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    im1208nm

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    im1208nm

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    『覚悟があるのなら』リハバージョン。
    分隊長時代に集めた巨人の資料を片付けることにした団長ハさんの話。
    全年齢です。特に癖はない普通のリハ話だと思いますが、他の2作がポイピクなので、これもポイピクに。

    覚悟があるのなら(リハ) 無性に、寂しかった。
     虚しいと言った方が正しいだろうか。
     あるいは悲しいのかもしれない。

     分隊長時代に集めに集めた巨人に関する物品。未練がましく手元に置いていたそれらを、私は今日、物置部屋に仕舞い込むことに決めた。

     団長に就任し、分隊長の執務室から団長室に引っ越しをする時、大方の物は片付けた。しかし、どうしても手元に置きたい物品が、大きな木箱二つ分、残った。
     何かと来客の多い団長室に置くのは憚られたので、私はそれを寝室の片隅に置いた。
     寝る前に少しくらい、眺める時間が取れるだろう。
     そう思っていた。
     しかし、それが希望的観測だったことを思い知るのに、時間はかからなかった。

     近頃は、一向に開けられることのない木箱が視界に入る度、悲しみとも怒りとも焦りともつかない、えもいわれぬ気持ちになるようになった。
     だから、奇跡的にまる一日の休みが取れた今日、私はそれらを、目に触れない所へと追いやることにしたのだった。

     大きな台車にどうにかこうにか木箱を乗せて、物置部屋まで運んだ。
     階段を下りるのに、酷く骨が折れた。

     物置部屋の据わりのいい位置まで、木箱を引きずって置いた。
     数々の物品に紛れて、私の木箱が鎮座する。
     寂しく埃っぽい物置部屋の中で、この子は物に紛れて埋もれていくのか。
     そう思うと、溜め息が少し震えた。
     木箱の蓋を、そっと撫でる。
     また、迎えに来てやれる日が、来るだろうか。
     きっと来ないだろう。
     そんなことを思う。

    ──駄目だ。去ろう。去らねば。

     そう思った。
     私は頭を振ると木箱に背を向け、のろのろと扉まで歩を進めた。
     そしてドアノブに手をかけようと、右手を持ち上げたところで、動けなくなった。

     ノブを回して、扉を開けて、部屋を出る。
     部屋に戻って、酒でも飲もう。
     まだ昼日中だが、今日は休みだ。許されるだろう。
     そう思っても、動けない。
     背後から、私を引き止める気配を感じた。
     重く、強く、寂しい気配だ。

    「ああ、もう、畜生」

     私はそう呟くと振り返り、木箱に歩み寄った。

    「最後だ。これで最後」

     自分に言い聞かせるように声に出してそう言ってから、どかりと腰を下ろして蓋を開ける。
     一番上には、分厚くボロボロのノートが入っていた。
     壁外調査の度に巨人の情報を収集し、手帳にまとめ、それを清書したノートだ。
     手に取り、捲る。

    『ツガイの巨人』『歌う巨人』『片足飛びをする巨人』『木に体当たりする巨人』

     全ての巨人を、鮮明に覚えている。
     彼らに出会った日が、まるで昨日のことのようだ。
     この巨人は、ミケが討伐した。
     この子は、ゲルガーとリーネが。
     この子はスケッチに気を取られたモブリットを食べかけたんだ。あれは危なかった。
     そんなことを、一つ一つ思い出す。
     皆がまだ、生きていた。

     涙が一粒ノートに落ちて、じわじわとインクが滲んだ。
     ああ、不味い。
     慌てて袖で拭き取ると、滲みは更に広がって酷いことになった。

    「──何だよ、もう」

     そう一人ごちて、私は溜め息をついた。

     その時、がちゃりと扉が開く音がした。
     驚いて振り返ると、そこには何冊かの本を抱えたリヴァイの姿があった。

    「何してる」

     そう言いながら、リヴァイは奥にあった箱に歩み寄り、蓋を開けて本を仕舞った。

    「......その箱は、エルヴィンのだね」

     ここは主に、幹部が集めた資料や本が置かれている。エルヴィンの物も、ここにある。

    「本を借りてた」
    「そう」

     泣き濡れた私の顔を見て何を思ったのか、リヴァイが目を細める。
     ふつふつと羞恥心が込み上げて、私は顔を伏せた。

    「......その箱はお前のか」

     リヴァイが顎をしゃくって、私の箱を示す。

    「ずっと、寝室に置いてたやつさ。巨人の資料とか、色々入ってる」
    「......仕舞うのか」
    「うん。見る時間、もう無いしね」

     私は手に持ったノートの文字列を、人差し指でなぞった。

    「最近は、この箱が目に入ると、辛くなってきてしまった。だから」

     リヴァイは少し俯いて、小さな声で「そうか」と言った。
     そして、私に歩み寄ると、私の手からひょいとノートを取り上げて捲った。

    「懐かしいな」
    「だろう?忘れられない子ばかりだ。今思えば、巨人にされる前の、人だった頃の習慣や癖が、巨人の個性を形作っていたんだろうね。いわば人だった頃の残り香だ。そう思うと興味深いのが、そのツガイの巨人だ。覚えてるかい?君と一緒に──」

     リヴァイは私の頭に手をぽんと乗せると、ノートを閉じて箱に仕舞った。そして蓋を閉じると、ひょいと箱を抱え上げた。私は数センチ持ち上げるのでいっぱいいっぱいだった箱が、まるで空箱である。
     リヴァイはそれを台車に乗せると、「こっちもか」と聞きながら、もう一箱も持ち上げた。

    「待てリヴァイ。一体何を」
    「俺の部屋に置く」

     リヴァイの言葉に、私は思わず、目を見開いた。
     そんな私をよそに、リヴァイはもう一箱を台車に置くと、台車の押し手を持って「行くぞ」と言った。

    「いや、でも、邪魔になるよ」
    「俺の部屋はお前の部屋ほど物がねえ。角に置いときゃ、邪魔にならねえ」
    「埃っぽいよ」
    「掃除する」

     また涙が、じわじわと溢れてくる。

    「......入り浸ってしまうかもしれないよ、君の部屋に」
    「別にいい」
    「夜だって泊まり込むかもしれないよ」

     リヴァイは部屋の扉を開けると、台車を押して私に背を向けた。

    「......別にいい。覚悟があるならな」

     そう言ったリヴァイの頬は、いつもより少し柔らかく緩んでいるような気がした。

    「......何の覚悟だよ。リヴァイのエッチ」

     そう呟くと、私はリヴァイの背中を追って、物置部屋を後にした。
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