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    6rocci

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    ブレブレ解釈

    三途+九井 九井一という男に個人的な感情はない。ただ自分の王であるマイキーが今までのものをすべて捨てて新しくチームを創設するというから、それについていくと決めた日から自分になにかできることを探した。
     三途春千夜はマイキーのために何ができる? 考えて辿り着いたのは、「できることならなんでも」という答え。邪魔なチームがいれば喧嘩を。金がいるなら強盗を。制裁のためなら人殺しでも。この命はマイキーのために使うことを三途は誓っていた。
     そしてそのいくつかがローリスクで済んだのは、ひとえに九井のおかげであった。この男が一人いるだけで金が集まり、選択肢が宇宙のように広がり、それがまわりまわってマイキーという月を輝かせる。
     犯罪行為はリスクが高い。捕まって年少送りにでもなればマイキーへの忠義を果たせなくなる。その点九井は人を使うのが上手く、また抜け道を熟知していた。逮捕者が出てもそれは末端のチンピラ。弱みを握った身代わり。そいつらも少年法のおかげで大した罪に問われず、数か月長くても数年で娑婆に出てくる。

     ──イザナがコイツを欲しがるわけだ。

     みるみるうちに増えていく数字を眺めていると、三途は時折過去を思い出す。
     肝心のマイキーは金自体にあまり興味はなさそうだったが、有り余る資金のおかげで関東卍會はすぐに東京でデカいチームになった。梵やら六波羅単代やらと目障りなチームもあるが、東京を制するのはマイキー率いる関東卍會。これはもう〝決まっていること〟だ。

    「だからオマエが壊れると、オレは困んだよ」
    「……は?」
     九井と二人きりになるのは久々だった。三途はいつもマイキーのそばにいたし、九井は一人で行動することを好んだ。電話やメールで事足りていたのもあれば、二人になったとしても連絡事項以外に話すこともなかった。
     それなのに三途が九井に声をかけたのは、久し振りにまともに見た九井の顔があまりにもうつろに見えたからだ。廃墟は大抵殺伐としていて色もなく静かだが、九井はその廃墟と同化しているみたいだった。その感覚は日を追うごとに増していて、なんとなく、そろそろだな、と思った。

     一年前、九井を関東卍會に勧誘したのは三途の独断だった。これからの関東卍會に必要なものを考えた時、真っ先に思い浮かんだのが九井だった。
     だが九井を引き入れたのは「金を生み出す力」のためだけじゃない。それ以上に三途が買っていたのは、九井の中にある「王への忠誠心」だった。

     乾青宗。九井の王。武藤に「イザナが九井をほしがっているが、九井は乾の言うことしか聞かねえ」と聞いた時から、三途は九井に親近感に近いものを感じていた。
     九井は乾を守るために天竺へ入り、東卍に未来はないと悟ってからは乾の天竺幹部入りをイザナに懇願した。そのためならなんでも言うことを聞くと膝をついた。結果は散々だったようだが、それからも九井の乾への忠誠心は変わらない。
     九井と個人的な話をすることはないが、乾にまともな道を歩ませるためにあえて手を切ったのを知っている。例のバイク屋の付近で問題を起こさないよう手回ししているのを知っている。
     それはマイキーが望んだひとつでもあったから結果的に不自然な行為ではなかったが、三途は昔の九井をわずかに知っていた。
    「だってオマエ、今なんのために生きてんの? 毎日毎日、つまんなそうに息してよ」
    「……」
     九井が静かに瞬きをする。三途に突然ぶしつけな言葉を投げつけられても、九井はやはりつまらなそうな顔のままだった。
     どうでもいいのだろう。三途に何を言われようが、どう思われようが。
     三途は九井の笑った顔を見たことがない。いいや正確には、前に……東京卍會で、九井と乾が壱番隊の下についていた頃。短い間で見かけたのは数回程度だが、見かけるたびに九井は乾の横で笑っていた。
     声を上げて笑ったりだとか、バカな話で爆笑しているわけじゃない。ただ隣にいるだけでそこには感情があった。その感情が喜怒哀楽のどれであっても、そのどれでもなかったとしても。乾のそばにいるというだけで、九井の中には確かに感情が生まれていたのだ。
     でも今は違う。今の九井はなにをしていても色が見えない。ふらりとアジトに現れては金を生み出して消え、必要な時に必要なことだけをし時折抗争の場に来て……まるで八つ当たりのように、地面に転がる雑魚の頭を踏み荒らす。抗争の場に来る九井はいつもいらだっていた。
     そして関東卍會に入ってすぐの頃、「単車は乗らねえんだ」と三途の後ろに乗ったと思ったら「落ち着かねえ」と言って次の日車を買った。免許を持ってるというだけの適当な下っ端を運転手に、九井はその時から今も一人車で移動している。その時三途は、九井がいつも乾の後ろに乗っていたことを思い出した。
    「どれもこれも、乾を思い出すからだろ?」
    「黙れ」
     その一連の残像を三途が揶揄すれば、九井はようやく感情を見せた。額にピキッと青白い筋が立ち、いつも涼しげにすかしている瞳が暗い色を持って三途を睨みつけてる。
     ああ、九井。そんな顔ができんなら、いつもそうしてろよ。
    「オレはオマエらの望み通りにやってるだろうが。関係ねえことに立ち入るな」
    「はははははっ!」
     三途は堪えきれずに笑った。長い髪が前後に揺れ、もう隠すこともなくなった口もとの古傷に指先を触れる。
    「──わかるぜ九井。オレは今が一番楽しいからな」
    「あ?」
    「今はオレのすること全部がマイキーのためになる。以前のオレはマイキーから遠すぎた」
     三途は息を吸い、吐き出した。口角が自然と上がり、これ以上ないくらい愉快な気持ちになる。
    「オレはこれでもオマエに感謝してるんだぜ? オマエの乾がドラケンと呑気にバイク屋なんかやってくれてるおかげで、オレはマイキーの側近になれたんだからな」
     自分でもわかるくらいに浮ついた声だった。心臓がどくどくと脈を打ち、ものすごい勢いで管の中の血が激流しているのを感じる。白い頬が紅潮し、瞳は恍惚に輝いていた。
     ずっとだ。関東卍會がはじまってからずっと、三途は幸せの絶頂にいる。毎日毎日、目を開けたまま夢を見ているような感覚だった。
     この広い空を自由に飛び、服を着たまま海の中を悠々と泳ぐ。体が軽くて心がふわふわと浮かんで、世界が極彩色に輝いて仕方がない。マイキーの一番近くにいられる毎日は、三途をひどく夢見心地な気分にさせていた。
     だからこそわかるのだ。王を失った臣下が、毎日心から色を失くしていくのを。
     色を失くした心が、どうなっていくのかも。
    「……三途」
     九井は訝しげに眉を顰めた。
    「さっきから何が言いたい? 最初はイヌピーをこっちに呼び戻させるために煽ってんのかと思ったが……その理屈じゃあ、ずっとバイク屋をさせてろって言ってるように聞こえるぞ」
    「……あ? そうだよ」
     目に違和感を覚えて指で擦る。離した指先には色素の薄い睫毛が付着していて、三途はそれにふっと息を吹きかけた。一瞬で見失ったそれに当然興味もなく、三途は肩を竦め手首を反す。
    「龍宮寺堅は面倒見がよくて情に厚い男だ。相方を一人取り残すような真似はしねえ」
     ──だからこそ邪魔だった、と心の中で続ける。
    「だからオマエは、これからもあのイヌに首輪をつけてバイク屋に繋げとけって言ってんだよ」
     廃墟に入る風はいつも冷たい。独特な匂いが嗅覚を鈍らせて、九井はアジトのひとつであるこの廃墟があまり好きではないようだった。九井はビルの一室を借りそこで事務仕事をしていて三途も何度か行ったことがあるが、そこよりはこちらのほうが居心地がいいといつも思う。
    「ほかになんにもねえなら、それを糧に生きろ。オマエがそうするなら、オレもあの二人の安全を保障する。だから消えたり死んだりするんじゃねえぞ」
     九井が目を細める。なにかを堪えるようにぐっと全身に力を入れ、九井はわずかにうつむいた。
    「……言われなくてもだ」
     風が吹く。そう呟いた九井の声にはわずかに色が見えた。
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