「……友人?」
虚をつかれた声だ。ゆっくりと瞬いて、その男はそれ以上の反応を見せずに、ただ微笑んだ。
おかしな男だ。
ラインハルト・ハイドリヒの近辺をうろちょろしているという噂の魔術師に対する第一印象はそれだった。
表情は微笑みのかたちに整えられているが、星々浮かぶ夜空のごとき瞳は異様に冷えていた。
ちょうど用事があったために、見覚えのある金髪を見つけて呼び止めたのが発端だった。
あたりさわりのない会話の間、魔術師はラインハルト・ハイドリヒのそばでにこにこしていたが、ラインハルトがついでと言った様子で互いを互いに紹介したあたりから、妙な圧を出すようになった。
ラインハルトがいたときはまだいいが、ラインハルトが部下に呼ばれて、一時的に離れた途端に自身に突き刺さる視線の不躾さがあがった。
じろじろと、上位者がちいさきものを見るような、遥か高みからの視線だ。身長はそれほど差がないというのに、不思議な感覚だった。
いきなり態度がでかくなったな、などと内心渋面をつくる。
「時に、頂きに存在するものは孤独だと思わないか」
は? と思わず声に出して言う。
いきなり妙なことを言い出したな、この男。
問いかけのような言い方ではあるが、異論は許さない語気であった。
「誰も同じ目線でものを見ない、誰も同じ心境でものを聞かない。そのこころのうちを理解できない」
誰のはなしをしているのか、なんとなくは分かる。魔術師の瞳は輝ける黄金の髪を追いかけていた。
まるで自分なら理解できるとでも言いたげな口ぶりである。いささか不快だ。
こころの中でのみ思ったはずのことなのに、それを耳ざとく聞きつけたように、魔術師が優越感を口元ににじませた。
「いやはや、私などではとてもとても、まことに理解に到れるほどではないよ」
え~、やっぱそう思う~? 私とハイドリヒ、唯一無二の友人に見えちゃう~? みたいな副音声が聞こえた気がした。