がっ、と勢いよく衝突した。
何と何がといえば、水銀の蛇と黄金の獣が、だ。
「卿……」
蛇の方は口元を押さえて若干前かがみになりつつうめいているが、獣の方は同じく口元を押さえてはいるものの、衝突したのもなんのその、特に姿勢を崩すこともなく、なんとも生ぬるい笑みで蛇を見守っている。
獣がじんわりと痛む己が口端を指先でなぞれば、赤く潤った唇からなお鮮やかな紅が引き延ばされた。
獣よりも重傷な蛇が、歯が痛い……とぼやいた。
「であろうよ、今の勢いではな」
いや私も別に口づけのひとつもできないわけではないが、ただその、そう、距離感を間違えて。埒外の、美しいものを見るとき、ひとは感覚が狂うものでしょう。ええ、ですから、そういう。
つらつらと並べ立てる蛇に、獣はただ黙して微笑んだ。
なにを口走っているのか理解しているかどうかは分からないが、だれだとて変な薮はつつきたくないものである。