでも偽らぬ愛を

    ————————

    大した兄弟愛はない。
    欠けた1人だから必要なだけだ。

    そう、言い聞かせてみた。

    「本当にそうですか」

    煩わしい声に耳を塞ぎたい。
    だが、そんな腕はない。
    脚も、口も、耳も目も、ここでは何の意味も成さなかった。

    「自分にウソをつく事を、正当化してしまうのですか」

    悪かったな、と想う。
    どこからかその声を聞きつけた様に、また返事が返ってくる。

    「人間の防衛本能を使う事を咎めてるんじゃないですよ」

    じゃあなんだ、と口調を荒げてみせた。
    曖昧にボカすやり方が腹立たしい!


    「彼に対する想いを咎めているのさ、______」


    ————————

    「おはようございます」

    そのまま眠ってしまっていた様だ。シルヴィオは、薄らと覚醒していく思考で記憶の中を探している。

    「……むめいくん、か」
    「はい。僕ですけど」
    「ん、そうか……」

    柔らかな手触りの声は聞き慣れないものの心地よい。まるで風に攫われる様な感覚だ。
    眠ってしまったシルヴィオをベッドに寝かせたのはどうやら無名らしく、彼自身は椅子に座ってパラパラと本を捲っていた。

    「……読めるのか?」
    「いいえ?それらしく見えるでしょう」

    軽く笑って、無名は本のカバーをパタリと閉じた。何か飲みますか、と席を立つので、シルヴィオは言葉に甘えて肯定の言葉を口にする。……ブラックで頼むよ、なんて厚かましい注文と共に。
    少し経って、湯気を立たせ温かいことを強く主張するカップがふたつ運ばれてくる。ミルクの優しい香りとコーヒーの気高い香りが相まって、ここがカフェの店内である様にも思われた。

    「……キミは飲まないのか」
    「ええ。猫にカフェインは毒ですよ」

    そういうと、シルヴィオの前に真っ黒に揺蕩うそれを置いた。無名がもう片方のカップを口に運ぶと、熱い、という悲鳴と共にカップをゆっくり戻す。
    ああ、猫舌なのか、とシルヴィオはその様子を流し見て、大して美味くもないインスタントコーヒーを啜った。

    「今何時だ」
    「午後6時を回ったところです。冷え込んでくるので出かけるのはお勧めしませんけど」
    「そうか……」
    「まあ、この季節はいつ出かけても寒いですけどねえ」

    そう言って、今度はティースプーンでちまちまとホットミルクを口に運び始めた。まるで子供の様だと思いながら、シルヴィオは窓に目線を落とす。
    しんしんと降る雪が窓の桟にも積もっていて、見るだけで一面冬景色、というような見た目が想像できる。イルミネーションを見るには少し遅かったかな、と眉を下げて、また目線を部屋に向けた。
    目の前の相手は、からからとカップをティースプーンでかき混ぜている。湯気をほかほかと上げるカップを見る限り、本人にとってはまだ熱かったようだ。

    「……ところで……」

    徐に、シルヴィオは口を開いた。

    「キミ、誰だ?」
    『バレたか』

    カップの中で円を描いていた白が、不自然に沸き立ち始める。不快になる泡を立てて、排水溝が詰まったような、響く水音と共に。

    「……夢か」
    『そうだ。キミはまだ目覚めるべきじゃない』
    「誕生日に見る夢が悪夢とは、また面白いものだ」

    シルヴィオはからからと快活な笑みを浮かべて、その声の主を眺めていた。
    カップの泡は一向に収まる気配もなく、その液はテーブルの上を汚していく。ごぼ、ごぼ、際限なく吹き出して、
    床を、服を、

    『キミの心にまで』
    「残念だが俺の心は染まる所などないぞ」

    挑発的にそう言って、次の瞬間、

    世界を暗転させた。

    ————————

    「明晰夢ならこれくらいできるだろ」
    『まあずいぶんと、無茶するもんだねぇ』

    次にシルヴィオの目に入った景色は、白の平行線だった。
    厳密に言えば、空も地も真っ白な世界が、永遠と続く世界だった。どのような材質かもはっきりとわからない、いわゆる「ご都合主義」だ。
    目の前にいる悪夢は華野愛羅の姿を取っている。しかし、顔部は黒い靄に包まれて表情を窺うことさえ叶わず、本能的に悍ましい、と思ってしまうほどグロテスクだ。

    「これなら思いっきり叩き潰せる」
    『犬を殺したように?』
    「アレは事故だ。大体、犬なんて2、3日で死ぬんだから」
    『キミ、ほんとに人間で遊ぶの大好きだよねえ』

    そう言うと、愛羅の頭部の靄が動き出し、犬の頭に似た形を取る。わんわん、と口で鳴いてみせるのを、じっとシルヴィオは見つめていた。

    「命乞いは終わりか?」
    『どうやって殺すつもり?』
    「夢とは、俺自身だろう?そういうことだ」

    そして、シルヴィオは自分の首に手を掛けた。

    『なるほどね』

    瞬間。

    『けど、死なせないよぉ♡』

    愛羅は瞬きの間に目の前まで移動して、シルヴィオの腕を掴む。痣でもできるのではないかというほど強い力で、その手は引き剥がされていく。

    「強行突破ときたか」
    『そうでもしないと、本当のきみも死んじゃうからね』

    そうして、愛羅は彼に顔を近づけた。
    正確には、顔のフリをした靄を。

    『ぼくの事、嫌いでしょ?』
    「そりゃあな、とーーーっても嫌いだ」
    『えへへ!ぼくもきみの事、大っ嫌いだよ♡』

    そう言うと、靄は天使の翼のような形をとる。はさ、はさ、と数回はためいて動きを確認した後に、シルヴィオの全身を優しく、包み込むように、

    「おまッ……!!」

    それが動き始めた瞬間、その靄の中に、奈落が______
    ______奈落など彼には知る由もないが、そう表現するしかない暗闇が、シルヴィオには見えた。
    嫌な予感を察知した彼は地面を蹴って身体を後ろに倒そうとしたが、羽根は優しく、苦しく、その腕を掴み取る。

    『大嫌いだから、教えてあげる・・・・・・
    きみが何を考えてるのかも、何をしたいのかも、何をするべきなのかも、すべて』
    「離せ」
    『だから、ワルツくらいは踊ってよね』

    待て、と言う前にシルヴィオの身体は靄に飲み込まれていく。
    愛羅の形をした器だけが、闇に沈んでいく視界の中で唯一読み取れたものだった。

    ————————

    『オハヨウゴザイマス』
    「……あー……死んでくれないか」
    『断りますが?ほら、さっさと立ってくださいナ』

    紫樂道化は全身が靄に包まれており、最早身体の輪郭さえも窺えなかった。

    悪夢はまだ続く。鳴り響く調律もされていないピアノの音は、シルヴィオ自身の心情を顕著に表しているようだ。

    「……ワルツを踊れと、言われたが」
    『あら。随分平和的な解決方法を渡してもらえたのですネ』
    「…………力では勝てないようだしな」

    そういうとシルヴィオはまたもや白い空間に辟易としながら立ち上がる。紫樂道化___と思しき影は、その様子をじっと見つめていた。

    『で?一曲お相手、して頂けるんですか?』
    「……それしか道はないんだろう」
    『ハイもちろん♡さ、よろしくお願いしますネ』

    そうして、彼はシルヴィオの手を取る。靄の中にある明らかに人の形をした物質に、シルヴィオは少し混乱した。
    それでも、惹かれるがままにゆっくりと音楽に身を預ける。
    悪夢の雄弁な足取りにリードされて、今夜のワルツも始まった。

    『……では、ワタクシたちが何のためにいるのか、とりあえずお話せねばなりませんネ』
    「ああ!本当にそうだよ、なんでこんなことをするんだ」

    1、2、3。1、2、3。そこでターン、そこでターン。
    社交ダンスの見物人など誰もなく。月明かりさえないこの場所で、不調和な音程を奏でるピアノに合わせてリズムを刻む彼らは異質としか言いようがない。

    『ンまあ、ワタクシは元がアレ・・なんで例外なんですけど。他の人たちは話通じませんでしたよネ?』
    「まあ、そうだな。通じないというより、俺が会話する気がなかったんだが」
    『ワタクシたちは悪夢です。アナタの間違った思考を正しにきた、いい悪夢なのです!』

    からからと笑う紫樂道化に、夢であっても君は嫌いだとシルヴィオは告げる。呆れ返るように目を閉じているが、その腕前は弟とは比べ物にならない。足のもつれは元より、リズムの狂いも、振り付けのミスもないまま淡々とそれを遂行していた。

    『アナタ、弟さんのことは覚えてらっしゃって?』
    「……何故?」
    『いえ。問題なさそうですネ!
    ______アナタ、弟さんに何を抱いているか・・・・・・・・分かってます?』

    その瞬間、シルヴィオの目が焦りに染まる。

    「……」
    『あら。明晰夢に翻弄されるなんて、アナタもまだまだ人間のようですネ?』
    「ちょっと黙ってくれないか」
    『いいえ、黙りません。だって夢ですし!(笑)』

    自身の焦りに合わせて、BGMは加速を始める。不安げに、少しづつ、だけど確実にそれは自身の心情を表している。頭が何かにブッ叩かれたように、クラクラと揺れ始める。
    ___いやだ。何も、聞かないでくれ。

    『兄弟愛とは違う!片割れだから、無意識に必要としているだけだ』
    「それしかない」
    『う〜〜〜ん随分拗れてますネコンプレックス。私事ながらここまで面倒になっているとは思わなんだ』
    「あぁもう黙れ!!何がわかる!!!何を知っている!!」
    『全て』

    その感情が揺れるたびに、ピアノは不協和音を奏でる。いつの間にかテンポは心臓の鼓動のように速くなり、どこからか降り注ぐ光は赤に青にと点滅して、異様な雰囲気を醸し出す。
    足がもつれる。明らかについていけない。
    息が荒れる。それは心の奥底を傷つけられた恐怖からで。
    手を離す。

    また暗転。
    ああ、もう、嫌だ。

    ————————


    「……麗くん」
    『これも全てあなたのため、と言うには乱暴な事くらい、わかってるよ』

    瑛佳麗のもどきものに、形の崩れはなかった。

    『……話なら、寝転がっていてもできるだろう?好きな体制で、自分が思うままに吐き出してみろ』

    未だ疲労感に倒れているシルヴィオの横に、瑛佳麗は腰を下ろす。その金色の瞳は例え悪夢であろうとも曇ることなく、キラキラと未来への展望を映し出していた。
    シルヴィオは、その色を心底羨ましいと、常日頃から思っていた。

    「…………わからないものを、話せないだろう」
    『深層心理をほじくり返されている今なんだから、心当たりさえ掴めば後は芋づる式に出てくるんじゃないか』
    「随分とまた、雑な……」

    冷たいのか暖かいのかもわからない、平衡感覚を失くしそうな白い床に体重を預け、シルヴィオはただ、息を繰り返した。
    何も考えたくないと思った。特に、弟と決めつけた男に対しては。
    いいや、弟だ。血の繋がりを疑うまでもなく、確かに彼は俺の弟だ。もし赤の他人だったとしても、それでも、彼は弟なのだ。

    『……難儀だな、双子と言うものは』
    「君にだけは言われたくなかったよ」
    『それは瑛佳麗の話か?それとも俺自身ということか?」
    「どっちも」

    ため息をついて、シルヴィオは再び深層心理に身を投げる。

    ___10年ぶりの再会は、お世辞にも感動物語とは言えなかった。ただ、お互いにドロドロしたドス黒い何かをぶつけ合って、嫌いあって、歪みあって。
    けど、それができるのがどこか嬉しい自分がいた。

    「ざけんなお前のエゴなんかでオレの道を阻害すんなって言ってんだよクソ野郎!!!」
    「エゴなんかじゃない。お前のためだ」
    「〜〜〜〜ッッ……!」
    「……どうした?」

    今でも、泣き崩れた弟の姿がフラッシュバックすることがある。


    「…………もっと、早く、迎えに来てくれよ…………」


    もう、手遅れだった。
    彼は世界の歯車の代わりとして、有象無象の人間共とは遠い世界に隔離されていた。
    どうしようもない偶像崇拝が、それを顕著に表している。


    「……懺悔する、だから、許してくれ、ゆるして、」
    「…………」
    「おれは、……違う、ゆるさないでくれ、たのむ、おれを許さないでくれあにでいさせてくれ、一生憎んで、殺してくれ…………」


    そう言って縋りついたあの日は、思い返したくもないほどの痴態であり、永遠に胸に刻み込まれた醜態だった。


    「……ゆるさないでおれをころさないで
    「…………オレも、八つ当たりなことくらい、わかってる」


    神父は、自身を抱きしめる兄と名乗った男のことを、優しく抱き返して、頭を撫でた。
    まるで、聖母のように。


    「……けど、少しぐらいは兄弟喧嘩をさせてくれ、……今日の事はなかったことにして」


    次に彼に会った時には、本当に何もなかったかのように、呆気からんと接された。
    勿論シルヴィオがうざったらしく絡んだために彼もシルヴィオを跳ね除けるところはあったが、それでも、どちらも懺悔について触れることはなかった。

    『……俺は思うんだ、神父は、あの日のことを本当に覚えていないんじゃないか?』
    「はあ?……あり得ないだろ」
    『いいや、あり得る。
    ……神様は、アイツをずっと監視しているんだから』

    その瞬間。


    頭に、何かが打ちつけられたような。


    『……どうした?』
    「…………神様、」
    『うん、そう言ったが』


    元はと言えば、アレが全ての元凶なのだ。
    自身と愛弟を引き剥がし、二度と兄弟に戻れなくしたのは。

    まだ、アレは、俺たちの邪魔をする。


    「……潰さなければ」
    『どうやってだ!俺たちから言わせてもらうと』
    「人ひとりの運命」

    「俺の運命を捧げられるのならば、アイツが救われることも可能なんじゃないか?」


    バカなことを、と自分でも思った。そんなこと、できるはずがない。


    「それができるのなら」


    心臓が飛び跳ねるほどに痛い。
    ぐちゃぐちゃになって廻る血潮が、火照りを持って身体に渡る。



    「俺は、アイツを______」





    「救えるんじゃ、ないか?」



    暗転。
    ______しかし、僅かながらにシルヴィオの意識はそこに残留していた。視界こそ塞がれたままであるが、確かに意識だけはそこにあった。

    『おい、聞こえるか!?』

    瑛佳麗を象ったものが、___おそらく、倒れ込んだ体を揺らしているのだろう___焦りながら、こちらに呼びかける。
    シルヴィオは、覚束ない意識をそちらに向けるだけが限界だった。

    『いいか、何も聞くんじゃない・・・・・・・・・!!
    俺たちは悪夢なんかじゃない、ただの深層心理だ!違う、俺たちなんかよりもっとドス黒い"何か"がいる!』

    だんだん、声がとおくなる。
    おきているのさえ、とてもつらくて___……

    『わかったか、絶対______な、そっちに___な、___は___……___から___……』


    そこで、意識を手放した。

    ————————


    どことなく見覚えがある真っ白な風景の中、シルヴィオはそこに立っていた。
    ああ、これが明晰夢というヤツか。
    独りごちて、白い床を歩く。

    かた。

    かた。

    かた。

    何もない。
    精神病棟でももっと彩りがあるだろう、と言いたくなるほどに、白の空間だけがそこを支配していた。

    かた。

    かた。

    かた。

    代わり映えのしない景色。
    代わり映えのしない自身。
    明晰夢というからには、もう少し楽しめると思ったのに。
    シルヴィオは、落胆したように眉を下げた。

    かた。

    かた。

    か「オイ」


    「……?」

    突然の呼びかけに、少しばかりシルヴィオは心臓を跳ね上がらせる。
    そして、振り向く。
    その声は。
    ずっと、長い間、待ち望んでいた気がした______


    「兄貴」


    弟だった。

    シルヴィオは目を輝かせる。夢らしくなってきたじゃないか、なあ、こんなに理想で現実味のない!
    弟が自ら声をかけてくるなんて何年ぶりだろうか。もしや、されたことさえないのではないだろうか。
    歓喜と狂喜で頭がキマって、何も考えられなくなりそうだ。そんな流行る気持ちを抑えて、シルヴィオはただ、弟の次の言葉を待った。

    「兄貴、どこ行くんだよ、こっちだろ」

    そういうと、シルヴィオが進んでいた方向と逆、自身の背中側を神父は指差した。どうやら、シルヴィオは道を勘違いしていたらしい。
    ああ、そうだったかな。
    よくおぼえてないけど、あいつがいうならそうなんだろう。

    「(きっと、そうなんだろう)」

    シルヴィオには、既に正常な判断能力は残されていなかった。それが本当に弟であるのかさえ、見極めることができなかった。
    ただ、文字通り夢のような足取りで、彼は弟の所まで向かう。
    向かう。
    向かおうとした。

    なあ。
    邪魔をするな。

    退け。

    退けよ。

    なあ!!!!!!!!!!!!!


    「行っちゃダメ」


    神は、シルヴィオの手を強く引いてこう言った。

    「お前はッ!!!!お前はいつもアイツの邪魔になる!!!!!なんでだ!!!!!どうしてだ!!!!!そうまでして殺されたいのか!!!!!!」
    「いや、いつもなら止めないよ。だけど、キミは別」

    そして、彼女___女かどうかは、いまだに分からないが___は、その強い力でシルヴィオを元の位置まで引き寄せた。
    シルヴィオのもう片方の手も掴み、彼を進むべき方向、神父と逆側へ向ける。彼の目の前に立ち、神父と肩越しに向かい合うようにした。
    宇宙のように無限の星々が瞬く瞳で、 そのサファイアのようなシルヴィオの瞳を覗き込む。

    「キミが起きなきゃ、彼が悲しむでしょう?」
    「…………は?」

    何を。

    「あたしがわざわざ止めにきた理由って、それだけ。まだ、終わらせたくないでしょう?」

    何を?

    「……何を言って」
    「キミ、もしかしてまだ何もわかってない!?ひぇ〜!キミ本当に人間の最高峰?」

    大袈裟に仰け反って驚く彼女に、更に頭の中の苛つきは掻き立てられる。今頃背中を向けている俺に弟はどんな不安を感じているだろうか。シルヴィオには、それしか考える余裕がなかった。

    「お前に罵倒される筋合いはない」
    「え?あ!ごめん、別に嗤ってるつもりじゃなかったの」
    「早く手を離せ。そして二度と弟に近寄るな」

    無理やり手を振り解こうとするが、常軌を逸した彼女の力はいくら手を振っても抜け出すことができない。だから、こうやって彼女が手を離すのを待つことしかできない。
    ああ、じれったい、うざったい、早く弟と歩きたい、お前なんか殺してやりたい。

    「……あー、仕方ないなあ」

    そういって、神の手はそっとシルヴィオの手首を離した。今だ、と言わんばかりにシルヴィオは弟の所へ走り出す。やっと会える。やっと、やっと______
    兄として、向かい入れてくれる!


    「ならこれでどう?」


    唐突に、シルヴィオの足が止まる。

    震えが止まらない。


    「どうしたんだよ」


    喉の奥から、噛み殺したような悲鳴を出した。
    そこには、弟なんていなかった。
    …ただの、人間が見てはいけないなにか・・・だ。

    「ッ……何をしたお前!!!!!!」
    「キミ、フィルターかかりすぎてたから取っ払っただけだよ?ニンゲンの深層心理なんてこんなもんさ」

    確かに、見たことはないのに見覚えがあった。
    実際そんな口も捕食器官もないのに、自身が食い殺されるような、犠牲者となるような不安だけはどうしても拭えなかった。
    先程まで目の前にいた弟を思い返しても、それと彼を同じものだと認識することはできなかった。
    ___したくなかった、の方が正しいのかもしれない。

    「えーーと……お兄さんだっけ?」
    「お前に兄と言われる筋合いは」
    「こっち」

    いつのまにか後ろにいた彼女が、シルヴィオの手をもう一度掴む。
    そうして、後ろに向かって駆け出した。

    シルヴィオには、抵抗する勇気は持ち合わせていなかった。ただ、その選択が正しいのだと、心のどこかで悟っていた。
    自身が掬い上げられた事を認めなくないのに、認めるしかない状況。屈辱であり、安堵をもたらすその体温。

    引っ張られるがままに、足を後ろに歩ませる。
    名残り惜しみながら、弟だったその何かに背を向ける。

    神を、生まれて初めて信じた瞬間だった。

    ————————

    シルヴィオは、いまだに離されない手を見ながら白い景色を歩んでいた。

    「なあ、もう逃げ出す気はないんだが」
    「キミ、今すごいあやふやな状態だよ?あたしがいるからギリギリ意識を保ってるの。目覚めたくないなら離してもいいけどさ」
    「…………」

    今更ながらに、彼女の後ろ姿をまともに見る。
    どこも欠けていない、人間としてあるべき個性もない、完璧であり、ある意味欠如している身体だと碧い双眸はそれを認めた。白い布一枚で隔たれた人間の理想とも呼ぶべきかたちは、触れればその均衡を破ってしまうようにも感じられた。
    それに、今手を握られている。
    焦燥、不安、罪悪感。
    色々な感情が腹と頭の中で渦巻いて、気が狂いそうになる。
    彼女はそんなことも知らぬまま、ただ一筋、どこにたどり着くかも目印さえもわからない道を一直線に辿っていた。

    「……どこに行くんだ」
    「今ね、キミの意識の中にいるの、あたしたち」
    「はあ」

    気の抜けた返事をシルヴィオは返す。そうは言われたって、イメージはできないし何をするかもわからない。

    「で、キミはキミという意識の集合体なワケ!」
    「矛盾してないか」
    「んーとね、なんといえば伝わるのかなー」

    しばらく頭を捻っていたが、ぱちんと目を見開いて彼女はこちらに振り返った。ぎゅっと手を両手で握られて、後ろ向きで歩き続ける。後ろに突っかかって転んでしまわないか、どうしても心配になってしまう。

    「ここは『キミの経験』___つまり、キミの無意識下で作られた世界なの」
    「……夢、もしくは走馬灯……みたいなものか?」
    「まー、うーん、そんな感じ。で、キミは『キミという存在をキミたらしめる意識』!」
    「全くわからないんだが?」

    わざとらしく驚く彼女に舌打ちして、続きを促す。どうにもこうにも、機嫌の悪いシルヴィオと彼女とは反りが合いそうにないのだった。
    ___まあ、どちらも合わせる気がないので、当然と言えば当然かもしれないが。

    「キミって存在は、キミの無意識下の思考、言動、その他諸々を掛け合わせてできてるの。わかる?」
    「舐めてるのか?」
    「そんなわけ!その中でも、『キミしか持ち得ないもの』___彼への愛情とか、キミ自身の後悔とか。そういう、キミじゃないと持てない無意識が、今のキミの構成物質ってわけ!」
    「最悪だな!……待て」

    ん?と神は目を丸くして、相変わらず何の変わりもない仮面のような笑顔のままこちらの様子を窺う。

    「……今、何を」
    「だから、キミじゃないと持てない___」
    「人間臭いことをするな高次元生命体!!!」
    「はいはい。だってあたし、神様だよ?キミが彼にどんなぐちゃぐちゃのグロテスクを見ているかなんておオミトオシ☆」

    なら、話は早い。
    シルヴィオは、徐にそこに立ち止まった。

    「……じゃあ、神とやらは」
    「うん?」


    「俺を犠牲にすれば、弟のことを救えるんだろうな」


    初めて。
    初めて彼女が、神が、この世界の創造主が______

    笑顔を、外した・・・


    「……キミ、本当に変わってるね」
    「できるんだろう?なあ」


    これが俺の考えていることで。
    これが俺のしたいことで。
    これが俺のやるべきことだ。

    ギリ、と、握られている手に力を込める。血が滲んでいるのではないかと錯覚するほどに、強く、痛く。
    シルヴィオは、笑みを浮かべた。
    精一杯の、挑発であった。


    「……まあ、できないことはないけど」


    知っているだろうか、諸君。


    「そんなことしたら」


    神は、そんなに______




    「あの子、いなくなっちゃうよ?」




    ______甘くない。



    シルヴィオは、頭を殴られたような目眩しにその視界を奪われていた。
    ちか、くら、ぎら。
    瞬く星々は宇宙のようだった。
    実際は目の前にいる神の持つ小宇宙だったのだが、それを認識するにはあまりにも残酷な現実に彼は目を潰されていた。

    「あの子、もう何回かは死んでたよ?あたしがいなかったらね」

    もう何も言うな、と開いた口は渇いた呻き声しか上がらない。あまりにも、酷だ。
    アイツが何をしたって言うんだ。
    アイツは、何のために生きてきたって言うんだ?

    「だけど生きてる。あの子が世界を繋ぐ楔である限り、あの子が世界を救う兆しである限り、あの子はツケを払わなくても構わないの」

    そんな。
    そんなことって。

    「どうやっても、無理。キミに設定を変えることはできるけど、その時点であの子は今までの死を全部背負って、惨たらしく死ぬことになるよ」

    「キミが、殺すことになる」


    「世界に殺されるのと、キミ自身で殺すの、どっちがいい?
    ______これくらいの人情は、あたしでも理解できるよ」


    結局、どうやっても片割れという刃は自分可愛さのプラスチックに過ぎなかったのだ。
    結局、救いたいなんて偽善は偽善の域を出ず、ただの独占欲に過ぎなかったのだ。

    結局、愛していたのだ。

    愛していたから、殺せないのだ。


    「………………」

    シルヴィオは、はくはくと口を動かすだけだった。酸素を求める出目金のように、目玉を開いて動けなくなっていた。

    「……そりゃあ、『自分』が殺したという事実は変わらなくても、『80億人のため』と『1人の偽善のため』じゃあ全然違うよねえ」

    どんなに愛していても、殺せない。それが救済だとわかっているのに、まだ一緒にいたいだとか、まだ抱き締めてやりたいだとか、そんな要らない感情ばかりが脳を食い尽くして切れ味のない刃を自分に突き立てていた。
    ようやく、声のような、かひ、という音が出た。
    神は、取り繕った笑顔をやめて、本当に何も感じていないように淡々と話し続ける。

    「キミ、立ち止まってるんじゃいけないよ。早く歩いて、ほら」

    「いやだ」

    「弟を救えなくなったから、起きる理由もなくなったって言うの?」

    その通りだった。もう刺さないでくれ。


    「……なら、今殺してしまうのと変わりはないのに」


    ぽつり、と彼女は呟く。
    不思議そうに、シルヴィオはその言葉を見上げた。


    「どうせ会えなくなってしまうのに、どうして躊躇う必要なんてあるの?愛してるから殺せないのなら、愛してやればいい話じゃないの?」


    花弁が、見えた。
    赤いバラの花びらが、空を覆い尽くす。

    10本だろうか。
    100本だろうか?
    1000本かもしれない。

    まあ、夢なんだけども。
    夢の中でくらい、好きな夢を見させてくれ。


    「……帰る」
    「そうこなくちゃ。ほら、おいで。世界あたしは残酷でも、あなたの愛を否定するほど醜くはないのだよ」


    シルヴィオは、弱々しく彼女の指を握る。
    人前で___しかも女の姿をした、殺したいほどに憎い相手の前で___涙が溢れるなんて、もう何年振りかもわからない。弟に唯一見せたあの一筋の愛情と、今の涙はそう変わりはなかった。

    神の言葉に愛情はかけらほども見られなかったが、確かにそれは愛であるのだ。

    神は、また笑顔の仮面を貼り付けた。
    手を引かれて歩く神とシルヴィオは、まるで母親に叱られたあとの子供のようだった。

    ______そうなのだろう。

    ————————

    「おいクソバカ野郎起きろやダボ!!!!」

    ドアの荒々しく叩かれる音で目が覚めた。
    仮にもここはホテルで人の目があるのだと言うのに、神父はダウンのフードを被ったままダンダンと足でノックを続けている。
    シルヴィオは跳ね起きて、自分の両手をじっと見つめた。


    「……夢……じゃ、なかったのか……」


    あの手の感触は確かにあった。
    強く強く、手首を握られた跡もくっきりと残っていた。
    潜在意識とは厄介なもので、夢のようなものであっても『本当にあった』と認識すれば、それが現れてしまうという。
    実際、癌と予告されて死んだ患者が癌でなかった、なんてこともあるらしかった。
    彼はそれを信じているわけではなかったが、こうも目の前に起きていれば、それはあの体験が現実だったのか、もしくはそう言う理由をつけないと説明のしようがない。

    「起きてねーのかよフロントにイタ電するぞカス!!!!」

    再びノック___と言うにはあまりにも暴力的な___が激しくなる。
    無名はいないのだろうか。もしかしたらここを伝えて、さっさと出ていったのかもしれない。あのマイペースキャットの事だから、窓から出て行ったのも二十分にありそうだ。
    シルヴィオは現実感を取り戻すのもそこそこに、弟の待っているだろうドアを開けた。

    「壊れたらどうするんだ」
    「いくらでも払えんだろ!!……ぁい」
    「わびッッ」

    神父は詫びれもせず、しかし何処か照れを孕んだような声色で、その物体を投げつけた。
    狙った通り兄の顔にクリーンヒット。不細工な悲鳴を上げて、シルヴィオは落としたそれを拾い上げた。

    「……バラ!??!??」
    「おうよ。青だよ青、かっけーだろ?」

    驚くべきことに、それは誕生日プレゼントの一環であった。
    ドライフラワーの青いバラの花弁が、無造作に袋の中に詰め込まれている。
    素晴らしいプレゼントだろう、素晴らしいチョイスだろうと言いたげに神父はドヤ顔を浮かべた。

    「ば、バラって、お前、どういう意味か」
    「調べたよ、『夢かなう』、ってさ。……まあお前に叶えられねー夢とか、ンなもんないと思うけどなァ?」

    金の力で解決ですか、なんて皮肉を言いながら神父は部屋の中に押し入ろうとする。見れば、肩や頭に溶け切っていない雪が残っていた。
    その目線に気付いたのか、彼は呆気からんとしたように言う。


    「……だって、もう日付変わっちゃうじゃん、傘差す暇なんて」


    どこまでも愚直で素直で愛おしい弟よ!

    「愛してるぞ〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡」
    「うわッキショいキモい抱きつくな殺す殺す殺す殺す!!」


    どこまでも深い愛をあなたに。
    どこまでも愚かな愛をあなたに。
    どこまでも利己心の愛をあなたに。
    ————————

    どこまでも偽らぬ愛を

    ————————

    没:
    「なあコンビニでケーキ買ってきたんだよはいレシート金出せあとここAVある?見ようぜ」
    「お前ここをラブホか何かと勘違いしてないか?先にシャワー浴びてこい、寒いだろ」
    「ヤダ大胆……自分からメイクラブするの…?」
    「気色悪いやめろ!!!!」
    →どうしても自分の中で腐感が拭い切れなかった。

    無事に3周年、おめでとう!どうもありがとう!
    解説、バカほど長いので読まなくていいよ。

    閑話休題、タイトルについて。
    「どこまでも偽らぬ愛を」あなたに。
    結局、シルヴィオが神父に抱いていたのはどうしようもない愛でした。(没タイトル:どうしようもない愛を)
    それならば、救済なんてもうないのならば、せめて愛を捧げるだけでも。

    場面転換が激しいので解説。

    現実世界。シルヴィオ、日本に到着。寒すぎてホテルに避難。無名がいると勘違いしたせいで無名、お呼び出し。仕方なく部屋に2人でいる事に。
    そのままシルヴィオ、寝る。

    これはただの夢。

    深層心理世界入り口。無名の皮を被った悪夢が現実世界に成り代わりシルヴィオを堕とそうとする。
    シルヴィオ、もちろん気づく。そして無理やり暗転、逃避して深層心理世界の奥へ。

    深層心理世界1層目、華野愛羅。愛羅のことはわかっているようでわからないので、顔が見えない。
    深層心理の深くに押し込まれる。
    深層心理世界は奥に入るたびに自身の意識(自我?)が薄くなっていくので、注意しようね!

    深層心理世界2層目、紫樂道化。道化のことは何も知らないので(14106の記憶は削除済)、何もわからない、靄。
    道化の皮を被った悪夢にその気はなかったけど、シルヴィオが恐怖より逃避してさらに深くへ。

    深層心理世界3層目、瑛佳麗。次が最終層であることを麗の皮を被った悪夢は理解しているし、何が目的かもわかっている。起こそうと企み弟のことを聞き出すが、失敗。シルヴィオはさらに逃避、というより無理やり奥に押し入る。
    麗、焦る。次に入ればおそらくシルヴィオは帰ってこないため。

    深層心理世界最終層、■■。ここまで入ってくると夢である自覚が難しくなり、■■により帰ってこれない奥まで引き込まれる。甘言でシルヴィオを誘うが、神、それを認知。弟のメンタルに異常をきたすとまずいと考え、急遽入り口兼出口を拵え無理やり割り入り。■■のフィルターを剥がして目を覚まさせ、来た道を辿る。

    深層心理世界、神が開けた出口。シルヴィオはほとんど自我のない危うい状態なのを、神様チートでなんとか増幅して通常通りの状態。

    現実世界。起床。無名はパーティーに呼び出された。

    って感じ。ややこし!


    ・最初の問いはシルヴィオ本人。これが悪夢、深層心理世界を作る意識になる。兄は欠けた片割れだから大好きだと言っている、思っていると主張したがっているのだけど、
    "結局、どうやっても片割れという刃は自分可愛さのプラスチックに過ぎなかったのだ。
    結局、救いたいなんて偽善は偽善の域を出ず、ただの独占欲に過ぎなかったのだ。
    結局、愛していたのだ。"
    に繋がる。

    ・"『犬を殺したように?』
    「アレは事故だ。大体、犬なんて2、3日で死ぬんだから」
    『キミ、ほんとに人間で遊ぶの大好きだよねえ』"
    →これは落書きで書いた、むかーしの話。シルヴィオは犬として反逆者やらを飼ってるんだけど、しょっちゅういじめ倒して殺しちゃうって話。

    ・"1、2、3。1、2、3。そこでターン、そこでターン。
    社交ダンスの見物人など誰もなく。月明かりさえないこの場所で、……"
    →"1、2、3。1、2、3。そこでターン、そこでターン。
    神父がリードされる形で始まった社交ダンスの見物人など誰もなく、ただ月明かりだけが2人を照らす。"
    『月夜のワルツはまだ明けぬ』より。

    ・"「…………もっと、早く、迎えに来てくれよ…………」"
    →神父が世界の歯車であることを、もう兄は告白されています。
    これはその前の発言なんだけど、選ばれる基準として「神を信仰している」ってものがあるから、もっと早く迎えに来てくれればオレはこんな目に遭わなかったのに、今更オレのためだと努力の末の居城を奪うなんて!という恨み言。ちなみに神父は覚えてるよ。兄のプライドを傷つけるのは可哀想だと思ってるが故に避けてるだけ。
    兄は結構傷ついてる。

    ・"『いいか、"何も聞くんじゃない"!!
    俺たちは悪夢なんかじゃない、ただの深層心理だ!違う、俺たちなんかよりもっとドス黒い"何か"がいる!』"
    →これは神父の形をした悪夢、つまり昏睡状態に引き込もうとする希死念慮の権化です。

    ・"「ここは『キミの経験』___つまり、キミの無意識下で作られた世界なの」"
    "「……で、キミは『キミという存在をキミたらしめる意識』!」"
    →前者、夢は体験を元に作られると聞いたので、それ。
    後者、僕は解離なので時々ひどい離人症が起きるんですが、最終的に「けどこいつは紛れもなく自分だよな」と認識して、離人が収まります。客観的に見た時に、無意識に自分が考えていること。例えば、この本面白かったなとか、この人嫌いだなとか、そういうの。自分じゃないとわからないこと。が、この世界においてのシルヴィオです。

    ・"「あの子、もう何回かは死んでたよ?あたしがいなかったらね」"
    →これ話したかな!?神父は運が非常に悪いのは知ってるだろうけど、逆に言ったら「悪運」は異常に強いわけ。
    なので、死のうとしても死ねない。死ぬはずなのに、死なない。いわゆる主人公補正がバリバリにかかっているわけで。
    けどぐらしの世界はもちろん現実世界と同じ認識なんだから、主人公補正なんてかかってたらおかしいわけで。
    そこを神様がうまーく辻褄合わせしてるんだけど、それは選ばれてるから許される特例であって、対象が神父じゃなくなったら主人公補正が取っ払われる。
    その時点で普通の人間になるわけだから、今まで特例で許されてたことが全部許されなくなって、死ぬ。

    ・"結局、どうやっても片割れという刃は自分可愛さのプラスチックに過ぎなかったのだ。"
    →ここオキニ
    プラスチックの刃で弟なんて殺せません。当たり前よね!

    ・"「……そりゃあ、『自分』が殺したという事実は変わらなくても、『80億人のため』と『1人の偽善のため』じゃあ全然違うよねえ」"
    →死刑執行みたいなもんです
    スイッチは3人で押すじゃないですか、それと同じ
    どうせ死ぬのなら1人だけで押すよりも、80億人で押した方がよっぽど気が楽じゃないですか

    ・"10本だろうか。100本だろうか?1000本かもしれない。"
    →シルヴィオは元来愛を歪んだものとしか捉えられない性質があります。(ここらへんは最低最悪参照)
    神様の愛も結構薄い(というより、ほぼほぼ大多数の1人としてしか見てないから薄く見えるだけなんだけど)んだけど、そりゃあ親や友やよりも自分のルーツを作った何かの方がよっぽどストレートで一直線な愛な訳で。
    それを具現化したのが、バラの花です。
    「あなたは全てが完璧」「100%の愛」「10000年の愛を誓います」
    これら全部は神様→人類に対して。あたしが作った人類なんだから欠陥なんてないよ!がんばれがんばれ!と、いう。

    ・実は神父くん、存外兄の事は嫌っていません(最低最悪参照)ベタベタされると鬱陶しいけど、完璧超人なところは素直に尊敬しています。

    ・結局、シルヴィオは愛を認めることしかできませんでした。神父のことが救えなくても、それが一生自分の傷になっても、愛というものをやっと理解した……のかな。
    と思う。わからない。けど今回はちゃんとまとまった気がする。する!わからん!終わり!閉廷!みんな解散

    ————————

    「なあ、オレにはプレゼントないの?」
    「ん?あるぞ!」

    ニコニコと笑って、シルヴィオはカバンの中に手を突っ込んだ。
    ああ、金でもなければ大したものでもないな、と神父は期待が外れた事に少し残念がりながら、それでもひどいものではないだろうと軽い興味を寄せていた。

    「そら」

    神父が差し出した手のひらに乗せられたのは、ずっしりとした一つのケース。
    ケースを開けると、

    「ヒィッッッ!?」

    大変高級そうな、時計が1本入っていた。

    「使い所がなくてな!なんとなく持っておくのも惜しいし、よかったら使ってくれないか」
    「は!?え、は、おま、これ、いくらした、」
    「ん?んー……7、8……」
    「お前6ケタすっ飛ばしてる時点でブッ壊れてんだよ金銭感覚バカ!!!バカ!!!!!!」

    重量的にも金額的にも重すぎる愛だ、と神父はどことなく思ったのは秘密だ。

    ————————

    今年こそおめでとう2人とも、
    そしてもう一度、3周年おめでとうみんな!
    いっしょに生きてくれてありがとう、これからも愛してる!
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