極西の王子と極東の従者 ブリタニア王国第四王子の俺、アーサー・カークランドにはたった一人のメイドがいる。そのメイドは東洋の島国出身で、元暗殺者。俺より八歳も年上だけどとっても可愛い。そんなメイドの名前は本田菊。俺の大切な人で、大好きな人だ。
出会いは俺がまだ七歳の時だ。菊は十五歳で、父親が俺につけてくれた。俺が妾の母親の子だった所為かそれまでずっと乳母にお世話をしてもらっていた。だから、たった一人の菊を貰った時は嬉しかった。
「初めまして、アーサー様。私は菊です」
「はじめましてっきく」
この時は十五歳の菊がとても大人に見えた。可愛くて美して凛としてて……。俺は一目見ただけで大好きになっていた。
「きくぅ……ぐすっ」
「アーサー様!?どうなされたんですか、その傷!」
「転んだ……」
「急いで部屋にお連れします。早く消毒しないとっ」
「うん」
俺が転んだ時、いつも丁寧に消毒してくれる優しい菊。
俺が夜、怖い夢を見たときに安心するまで傍にいてくれる菊。
兄貴達から守ってくれた菊。
でも、俺は九歳の時、見てしまったんだ。俺の大事な菊が兄貴たちに凌辱されている所を。
「……っあ、んダメですっ……やっ……!」
「そうだなあ。でもお前は所詮アーサーのメイドだ。まあ、顔は綺麗で可愛いし?女みたいだしな。お前」
「あっやぅ、んッ……」
この時、俺は無性に腹が立った。だけど……今行ったら駄目だ。だってあそこには菊がいる。俺が菊の身体も精神も守らないといけない。俺は菊だけの王子でありたかった。
「きく」
「はい、アーサー様。どうなさいましたか?」
「きく、きくは俺が守るからな。だから……」
「アーサー様」
「俺、きくが兄貴達に犯されていたって昨日知ってしまったんだ」
「!まさか、昨日の晩……」
「うん、トイレに行こうと思って……そしたら兄貴の部屋が明るかったんだ。それで……。きく、つらい事があったら俺に言えよ。だから、一人で悩んじゃダメだ!」
「はい、有難うございます。アーサー様」
菊は静かに泣いていた。嬉しさのあまりに。その姿はどの妖精よりも美しかった。
それから、菊はよく俺に相談をするようになった。そのお陰か、兄貴達が俺達、特に菊にちょっかいを出すことは無くなった。菊は元暗殺者だし。その気になれば、兄貴達なんか一発で殺せるだろう。
そうして八年の月日が流れた。俺は十七歳で菊は二十五歳。あの時、俺は菊を見上げるくらいしか身長が無かったのに、もう俺の方が十センチも高い。俺は急に背が伸び、顔も少し逞しくなった……と思う。相変わらず菊は可愛いし、美しいし、八年前と容姿が変わっていない。凄いと思う。
そして八年と言えば俺たちの関係も少し変わった。王子とメイドという立場を超え、恋人同士になった。俺が一年前、ダメ元で告白したら菊も実は俺の事が好きだったというミラクルが起きた。
でも、まあ、キスとハグ止まりなんだけどな……。菊が、「アーサー様が成人するまでダメです」って言っていて。俺が菊を抱くから別にいいと思うのに。はぁ、菊と結婚したいな。結婚。
「菊と結婚したい」
「えっ」
「あっ」
しまった。思ってることが口に出してしまった。菊の様子は……あれ?まんざらでもない顔してる。
「あの……、本当ですか?」
「本当に決まってるだろっ」
「国的に出来ますか?」
「出来るぞ、一応」
「アーサー様はお見合いの話、ありますか?」
「親父が何となく俺達の関係を知っててな。親父、お前が大好きで結構歓迎されている」
「そ、そうですか……」
「で?俺への返事?」
「あ、はい……私もアーサー様と結婚したいです」
「ありがとう、菊。俺がずっと守ってやるからな」
「……っはいっ!」
こうして一人ぼっちだった王子様と一人ぼっちだった従者は結ばれたのでした。おしまい。
「っていう話はどうだ?」
「一生やってろ。これだから島国は」