ろうそくの火が唐突に揺れた。どこからか忍び込んできた風が揺らしたのだろう。壁に伸びる陰影が異様に踊る。
手慰みに読んでいた聖書をぱたりと閉じて、ラインハルトは小さく笑った。
ささやかな光を頼りに本を読むのは、単にその雰囲気が気に入っているのもあるが、明るすぎると訴えてきたのがいるのも原因のひとつだ。
「やあ、影。今日も来たのか」
いつのまにかろうそくの光が届かない暗闇に、影が立っている。
影の輪郭は曖昧で、けれど確かにそこにいた。
ゆるりと伸びた影がラインハルトに触れて、そのカソックの袖などから忍びこむ。
他人が見たら、さながらホラー映画のワンシーンだろうが、ラインハルトにはこれはどちらかというと甘えに由来するものだと分かっていた。
肌の上を這いずり回る影に好きにさせておけば、ずるずると襟の下から首にまで登ってくる。
さらにと伸びあがった影が顎を開けるように広がって、同時に風もないというのにろうそくの火が消えた。
後に残るのは闇ばかり。