ラインハルトは外出しようとして玄関のドアを開け、視界にうつった光景に目を疑った。大量のかぼちゃが並べられているからである。思わず開けたばかりのドアを閉めて、もう一度開けた。しかし大量のかぼちゃがそれで消えるわけもない。
外出するにしろ、外出をあきらめるにしろ、もはやこれからの予定はこの大量のかぼちゃを片づけることで埋められるだろう。ため息をついて、髪をくしゃりとかき乱す。
とはいえ、目をそらしていてもなにも進まない。片づけを始めようと、落としていた視線を上げたその時。ふと玄関に置いてある鏡に目がいった。鏡越しに黒い影のような男と目があう。振り返りながら後ずさると、目の前に男がひとり立っている。
にこにこと機嫌が良さそうに彼はいった。
「おや、偶然ですね。お会いできると思っていなかったのですが……」
「本来、出かけるところだった」
「ええ、そのようですね。しかしこれでは出かけるのは難しいでしょう。片づけをお手伝いしましょうか。ああ、そうだ。ちょうど時期ですし、ジャックオーランタンでも作っても良いかもしれませんね」
なんの反応もしていないというのに、男はひとりで楽しそうにしゃべり続けて、妙に洗練されたしぐさでかぼちゃを拾い上げ、当然のようにラインハルトの家にあがった。
「招いていないんだが」
「ふふ、吸血鬼ではないので」