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    pkmn、aoom。デキてない二人。(45分)

    【aoom】キャリアトップチャンピオン。この肩書きを得るまでに、長い長い道のりを歩んできたような気もするし、気がついたら登り詰めていたような気もする。
    犠牲にしたものもあった。歯を食い縛って耐えたこともあった。それでもやってこれたのは、自らのキャリアに誇りを持っていたからだろう。
    「チャンピオン……としての業務は、あなたに任せられそうにもありませんね」
    「そうですね」
    低評価とも受け取れるオモダカの一言に、彼は素直に頷く。
    今後のキャリア形成に関する面談と称して呼び出した男と、話し込んでかれこれ三時間になる。彼の今後の業務内容についての話し合いは、最初の数十分でとっくに終わっていた。
    四天王とジムリーダーの兼任、これだけでも十分によくやってくれている。その上、「チャンピオン」としての業務を任せる訳にはいかないだろう。
    「あなたは嫌でしょう、そんな華々しい立場になるのは」
    「はい」
    何杯目かになるお茶を啜りながら、アオキは素っ気なく頷く。デスクについたオモダカを見る眼差しは、上司の話に付き合うサラリーマンのそれだ。
    「向いていませんよ。そもそも、これ以上残業の可能性があるポストなんて望んでいませんし」
    「でしょうね」
    ふと……彼女の胸中に、悪戯心が湧いた。長らく形容しがたい関係を築いてきたこの男に、突拍子もないことを言ってやったら、どんな顔をするのか。
    「ねえ、アオキ」
    「はい」
    湯呑みを両手で包んで、彼は程よく冷めた緑茶を堪能している。わざわざジョウト地方から取り寄せた玉露入りの緑茶は、口に合ったらしい。
    「どうします。私がトップチャンピオンの座を降りて、あなたのお嫁さんになりますと言ったら」
    「……はあ」
    ころんとした湯呑みをデスクに置こうとした彼の手が、空中で止まった。沈黙が流れる。アオキは、表情を変えない。
    「家庭に入って……内助の功、なるものを発揮する道だって、考えたことがない訳ではありませんよ」
    「ご冗談を」
    はは……と、アオキは「苦笑」と呼ぶのがぴったりの乾いた笑い声を漏らした。
    家庭に入る?内助の功?女性の生き方としてそれを否定する訳ではないが、彼女にはあまりにも似つかわしくない。似つかわしくない、というのも超えている。突然「今から博士号を取って、ポケモン研究の道に進もうと思う」と言われた方が、まだ現実味を帯びているだろう。
    「あら、そんなにおかしいでしょうか?いいでしょう、帰宅して私が夕飯を作って待っていたら」
    「それに……関しては、コメントを差し控えます」
    アオキはもはや、笑い声を立てるのを堪えていた。家で夫の帰りを待って、風呂を沸かし、夕飯を作って家庭を支えるオモダカ?また突拍子もないジョークだ。
    「何を笑うんです。私がお嫁さんになるのが、そんなにおかしいですか」
    「…………おかしいですね」
    「失礼な」
    「いや……もちろん、家庭を支えて輝く女性はたくさんいます。しかしあなたは……」
    堪えきれずに、アオキは噴き出した。あなたは……のあとに続く言葉が思いつかず、噎せる。
    彼女は……トップチャンピオンだ。パルデアを統べる、全ポケモントレーナーの憧れ。彼女という太陽は、ひとつの家庭を照らすためだけに在るには眩すぎる。少なくとも、アオキにとっては。
    「……もちろん、冗談ですよ。言うまでもないですが」
    「分かっています」
    少々笑いすぎたかなと思いながら、彼女の顔を伺う。……思わず、どきりとした。まるで、小さな夢を笑われた少女のような膨れっ面をしていたからだ。実現可能性のない、全くの冗談に過ぎないのに、そんな顔をするなんて。
    「これからもあなたの上司を辞めるつもりはありませんからね。これまで通り、しっかりお勤めに励んでくださいね」
    「ええ」
    ごまかすように、アオキは茶を啜った。深い苦味と甘味が、香りと共に心地よく喉を通る。
    ……もし、仮に。彼女を妻として迎えたら……そんな日が来るはずがないと分かってはいるが……彼女の淹れたお茶を、彼女の作った手料理を、日々味わうことになるのだろうか。
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