Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    x_pistols

    @x_pistols

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    x_pistols

    ☆quiet follow

    テリミレの日お祝い短文。なんらかのお祝いをするだけのテリミレです。

    【テリミレ】ディナーのあと「今日は、お祝いがあるから」
    出掛ける直前にかけられた姉の言葉に、嘘はなかった。玄関のドアを開けた瞬間、漂ってくる数々の料理の香りがいつもより何重にも濃厚だ。
    「凄いご馳走だな」
    剣を下ろし、帽子を取りながら、テリーは食卓に所狭しと並べられた料理の数々を見て呟いた。
    キッチンで鍋の様子を見ていたミレーユが、振り返ってにっこり笑う。
    「そうよ。腕によりをかけたわ」
    姉とキッチンに並んで手を洗い、手伝うことはないかと見回してみる。しかし既に、多くのご馳走が食卓に供されたあとだった。
    「座って。お腹は空いてるわよね?」
    「ああ」
    促されるままに席に着くと、手の込んだ料理の数々に改めて目を見張った。肉汁滴るチキンソテー、丹念に作られたであろうポタージュ、彩りのよいサラダ、焼きたてのパン、クラッカーに乗った数々の細かいアペリティフ。
    夢占い師としての仕事のあとで、これだけの品を揃えるのはさぞ骨が折れただろう。
    「お酒も用意したの」
    彼女の細腕が、上品なワインボトルを抱えている。ミレーユの華奢な指では手こずりそうなそれを、テリーは受け取って開栓した。
    二人分のワイングラスに、真紅の液体が踊るように注がれていく。
    「乾杯しましょ」
    彼女が、音も立てずにワイングラスを持ち上げる。二人同時に、静かにグラスを掲げた。
    「私たちの……お祝いの日に」
    優雅にグラスを傾ける彼女の所作に、テリーは思わず見入った。絹のような金髪を軽く耳にかけ、シックな濃紺のワンピース……彼女が着れば、ドレスのように華やかに麗しい……を纏った彼女の姿は、たたひたすらに眩しい。
    「……なんの祝いだ?」
    出掛けたときから感じていた疑問を、テリーは首を傾げて口にした。二人が心結ばれたあの記念日ではない。どちらかの誕生日でもない。共に暮らし始めた記念日でも、共に世界を救った日でもないはずだ。
    彼女はごく静かにワインを嚥下すると、テリーと同じように小さく首を傾げた。
    「さあ……?なんのお祝いかしら」
    「おいおい」
    今初めてその疑問を認知したかのような様子に、思わず笑みが溢れる。
    「何かの記念日じゃないのか?」
    「いいえ?」
    「誕生日でもないし……オレが何か忘れてるだけかな」
    「違うわ」
    「それじゃ、特になんの日でもないのに……こんなご馳走を?」
    「ええ」
    湯気の立ち昇る、数々の料理はどれも丹念に作られているのが分かった。決して贅沢ではないが、見るからに食欲をそそる品の数々。
    「どうぞ、召し上がれ」
    「いただきます」
    アペリティフを手に取り、一口で頬張った。途端に、素材と調味料の優しいハーモニーが口いっぱいに広がる。決して変わった味わいではないが、ほっと落ち着く。彼女らしい味付けだ。
    「……うまい」
    「よかった」
    彼女もまた、ひらりと手を伸ばし、アペリティフをひとつ口に含んだ。艶やかな唇が、吸い込むように品物を食む。
    「……正直、驚いたよ」
    眩いばかりの彼女の装いに、いつもよりずっと手の込んだ食事。いつもは、質素ながら美味しい食事を二人で囲むだけでも楽しい。それだけに、今夜のご馳走はサプライズプレゼントのようだった。
    「なんの日でもないんだけれど……そうね、強いて言うなら……私たちの幸せと健康を願う日、かしら?」
    ミレーユが、流麗に微笑む。品の良い彼女の面差しに、テリーはいつも見惚れてしまう。もう、何度も何度も、毎日目にしている愛おしい顔立ちだというのに。
    「そうか……まあ、そういうのも悪くない。ありがとう」
    素直に謝辞を述べるのがちょっと気恥ずかしくて、テリーはくいっとワインを煽った。アルコールの暖かい刺激が、胸を満たす。
    「実は……ただ、あなたに早く帰ってきて欲しかっただけかもしれないわ」
    彼女はそう言うと、ちょっと照れたようにくすくす笑った。ほんのり色づいた頬が、美しく弧を描く唇が、伏せられた瞳が、心まで持っていかれそうなほど麗しい。
    それでは……ただ、自分の帰りを楽しみに、共に暮らしている自分に会うのを心待ちに……ただそれだけのために、小さな饗宴を催したというのか。長い時間をキッチンに立って、ただ弟の帰りを待ちながら。
    「……嬉しいよ」
    ぽつんと、呟くのが精一杯だった。愛おしい。抱き締めたい。口づけたい。胸中に溢れる優しい感情を必死に抑えつけて、目の前に広がる素敵な料理に目を注ぐ。
    愛し合うのは、ディナーのあとのお楽しみだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏😍😍😍🍷🍷🍷🙏✋🙏👏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works