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    ruri

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    昔書いたやつ⑰

    #朝菊
    chaoChrysanthemum

    生まれ変わってもいつかまた。昔、ある国の話。アーサーという美形のヴァンパイアがいた。余りの美しさに、アーサーが住んでいた町の女達は自らアーサーに己の血を与えていた。
     その事が深刻化し、困った町の住民達はアーサーに一人の人間を生贄として捧げた。その人間の名前は菊。菊は男性なのだが、女の服を着せたれた。その姿はどう見ても女にしか見えなかった。そして、菊は不治の病を患っていた。そう、菊は厄介払いの存在だったのだ。
     菊は、精神的にも肉体的にも重い足取りで、アーサーの居る所に向かった。

    「へえ、お前が菊か」
     振り返ると、アーサーがいた。菊はアーサーの美しい容姿に見惚れてしまった。白い肌、ブロンドの髪、エメラルドの瞳、そしてそれらを引き出させる特徴的な眉毛。女性が彼に血を差し出すことも仕方ない容姿だ。
    「貴方が、ヴァンパイアのアーサーさんですか」
    「ああ、そうだ」
    「それで、ですね……」
    「知ってるぜ。お前が俺の生贄ということは」
    「知っていましたか」
    「ま、そんなことはどうでもいい。菊、首を出せ」
    「こう……ですか?」
     菊は着ていた服のボタンを外し、首を見せた。
    「そう、そんな感じだ。じゃ、血を頂くぜ」
     カプッと噛み、そこからアーサーの牙が、菊の細い首筋に刺さった。
    「……っ!」
     アーサーは、菊の血を美味しそうに飲んでいく。
    「あ……っ」
     そして、暫くしてアーサーが飲み終えた。「食事」に満足したらしい。
    「はぁ……っ」
    「菊、お前、男なんだな」
    「!どこで気づいて……」
    「血を飲めば分かったさ。それに菊、お前、病に掛かっているんだろ?」
    「そこまで分かり、ましたか……」
     血が足りなくなり、菊は眩暈に襲われる。本当に体力が無いなあと、朦朧とする意識の中で菊は思った。
    「成程。だから町人達は菊を差し出したんだな。菊の病気が移って俺が死ねばいいと。だが、計算が正しくないな。人間の病気はヴァンパイアには効かない」
    「……」
    「菊、どうかしたのか」
    「いえ……少し、眩暈が」
    「あぁ。菊の血が美味し過ぎて、飲み過ぎてしまったみたいだな」
    「え……?」
    「菊の血じゃないと、満足しないみたいだ」
    「そう、ですか……」
     青白い顔の菊は精一杯答えた。それを見たアーサーは、
    「菊、死ぬなよ」
    と言った。
    「どう、でしょう」
     それから、アーサーは菊の血だけを飲むようになった。菊の甘い甘い血を。
    「アーサーさ……っ飲み、過ぎ……です……っ」
    「甘いな、菊の血は……」
    「~~っ」
    「菊……」
    「あーさー、さ……」
     吸う顔から、いきなりいつもの顔になったアーサーは、菊を目の前にして涙目になりながら言った。
    「菊、死なないでくれ。一人ぼっちはもう、嫌なんだ。だから、死ぬ時は、一緒だからな……」
    「はい、私も分かります。私も一人ぼっち……でしたから」
     息が苦しい。もう、そう長くないだろう、と菊は思った。この愛すべき人と一緒にいたいのに。
    「菊、大丈夫か……?熱があるし……。ごめん、俺が無理させたな……」
     泣きながら謝るアーサーは、どこか子供のようにも思えた。
    「大丈夫ですよ……アーサーさん……」
     霞む意識の中で菊は言った。

     だが、菊は確実に少しずつ衰弱していった。
    「菊、俺は血を飲むのを我慢したらいいのかなぁ?」
    「ダメ、です……。アーサーさん。私は元々長くない命でしたから」
    「良くないさ……ばかぁ……っ」
     お互い、自分が死んでもいいから、相手は生きて欲しい。一人ぼっちだった二人が本当の愛を知り、一緒にいたいと思う相手が出来た。
     これが、最初で最後の恋。どうしようもなく、好きになる。互いの優しさを知ってしまったから。

    「菊、菊っ!置いていくなって、言ったのに……っ」
     ある晴れた日の午後、菊はこの世を去った。静かに、アーサー一人にだけに見守られて。
    「菊……、俺達、もっと早く知り合っていたら……。もし、俺が人間だったら、菊がヴァンパイアだったら……良かったのにな……」
     アーサーは菊が生き返ることは無いと分かっていてもなお、菊に話しかけた。
    「菊、俺も、もう少しで、菊の所に行くから。だから、来世で会えるといいな……」
     アーサーは毎日、毎日、菊に話しかけた。
    「俺達、二人とも人間で、そしたら恋人になろうな……絶対、だからな……」
     そして菊の死から数日経って、アーサーは菊の後を追うように――……。

     何百年経ったある年に、アーサーと菊はもう一度出会う。そして今度こそ、一緒に生きていこうと二人は永遠の誓いをする。それはあの日、果たせなかった約束を守るために。
    「久しぶり、菊」
    「こちらこそ、久しぶりです。アーサーさん」
    「今度こそ、一緒にな」
    「えぇ、勿論です」

     二人はまた、来世でも――……。
     運命ならば二人はまた巡り合うだろう。

    『ずっと、一緒だからな――……』
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