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    shakota_sangatu

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    #青色浮かぶ1222お題 温泉 二人で温泉に行くアオカブの全年齢

    #アオカブ

    無題 空を眩しいと思っても、美しいと思ったことは無かった。そんな自分でも、カブさんが指し示す空はいつもより鮮やかに感じた。
    「見て、空が綺麗だよ、」
     そう言われて見た空は、秋の深まりに似つかわしい、突き抜けるような青色。白い雲は高い高度に漂い、遠くにムックルと思わしい群れがゆったりと飛んでいる。
    「澄んでいるね」
    「あぁ……、はい、」
     カブの指し示す指の先を見ながら、アオキはうっすらと目を細める。そこにある空は、アオキにとってはいつも通りの青空だ。強いて言うならば、白い太陽が少しだけ眩しい……。
     けれど、カブが嬉しそうに笑うから、この空はきっといつもより美しいのだ。
     太陽に照らされた空の色がそうなら、それを指し示すカブの心も同じくらい澄んでいるようにそう感じた。
    「絶好のお出かけ日和だね」
     空を見上げていたカブが、アオキの方を見てにこやかに笑う。秋の風に髪を揺らす彼は、いつもと違う黒縁の眼鏡姿で、その衣装もチャコールグレーのセーターを身に纏っている。彼に習うように、濃いネイビーのセーターを身に纏っていて。どこか似通ったコーディネートの恰好をした男二人は、紅葉で赤く染まった山間の道を仲良く二人連れだって歩いている。
    「そうですね、」
    「うん!」
     カブの言葉にアオキが頷けば、カブは嬉しそうにぴょんぴょんとその場で足踏みをした。躍動する活気に満ちた男と、その隣を歩く物静かな男。友人と見るには距離の近い二人は、所詮恋人同士と呼べる関係で。かたやガラルのエンジンジムジムリーダー、かたやパルデアのジムリーダー兼四天王という肩書を持つ二人は、この秋の日に人目をはばかりながらのお忍びデートを決行していた。
     もちろん、普段から顔を公表していないアオキが隠す必要はない。けれど、有名人の恋人があまりにも真剣に眼鏡をかけるものだから、つい合わせてしまったのだ。
     場所は、パシオの温泉地……。秋の深まりによって赤々と色づいた紅葉が笠のように枝を伸ばした山道を登りながら、二人が向かうのはホウエン式の温泉旅館だ。
     ガラルやパルデアといった、水着で入浴するスパというイメージの強い温泉施設と異なる、カブの生まれ故郷であるホウエン式の温泉宿。とどのつまり、裸の付き合いという入浴方法で温泉を楽しむそこに、二人が向かうのは実は二度目だった。
     一度目は、二人がまだ友人関係であった時に。二人で食事を楽しむうちに、カブから齎されたホウエンの温泉というものが気になって。
     よくよく考えれば、友人という関係性の頃の方が、色々な所に出かけていた気がする。あたりまえかもしれないが、恋人という関係性に収まってからは、外に出るよりも家の中で映画を見たりと、貴重な休日をまったりと過ごすことの方が多かった。朝は長々と眠るアオキに対し、カブはジョギングをしたりトレーニングをしたりと。それぞれ別のことをしながらも、それが苦痛ではない時間も心地いいのだが、たまには二人で出かけようかということになり……。
    「そろそろ紅葉の時期だね」
     カブの一言で、温泉に行くのが決まった。それから、アオキが慣れた手つきで宿をとり。二人で楽しみながら、当日の服装を決め……。恋人同士の甘い空気の中で、今日という日を迎えたのだ。
    「すごい、此処の階段、落ち葉で綺麗だね!」
     唐突に階段を駆け上がり始める、カブの背中はとても楽しそうで。カブが普段纏う色と同じ燃えるような赤に染まった山道は、カブの姿を飲み込んでいっそう鮮やかなものとなっていく。──、ように、見えた。
     赤という色合いは、カブにとてもよく似合っている。
     世間一般では、その感覚のことをきっと、美しいというふうに呼ぶのだ。
     アオキは、生まれついて物事の美醜がわからない。それは、普通という感覚を好むアオキの、補いようがない欠点のようなものだ。
     アオキは、足りないことが多い人間だ。
     そんな人間にとって、普通という嗜好は判断基準を作るうえで好ましい。規範を習えば、善悪の判断は補うことができた。道徳心だって、外側からの情報で補強することができる。
     けれど、共感性や美醜は分からない。多種多様な普通があるせいで、一つの基準を作りにくい。だから、分からないものとして切り捨ててきた。そこにはないもの、求められても仕方が無いもの。不親切な人間と呼ばれても、それは別に構わなかった。
     アオキにとって青空は、青空でしかない。紅葉も、紅葉でしかない。
     その認識を変える努力をしなかった男が、少しだけ認識を改めたのはカブさんと出会ったからで……。
     だって、アオキの世界で、カブさんだけは輝いて見えるのだ。ならば、彼が指し示すものが、美しいのだと言われれば。それは、その通りなのだと理解することができる。
     アオキは、それを素直にカブにぶつけた。
     自分は美醜が分からないこと、今までそれを理解しようとしなかったこと。そのうえで、あなたが示すものならば、価値を理解できるのだという。
     およそ理解し合えない、非人間的な言葉に対して。
    「なるほど、わかりました」
     カブは拒絶することはなかった、ただ困ったように笑いながら、アオキの手をとってくれた。
    「じゃあ、ボクが教えてあげるね」
     そう言って、蕩けるように微笑んでくれたカブ。この人に許容されることに、愛しさを見出しているアオキは、その言葉に伽藍洞の腹を膨らませた。
     アオキという、心に洞が空いている人間に対して、カブは丁寧に美しさを説く。木々の隙間に差し込む木漏れ日、朝一に飲むコーヒーの水面。それから、この目の前に広がる紅葉を。
     差し伸べられる手を取りながら、アオキは少しずつ空っぽの内側を満たしている。
     その努力はいつか、感動の涙に変わるのかもしれないし、変わらないかもしれない。
     今日もまた、何気ない日常の一幕を心に溜めながら。アオキは、階段を小走りに駆け上がっていく恋人を、自分のペースで追いかけていく。
     カブの美しい日常は、トレーニングの一幕でもある。長い石段を跳ねていく恋人は、階段の一番上で立ち止まると、その場で足踏みをしながらアオキを待ってくれる。
     早く、とは急かさない。こちらも、待たせようとはしない。歩調の違う人選を歩んできた二人が、それぞれのルールを大切にしながら共生する。それが、恋人である自分たちの形だ。
    「カブさん、」
    「うん?」
     ゆっくりとカブに追いついたアオキは、恋人の肩に小さな紅葉が懐いているのを見つけた。名前を呼んで、一回り低い場所にある彼の肩に手を伸ばす。不思議そうに首を傾げる、カブの右の肩から小さな紅葉を摘み上げて。
    「ついてますよ」
     翳して見せれば、カブは少し目を細めてその紅葉を見上げた。子どものような顔をするのが不思議で、なんとなくその紅葉をカブに差し出してみる。すると、彼は柔らかな笑みを浮かべて、その小さな葉っぱを大切そうに受け取った。
    「小さな秋だね、ボクにくれるの?」
    「……、はい」
    「うん、大事にするね」
     そう言うと、カブはハンカチを取り出して、その小さな紅葉をそっと包むと、再び元の場所に仕舞いこんだ。ただの葉っぱなのに、そんなに大切にしてもらうだなんて。
     不思議だと思いながらも、アオキは何も言わずにどこか上機嫌なカブを見下ろす。
    「……。手、繋ぎましょうか」
    「うーーん……、」
     ふと、手を繋ぎたいなと思って。手を差し出して催促すると、カブは少し返答に含みを持たせた。
    「こっちがいいかな」
     三白眼が悪戯っぽく笑い、カブはアオキの腕に自分の腕を絡める。身長差があるせいで、カブが少し抱き着くような姿勢だが、手を繋ぐよりもよっぽど二人の距離感は近い。
     思わず目を見開けば、悪戯成功と言わんばかりにカブがにっこりと笑う。
    「いいですね」
     カブがいいのなら、自分はもちろん構わない。顔を隠している自分と違う、有名人の彼が気兼ねなく甘えているのだから、今はきっとそうして大丈夫なタイミングなのだ。
     少しだけ、腕にカブの重さを感じながら、アオキは心持ちゆっくりと歩き始める……。といっても、ほんの20メートルほどだ。
     紅葉が簾のように折り重なる、曲がりくねった小道の奥が二人の泊まる旅館で。その玄関に届くまでの短い時間を、二人は恋人らしく楽しんだ。
     踏みしめる砂利が、小さく音を立てる感触も悪くはない。特に会話をするわけではなかったが、カブと歩く短い距離は何故か心地よかった。
    「楽しいね、」
     黒縁眼鏡をかけたカブが、そう言って頬を染めるので、頷いてしまう……。確かに、これは楽しいという感覚なのかもしれない。ブルーベリー学園の、山盛りのポテトを前にした時の感情と似ている。
     ───、自然と、口端が上がった。
    「えぇ、とても」
    「───、うん」
     アオキの表情の変化と、仄かに色づいたカブの頬。恋人の空気感を滲ませた二人は、チェックインの間も腕を絡ませたままだった。
     アオキが、離さなかった、ということにした。
     せっかく、服装まで変えて、カブに至っては眼鏡で変装までしたのだから。こうやって、恋人らしく振舞うことも、すこしならば赦されるような気がしたのだ。チェックインの際に出迎えてくれたボーイも、二人の様子を見ても特に何も言わなかった。年甲斐無くはしゃいでも、きっと今ならば赦されるのだろう。

     部屋の鍵を手に、ボーイに部屋まで案内される。

     二人が選んだ部屋は、当然ながら露天風呂付きだ。もちろん、大浴場もあるのだが、今回は恋人同士でゆっくりとしたかった。もちろん、食事も部屋まで運んでもらえる。
    「風呂に入りましょうか」
     あとはごゆっくりと……。一通りサービスの説明をしたボーイが部屋から去る。アオキが話を聞く間、じっとアオキの腕に抱き着いて、二人のやり取りを見上げていたカブに声をかければ。
    「そうしよう!」
     そう言って、ぐいぐいと腕を引かれた。分析しなくても分かる、カブはとてもはしゃいでいるようだ。年甲斐無く甘えるように、他の誰にも見せない姿を見せてくれる。
     毅然とした一面以外の、ふにゃりと笑う柔らかい部分。恋人になる前に比べて、カブはそんな無防備な部分をアオキによく見せてくれるようになった。恋人として、当然の特権なのだろうか……。それとも、齢の近いアオキにだからこそ、こんなに素直になってくれるのか。
     分からない、けれど、聞くほどでもない。
     胸を満たす愛しさを感じながら、アオキは逆らうことなくカブに引かれて脱衣所に向かった。
     ぱっと、カブの手がアオキから離れる。少し名残惜しく思うも、風呂に入るのだから仕方がない。ゆっくりと服を脱ぎながら、なんとはなしに、同じく服を脱ぐカブの姿を見やる。
     逞しく鍛えられた身体には、火傷の痕が残っている。
     炎タイプの使い手にとって当然のことらしいが、カブの場合は、火傷の疵が深い。尋ねれば、ずっと昔に、無茶なトレーニングをして負ったものだと教えてくれた。
     その火傷、ひとつひとつに、口付けた初夜を覚えている。
     気持ち悪いよね、と。項垂れるカブに対して。そんなことはないと伝えるために、彼を構成するすべての痕に唇を這わせた夜があった。
     アオキは、カブの身体を美しいと思う、その感想は、恋人という関係性になる前から変わらない。
    「アオキくん……、」
     感慨に浸りながら、カブの裸体を熱心に見ていたのに気づかれていたらしい。こちらを振り返ったカブは、少しだけ頬を染めている。
    「えっち」
    「すみません」
    「早く脱いだ方が良いと思います」
    「はい、」
     カブに注意され、アオキは素直に謝罪して服を脱いだ。適当に畳んで籠に入れたあと、用意されていたタオルを一枚手に取る。待っていたカブが、用意を整えたタイミングで、露天風呂に続く引き戸を開ける。
     昼間ということもあって、外からの風はそこまで冷たくはない。
    「広いね」
    「そうですね……。あ、お背中流しますよ」
    「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
     アオキの提案に、カブは嬉しそうに笑った。もちろん、やましい意図は無い。今日は、ただただこの恋人を甘やかしたい。
     風呂用の小さい椅子に座り、こちらに無防備な背中を見せるカブの背にお湯をかける。それから、備え付けのボディーソープを使って背中を洗ってやる。
    「力加減はどうです?」
    「ん……、ちょうどいいよ、」
     気持ちよさそうな声にほっとしながら、アオキはカブの鍛えられた背中を優しく擦ってやった。こんなに喜ぶなら、家でもしてやりたいが、残念なことに男二人で入るにはパシオの借家は手狭である。
    「終わりましたよ、」
    「ん、ありがとう。……、待って、ボクもするから、」
    「───、では、お言葉に甘えて」
     そう言って、座っている位置を交代し、カブに背中を流してもらう。確かに、気持ちがいいかもしれない。目を細めていると、不意に背中を指の腹で撫でられる感触がした。
     振り向けば、カブが頬を赤らめている。どうしたのかと、言外に問うアオキに対して。
     カブは、顔を赤らめたまま。
    「アオキくんの背中、ひっかき傷の痕がある……、」
    「……、………、」
     なるほどと、アオキは天を仰いだ。情事の最中、力強く縋りつくカブを思い出す。思う存分甘えた恋人が、あの夜の痕を見つけて顔を赤らめているのは大変に良い。
     良いのだが、今は温泉を楽しみたい気分だ。
    「……、………、」
    「温泉、入りますか」
    「うん!」
     話題を変えれば、カブは頬を赤らめたまま、にっこりと笑った。とても可愛い、夜は覚悟して欲しい。けれど今は……、穏やかな心境のままで。
     二人で黙々と身体を洗い、露天風呂へと向かう。足先からゆっくりと湯に浸かり、二人でふわぁっと息をついた。
     心地よい、熱い湯に浸かっていれば、やましい気持ちも自然と消える。
    「気持ちいいね、アオキくん」
     そう言って、にっこりと笑うカブに対し。アオキも背後の石に背を預けてこくこくと頷いたのだった。
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