何もかもがうまくいっていたはずだった。女神の時代の到来、さりとて友をなくすこともなく、子もまたおなじように。
だというのに、女神の治世からなんというのもがうまれたのか。うまれてしまったのか。
時が永遠に引き延ばされたかのようだった。みずからの手が届かぬなどと言う、望んだことが叶わないなどという、久しい感覚にあらゆる感覚が引き延ばされた。そのさきに起こることを、思考はあっさりと予想し、そして体がその未来に拒否反応をしめしている。
分かっている。そうされたとて、本人は気にはしないのだろう。私が許すかどうかはまた別として。それもまた一興と笑えてしまう男だ。なにもかもを愛し、おのれを傷つけるものだとていとしい。そういう男だった。
踏みつぶされる瞬間、敵に背を向けてまで私を見た黄金の瞳は、いつもどおりに全き愛に満ちていた。その瞳がなにかを伝えようと、私をじっと見ていた。迫る危機など気にすることもなく。
白い軍服に包まれた背をしならせ、片手には聖槍を。投擲の構えだ。聖槍の穂先がどこを向いているのかに気が付いて、柄にもなくうろたえた。
なぜ今女神を狙うのか。ふたつの黄金に迫る危機、どちらに対処するべきなのか、一瞬でもまごついた時点で勝敗は決していた。いやもっと前の段階でこの敗北は動かしようのないものになっていたのかもしれないが。
投擲された聖槍はあやまたず女神の心臓を貫き、そして聖槍を投げた黄金も無事ではすまなかった。
踏みつぶされる輝きに、理性が焼き切れる。思わず怒鳴りつけながら踏みかけだしたところで、背後から襟首をつかまれた。引きずられて首が締まる。女神のそばにいたはずの息子だった。
血まみれの座に投げつけられ、そうしてやっと多少の理性をかきあつめた私はすべてを巻き戻した。
座に背をあずけたまま、ぼんやりとすべてを眺める。ふつふつとこみあげるものに従って、ばんと軽く手のひらを近くのなにかに叩きつけた。
なんと無様な敗北か!
苛立たし気に振り回された腕にあたって、ぱちんぱちんといのちがつぶれていく音がする。
みじめさにはらわたが煮えくり返りそうだった。がん、がんと何度も肘置きにこぶしをたたきつけるたび、世界のかたちがゆがんだ。
いいや、いいや、こんなことをしている場合ではない。一度深く頭を垂れる。長い髪が垂れ下がって、影が色濃く落ち、表情を深い闇に隠した。