ドSな先生の落とし方 暑い暑い夏。俺は中3で、受験生だ。
なのに、この暑い中では、勉強をやる気が起きないし。
取り敢えず、出来た宿題を担任に渡さないといけない。
……あのドSな担任に。
「本田先生ー、いますかぁー」
「……」
返事が無い。だが、確実に本田は居る。
「本田せーんせーい!」
「……何ですか。もう少し静かにしてくれませんか」
ほら、やはり居た。
「何で、こんな暑い時に貴方に会わないといけないのですか。新手の嫌がらせですか。帰って下さい」
「ちょっ、俺は宿題を出しに……!」
「ああ。そうですか、カークランドさん。では、少しコーヒーを買って来て下さいな。今、忙しいので」
「嫌だ」
「お金は渡しますから」
「そういうことじゃなくて!」
明らかに本田は忙しそうに見えない。彼はいつもそうだ。そして、俺は本田の下の名前を知らない。
「な・ん・で!俺が先生の使い魔にならないといけないんですか!」
「私の下僕ですから」
ああ、まただ本田は。中1の時もこうだった。
「なぁ、アーサー」
「……何だフランシス」
「俺達の担任、誰だろうね?セクシーな女人がいいなぁ」
「あぁ、そうだな」
そんな感じで、適当に俺は相槌を打っていた。そりゃあ、男だし、女がいいに決まっている。
と、思っていたら、俺達のクラスの先生を紹介するみたいだ。
「私が1年Bの担任、本田です」
その見た目に反して結構声が低い。男みたいだ。ただ、本田は男性にしては華奢。サラサラの黒髪に、瞳は黒真珠の様だ。
「……あの?本田せんせー、下の名前は何ですかー?」
と、言ったのはフランシス、ではなく俺。
「教えません」
本田はきっぱりと言った。この場で言うのもどうかと思ったが、どうしても俺は聞きたかったのだ。それに皆、そう思っていると思うし。
「血液型は?」
「教えません」
「誕生日は?」
「教えません」
「何でですか」
「気に入りました。貴方は今日から私の下僕です」
「はぁ!?」
……みたいな回想は置いておくとして(良くない)。この三年間、本田に振り回されていたなぁと思う。だが、本田の強化の社会は、驚くくらいに分かりやすい。それがとても悔しい。
本田は、結婚しないのだろうか。話からして、30歳は超えていると思うが。まあ、俺が嫁に貰うからいいか。
「本田先生、下の名前、何ですか」
「教えません」
あの時と同じ回答。
「ヒントは?」
「あげません」
無いのかよ。
「……女みたいな名前?」
「……っそんな訳、無いでしょう」
本田の眉が少し動いた。成程、女みたいな名前か。
「花の名前?」
「どうでしょう」
教えてくれたらいいのに。
「……菊」
「……っ!何で私の名前……っ!」
いつものどSで冷たい本田ではなく、顔が赤くなり取り乱している。可愛い。
「菊……か。良いんじゃねえの?」
「恥ずかしいでしょう!こんな女みたいな名前!」
「菊……先生?」
「名前で呼ばないで下さい。カークランドさん」
「ドSな菊も良いけど、こっちの可愛い菊も好きだなぁ、俺は」
「敬語を使いなさい」
今の菊は、可愛い。もしかしたらこれが本当の菊の姿なのかもしれない。俺はチュッとわざと音を立ててキスしてやった。
「~~っ!」
ペロッと舌を出す。狼みたいだ、俺。
「卒業するまで菊先生の下僕ですから」
「……いいでしょう」
冷静さを戻した菊が言う。
「貴方は私の下僕です」
「えぇ、勿論」