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    2月13日
    お誕生日おめでとうございます!

    【クージィ】エーデルワイス父の店で、花を買った。息子が買い物に来たのは初めてであるアズゴアは一瞬戸惑い、それから何かを悟ったように優しく微笑んだ。
    イエローの花柱に、白く尖った花弁をつけた名も知らない花。闇の世界で彼女がつけている、腕の装飾に似ている。だからそれを選んだ。
    「これの花言葉は『初恋の感動』だそうだよ」
    父の、さりげない言葉が胸に溜まる。初恋の感動。雪のように白い花は丁寧にラッピングを施され、クリスの手に渡った。飾るリボンは、艶のあるスミレ色を選んだ。

    「なんだよ、急に呼び出しやがって」
    誰も開けたことがない扉が眠る森の中で、彼女は待ち合わせの時間ぴったりに立っていた。
    ゲームをしようとか、闇の世界に行こうとか、ダイナーに行こうとか、様々な理由で呼び出しては、彼女は律儀にやってくる。その日もいつものようにだぼだぼのジーンズを履いて、見慣れた白いシャツと着古したジャケットを着て、クリスがやってきたのを見るとほんの少しだけ頬を緩ませた。
    「はい、これ」
    「……は?」
    丁寧に包まれた、小さな花束を渡す。まるで、彼女が忘れた教科書を渡すときみたいに、何気なく。
    クリスの手の中にある白い花を認めたスージィは、丸く見開いた目を何度かぱちくりさせた。
    「なんだ、これ」
    「花だよ」
    「親父さんの店の余り物か?」
    「ううん。僕が選んで、買った。君にあげるために」
    「はあ……」
    彼女は、変な形の小鳥でも見たような顔で首を傾げている。スージィの胸元までぐいっと花束を押しやると、彼女はやっとそれを受け取った。
    「……これ、どうすればいいんだ?」
    「さあ……花瓶に水を入れて、挿しておけばいいんじゃないかな」
    「うちに花瓶なんかあるわけねぇだろ」
    「それは困ったなぁ」
    スージィは、にこりともしない。ただただ、状況が飲み込めずにぼんやりしているようだった。いつもくるくると変わる表情が、ちっとも動かない。
    ……やっぱり、おかしかったかな。スージィに、花を愛でる趣味があるとは思えない。それも、なんでもない日に、前触れなく花を贈るなんて。
    「……ふっ……へへへ……あは、あはははは!」
    突然、スージィは大声で笑い出した。額に手を当てて、仰け反って豪快に笑う彼女は、いつもの快活な姿と変わらない。
    「そ、そんな笑わなくたって」
    「いや!おかしいだろ!花?アタシに?贈り先間違えてんだろ!」
    盛大にツッコミを入れつつ、彼女はクリスの肩をバシバシ叩く。しかしもう片方の手では、小ぶりな花束の根本を優しく掴んでいた。
    「おふくろさんにやれって!ア、アタシなんかより、よっぽど似合うだろ!」
    からからと笑いながら、彼女はそっと花束を返そうとする。確かにママなら、なんの疑いもなく率直に喜んでくれるだろう。
    「嫌だ」
    「へ?」
    はっきりと言い切ったクリスの口振りに、スージィが少しだけ笑いを引っ込める。
    「これは君のために、君に似合うと思って、君に贈りたくて選んだんだ。他の誰にも、そんなことしない」
    「……はは……」
    スージィは、固まってしまった。自分の手元にある花束に目を落とし、黙っている。何かを言いあぐねて、口はぽかんと開いていた。
    「君に受け取って欲しいな。……ダメ?」
    彼女の目線が揺れる。白い可憐な花弁をじっと見詰めて、俯いて。紫色の薄い鱗に覆われた頬が、緩やかに紅潮していく。
    「……その……男から……花、もらうなんて……そんなの、まるで……」
    続きを聞く前に、クリスは彼女の大柄な体に抱きついた。急に、二人の体温が近くなる。
    「まるで、何?」
    「……う」
    どきどきと、心臓が高鳴っている。彼女の心音と重なる。
    スージィは、なんて言おうとしたのだろう。まるで、浮かれたカップルみたい?まるで、恋人同士みたい?まるで……自分が、花の似合う女の子みたい?
    「君に似合ってるよ。真っ白で、小さい、可愛い花」
    「…………」
    クリスの腕の中で、彼女はすっかり大人しい。スージィは何か言おうと息を吸い込み、言いかねて、ちょっとの間、息を止めていた。
    ざわ……と、木々のざわめきが吹き抜けていく。まだ冷たい風から、彼女を守るように腕を回した。スージィは、応えるようにクリスの背に手を添えた。
    「…………ありがと」
    小さな小さな声が、耳に届く。クリスは微笑んで、そっと彼女の背を撫でた。
    咲き誇れ、僕の想い人。僕に愛されて、愛されて、少しずつ気づけばいい。君が、可憐な女の子だってことに。二月の寒空に咲く、健気な花のように。
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    おひさま牧場

    CAN’T MAKEただの欲望
    変なことはしてません(キスだけ)(糖度120パーセント)
    岸辺露伴は笑わない
    それは薄い皮で包まれた、薄紅色をし、ふわりとした柔らかな感覚の人間にあるものだ。口を囲み、その人の人相を表すにも重要なものであるだろう。
    薄っぺらかったり、分厚かったり。前者なら少しクールに見え、後者ならセクシーに見える。ほら、意外にも大事なものだろう?

    唇に色を付ける人も少なくはない。むしろ成人女性達はまるで生活習慣かのように毎朝リップを唇に着色する。ぼくもそのうちの1人だろう。赤なら大人な女性、桃色なら可愛らしさを。黒や紫なら怪しさを。その人物のイメージをさらに増すものである。

    漫画で女性の表情を描いている際にふと思ったことだった。チラリ、と目線を紙から逸らすとぼくが学生の頃から愛用している緑色のリップグロスが目に入る。ブランドやら色味やら大してこだわりはないが、何年も変えずにこのものを使っている。何故なのかと言われてしまえば似合うから、その後の口は止まってしまうが確かに一風変わった色味だろう。同じようなメイクをしている女をぼくはあまり、否、殆ど見たことがない。不思議と言われてしまえばそれで終わりだ。
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